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3−13 高価な軟膏

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 2人で私の部屋へ向かいながらユベールが尋ねてきた。

「シルビア…今日は出かけるのをやめたほうが良いんじゃないか?」

歩きながら突如ユベールが言った。

「え?何故ですか?」

「何故かって?当たり前の事を聞くな。お前は男に襲われて、挙句の果てに床に身体を打ち付けて気絶を…!」

その時、何を思ったのか突然ユベールが立ち止まって私の肩をつかんだ。

「な、何ですか?」

慌ててユベールを見上げると、彼は私の右腕の袖をグイッとまくった。

「…痣になってるじゃないか」

ため息まじりに言う。

「あ…それは…」

どうやら手首から少しだけ見えている部分が赤黒くなっているのが見えたようだ。

「何故黙っていたんだ?痛むんだろう?」

「い、いえ。それほどでも…」

ここで身体の不調を訴えれば折角ユベールが一緒に外出してくれるチャンスを逃してしまうので私は黙っていたのだ。

「お前、俺に心配掛けさせない為に黙っていたのだろう?」

「え、ええ…」

「とりあえず、お前を部屋まで送る。俺は少し自室に用事が出来たから一旦部屋に戻るが、また後で迎えに来るからそれまで部屋で休んでいろ」

「はい、分かりました」


そしてユベールは私を部屋まで送ると、言葉通り本当に去っていってしまった。



****

 今度は紺色のワンピースに着替えて、ベッドの上で休んでいた。30分ほど経過したとき、ノックの音が聞こえた。

「シルビア、俺だ」

その声にベッドから起き上がり、扉に向かってカチャリと開けるとそこには先程の服装にジャケットを羽織ったユベールが立っていた。右腕には防寒コートを持っている。

「ユベール様。お待ちしておりました」

「中に入っても良いか?」

え?
ユベールの言葉に驚いたが、断って彼の機嫌を損ねたくなかったので頷いた。

「ええ、どうぞ」

扉を開放するとユベールが入ってきた。

「お邪魔する」

そして部屋の中に入ると言った。

「シルビア、この椅子に座れ」

ユベールにソファに座るように促されたので座ると、突然ユベールが私の前に膝を付き、右腕の袖をまくってきた。

「え?な、何を?!」

慌てるとユベールがポケットから小瓶を取り出して、私に見せると言った。

「これは騎士団に支給されている軟膏だ。切り傷や打ち身にもよく効く薬なんだ。何しろ魔力が含まれているからな」

「そうなんですか?」

そしてユベールは瓶の蓋を取ると、私の痣の部分に塗った。すると驚くことに塗った側から痛みがひいていく。それに徐々に痣も薄くなっていくのが目に見えて分かった。

「どうだ?よく効くだろう?」

ユベールは私を見ると言った。その声はいつもよりも優しく聞こえた。

「はい、ありがとうございます。でも…この薬、すごく高いんじゃありませんか?」

「ああ、そうだな。この瓶一つで金貨1枚だと聞いている」

そして塗り終わった瓶をテーブルの上に置くと言った。

「この塗り薬はお前にやろう。持っていると良い」

「駄目ですよ!そんな高級なもの頂けません!」

「構わない。無くなればすぐに支給してくれるのだから。それにお前にはこの薬は必要そうだからな。この先も…」

ユベールは神妙な顔つきで言った。

「それは…この先も私が誰かに狙われるって事ですよね?」

「ああ、そうだ。俺が悪かったんだ。お前を1人にしてしまったから…」

「そう言えば私を襲った犯人はどうなったのですか?」

「ああ、あいつなら痛めつけておいた。何しろお前に乱暴な事をしたからな。その後、俺の部下を呼び寄せて捕らえ、牢屋に入れるように命じておいた」

ユベールの言葉に息を飲んだ―。


 
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