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4−2 選定日前夜
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午後6時―
私はいつものようにダイニングルームへやってきた。部屋には既に多くの令嬢達が集まっており、楽しげに談笑していた。しかし私がはいってきた途端、何故かその場にいたほぼ全員の令嬢たちが会話をやめ、さっと私の方に視線をやる。
「…?」
令嬢達は私の方を注視している。でもそれは当然かもしれない。選定日が近づくに連れ、令嬢達は私から魔石を奪おうと近付いてきたり、中には人を雇って襲わせようとしたこともあったが、全てユベールによって返り討ちうにされてきたからだ。私はユベールによって守られてはいるものの、それだけ他の令嬢たちからは恨みを持たれるようになり、今では完全に孤立していたのだ。
これが後5ヶ月も続くなんて…。
心が折れそうになるが、私はアンリ王子に約束させられてしまったので魔石探しの手抜きをするわけにはいかない。しかし、この針のむしろ状態は流石に耐え難かった。
けれど明日は最初の選定日という事もあり、普段にもましてピリピリした空気に包まれている。
何ともいたたまれない雰囲気でこの場を去ろうと思ったけれども、ユベールと待ち合わせをしているのでいなくなるわけにはいかない。全員の刺すような視線を感じつつ、一番奥のテーブルが空いていたのでそこに座った途端、見覚えのある令嬢たちが近付いてきて私が座るテーブル席の空いている椅子に座ってしまった。
「あ、あの…」
言いかけて私は口を閉ざした。何故ならそこにいた彼女たちは先程私達を襲って来た令嬢達だったからだ。
「全く良いご身分ね」
1人の令嬢が口を開いた途端、強い口調で言う。
「本当、あんな強い騎士を味方にするんですものね」
別の令嬢も私を睨みつけている。
「貴女の騎士のせいで私達が雇った騎士が怪我をしたのよ。慰謝料をくれないかしら?」
「そうね・・魔石30個と交換してもらおうかしら?」
1人の令嬢が滅茶苦茶な事を言う。
「ええっ?!何を言い出すんですか?!無理に決まってるじゃないですかっ!」
余りの申し出に身体がカッとなってしまい、思わず反論した。
「あら、ひょっとして30個集まっていないのかしら?」
最初に話しかけてきた令嬢が腕組みして私を見た。
「そ、それは…」
その時―。
「お前ら、いいかげんにしろ!」
強い口調で背後から声が聞こえた。
「ヒッ!」
魔石を交換しろと言ってきた令嬢が悲鳴を上げた。振り向くとそこに立っていたのはユベールだった。
「ユ、ユベール様…」
ユベールは令嬢たちを見ると言った。
「いいか、先に襲って来たのはお前達の方だ。もし、それで仮にシルビアが怪我をしたりしたら?お前達に慰謝料を請求する資格がシルビアにもあると言うことになるな」
「…」
ユベールの言葉に令嬢達は黙ってしまった。そして私達の様子を伺っている令嬢たちからはざわめきが起きている。
「…チッ!」
ユベールはわざと周囲に聞こえるかのように大きな舌打ちをすると私の右腕を掴んで立たせると言った。
「気分が悪い…行くぞ、シルビア」
「え?あ、あの行くってどちらへ?」
「こんな雰囲気の悪い場所で食事など食べられるか。他へ行くぞ」
そしてそのままユベールは私を連れて歩き出した。
「…」
私はなすすべもなくユベールに手を引かれて彼の後をついていく。そんな私達の姿を令嬢たちが視線で追っているのを背後に感じながら―。
ダイニングルームを出るとユベールが忌々しげに言った。
「…気に入らん」
「え?」
しかし、ユベールは私の方を振り向きもせずに歩き続け…気づけば私達は中庭へ出ていた。外は凍てつくような寒さだったけれども、先程の令嬢との揉め事で熱くなっていた身体には心地よかった。空を見上げると大きな満月と美しい星々が輝いている。
「きれーい…」
白い息を吐きながら夜空を見上げているとユベールが言った。
「城の者に命じよう…明日の朝食からはお前の食事は部屋に運ぶようにと」
「え?ユベール様…?」
「お前…今まで黙っていたかもしれないが、本当は食事のたびに嫌な思いをさせられてきたんじゃないか?俺が一緒に食事をしなかった時…あんな目にあっていたんじゃないのか?」
「…」
図星だ。だけど…ユベールに余計な気を回してもらうのは悪いと思って黙っていたのだ。
「何かあれば…俺に相談しろ。お前は俺の…」
そこでユベールは言葉を切った。
「え?」
何を言いかけたのだろう?
「お前は俺の仲間だからな」
ユベールはそれだけ言うと、少しだけ口元に笑みを浮かべた―。
私はいつものようにダイニングルームへやってきた。部屋には既に多くの令嬢達が集まっており、楽しげに談笑していた。しかし私がはいってきた途端、何故かその場にいたほぼ全員の令嬢たちが会話をやめ、さっと私の方に視線をやる。
「…?」
令嬢達は私の方を注視している。でもそれは当然かもしれない。選定日が近づくに連れ、令嬢達は私から魔石を奪おうと近付いてきたり、中には人を雇って襲わせようとしたこともあったが、全てユベールによって返り討ちうにされてきたからだ。私はユベールによって守られてはいるものの、それだけ他の令嬢たちからは恨みを持たれるようになり、今では完全に孤立していたのだ。
これが後5ヶ月も続くなんて…。
心が折れそうになるが、私はアンリ王子に約束させられてしまったので魔石探しの手抜きをするわけにはいかない。しかし、この針のむしろ状態は流石に耐え難かった。
けれど明日は最初の選定日という事もあり、普段にもましてピリピリした空気に包まれている。
何ともいたたまれない雰囲気でこの場を去ろうと思ったけれども、ユベールと待ち合わせをしているのでいなくなるわけにはいかない。全員の刺すような視線を感じつつ、一番奥のテーブルが空いていたのでそこに座った途端、見覚えのある令嬢たちが近付いてきて私が座るテーブル席の空いている椅子に座ってしまった。
「あ、あの…」
言いかけて私は口を閉ざした。何故ならそこにいた彼女たちは先程私達を襲って来た令嬢達だったからだ。
「全く良いご身分ね」
1人の令嬢が口を開いた途端、強い口調で言う。
「本当、あんな強い騎士を味方にするんですものね」
別の令嬢も私を睨みつけている。
「貴女の騎士のせいで私達が雇った騎士が怪我をしたのよ。慰謝料をくれないかしら?」
「そうね・・魔石30個と交換してもらおうかしら?」
1人の令嬢が滅茶苦茶な事を言う。
「ええっ?!何を言い出すんですか?!無理に決まってるじゃないですかっ!」
余りの申し出に身体がカッとなってしまい、思わず反論した。
「あら、ひょっとして30個集まっていないのかしら?」
最初に話しかけてきた令嬢が腕組みして私を見た。
「そ、それは…」
その時―。
「お前ら、いいかげんにしろ!」
強い口調で背後から声が聞こえた。
「ヒッ!」
魔石を交換しろと言ってきた令嬢が悲鳴を上げた。振り向くとそこに立っていたのはユベールだった。
「ユ、ユベール様…」
ユベールは令嬢たちを見ると言った。
「いいか、先に襲って来たのはお前達の方だ。もし、それで仮にシルビアが怪我をしたりしたら?お前達に慰謝料を請求する資格がシルビアにもあると言うことになるな」
「…」
ユベールの言葉に令嬢達は黙ってしまった。そして私達の様子を伺っている令嬢たちからはざわめきが起きている。
「…チッ!」
ユベールはわざと周囲に聞こえるかのように大きな舌打ちをすると私の右腕を掴んで立たせると言った。
「気分が悪い…行くぞ、シルビア」
「え?あ、あの行くってどちらへ?」
「こんな雰囲気の悪い場所で食事など食べられるか。他へ行くぞ」
そしてそのままユベールは私を連れて歩き出した。
「…」
私はなすすべもなくユベールに手を引かれて彼の後をついていく。そんな私達の姿を令嬢たちが視線で追っているのを背後に感じながら―。
ダイニングルームを出るとユベールが忌々しげに言った。
「…気に入らん」
「え?」
しかし、ユベールは私の方を振り向きもせずに歩き続け…気づけば私達は中庭へ出ていた。外は凍てつくような寒さだったけれども、先程の令嬢との揉め事で熱くなっていた身体には心地よかった。空を見上げると大きな満月と美しい星々が輝いている。
「きれーい…」
白い息を吐きながら夜空を見上げているとユベールが言った。
「城の者に命じよう…明日の朝食からはお前の食事は部屋に運ぶようにと」
「え?ユベール様…?」
「お前…今まで黙っていたかもしれないが、本当は食事のたびに嫌な思いをさせられてきたんじゃないか?俺が一緒に食事をしなかった時…あんな目にあっていたんじゃないのか?」
「…」
図星だ。だけど…ユベールに余計な気を回してもらうのは悪いと思って黙っていたのだ。
「何かあれば…俺に相談しろ。お前は俺の…」
そこでユベールは言葉を切った。
「え?」
何を言いかけたのだろう?
「お前は俺の仲間だからな」
ユベールはそれだけ言うと、少しだけ口元に笑みを浮かべた―。
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