命がけの恋~13回目のデスループを回避する為、婚約者の『護衛騎士』を攻略する

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
57 / 107

3−20 大衆酒場

しおりを挟む
 ユベールが連れてきてくれた店は大衆酒場のような店だった。店内は壁も床も天井も全て板張りで出来ている。広いホールにはやはり木製の丸テーブルに丸椅子が並べられ、15時という半端な時間にも関わらず店内は客で溢れかえっていたが、その殆どは男性客ばかりで、ざっと見渡した限り女性客は私1人のようにも思えた。そして混雑した店内の間を縫うように女性のウェイトレスたちがトレーを持って忙しそうに働いているが…彼女たちの来ている服が少々胸元が空いているのが気になった。 
店の客たちは殆どがアルコールを飲んでいる。

「あ、あの…ユベール様…」

何だか自分が酷く場違いな場所に来ているような気持ちになってしまい、ユベールに声を掛けた。

「ああ…分かってる。すまなかった。こんな店に連れてきてしまって…」

ユベールはメニューで私から顔を隠すように返事をする。私に謝った…という事は彼も恐らく自覚があったのだろう。

「ここは…よく騎士の仲間たちと夜食事に来ていたのだが、酒も食事もうまいんだ。昼間も営業している事を最近知って…昼なら女性客も来ているだろうと思っていたのだが…まさか、昼間も夜と殆ど変わりなかったとはな…」

ユベールはバツが悪そうに言うと、立ち上がった。

「別の店へ行こう。」

「え?良いですよ、別にそんな!」

折角店内に入って着席までしてしまったのに今更店を変わるなんて!

「しかし、こんな店では…お前も落ち着かないだろう?」

「私なら大丈夫ですから座って下さい」

立ち上がったユベールを無理やり座らせると言った。

「ここはユベール様のお気に入りの店ってことですよね?」

「あ、ああ…そうだ。特に料理の味が最高で…」

「ありがとうございます。嬉しいです」

私は笑みを浮かべてユベールを見た。

「え…?」

「ユベール様の行きつけのお店に連れてきてくれて嬉しかったです。だから私は是非、この店で食事がしたいです」

「シルビア…」

ユベールは以外そうな目で私を見ると、フッと笑みを浮かべた。

「よし。なら…このままこの店で食事をするか?」

「はい、そうですね」

「なら早速料理を注文するか。いいか、ここのおすすめメニューは…」

ユベールが自信を持って私に料理をすすめる様子は…どことなく嬉しそうに見えた…。




****

それから約1時間半後―。

私達のテーブルの上には空になった大皿が何枚も乗っていた。

「どうだった。この店の料理は?」

全ての料理を食べ終えた私にユベールが尋ねてきた。

「はい、どれもとても美味しかったです。特にお肉の香味揚げが最高でした」

「そうだろう?俺たちの間でもその肉料理が一番人気があるんだ」

「でしょうね。とても美味しかったですから」

「どうだ?最後に何か1杯飲むか?」

ユベールの言葉に驚いてしまった。まさか、あの生真面目なユベールからお酒の誘いがあるとは思わなかった。

「…」

穴の開くほど、ユベールを見つめていると彼は怪訝そうな顔で私を見た。

「何だ?その顔は…嫌ならやめるが?」

「いえ、嫌だなんてめっそうもありません。ではワイン1杯位なら…」

「よし、分かった。では頼むか」

私達は店内を見渡したが、店の中は相変わらず混雑していてウェイトレスが見当たらない。

「仕方ない。直接カウンターへ行って注文してくるからお前はここで待っていろ」

「はい」

ユベールは席を立って店のカウンターへと向かっていく。その姿を見届けていると、いきなり何者かが私の右側の椅子にドスンと座ってきた。

「え?」

驚いてそちらを見ると、そこには柄の悪そうな顔に傷がある男が座っていた。更に左側にも同じような若者が座って来たのだ。

「あ、あの…?」

いきなり見知らぬ男2人に挟まれて、私は恐怖を感じた―。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——?

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

処理中です...