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1-22 危険なゲーム

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「おや?君は確か…?」

アンリ王子が首を傾げるとイメルダは言った。

「イメルダ・マーフィーと申します。どうぞお見知りおきを。アンリ王子様」

深紅のドレスを身にまとったイメルダはまるでアンリ王子を誘惑するかのような妖艶な笑みを浮かべて見つめた。そしてそんなイメルダを睨み付けているジュリエッタ。

「ああ、確か君は侯爵令嬢マーフィー家の出身だったね。マーフィー家の人間と言えば、過去300年以内に魔術師を輩出している家系としても有名だ」

「ええ。そうですわ。なので私にかかればそんな魔石等簡単に見つけ出す事が出来ます」

腕組みしながらイメルダは自信たっぷりに言う。そんなイメルダを見て、他の令嬢たちは不安げにざわめいている。恐らく、魔力にあまり自信が無いのだろう。その証拠に今回インチキをしてこのグループの一員となったコーネリアは顔が真っ青になって震えている。

「フフ…君は相当自信があるようだね。確かに君の魔力は他の令嬢達に比べて飛びぬけて高いと思うよ。でもそれでは誰が勝ち残るかは目に見えて分るだろう?あまりにもつまらないと思わないかい?」

アンリ王子は意味深な事を言う。

「え…?」

途端にイメルダの顔が曇る。

「ゲームには普通、色々なルールが適用されるだろう?あれはしては駄目。これをしては失格、等々…だから、僕はそれらのすべてのルールを撤廃する」

アンリ王子は再び魔石を取り出すと言った。

「これから君達には毎月月末に獲得した魔石の数を見せてくれればいい。どんな手を使ってもいい。この城中に隠された魔石を指定された個数以上集めれば勝ち残りとするよ。あ、事前に言っておくけど、・・魔石の複製は不可能だからね?」

どんな手を使ってもいい…?一体それはどういう意味なのだろう?

「つまり、この魔石は他人から奪ってもいいって事さ。例え、どんな方法を使ってもね…?」

「!」

途端にざわめく令嬢達。

「仲間が多ければ魔石を探しやすいだろうけど、結局グループで勝ち残っても最終的には個人が選ばれることになるわけだしね。仲間内で魔石を巡って争いが起こるかもしれない。それにどこにも属さず、1人で探せばそれだけ負担も多くなるし、仮に魔石が集まったとしても、奪われてしまうかもしれない。だから魔石を探す仲間は誰を選んでもいい事にしようと思っているんだ。この城の人間たちを仲間にするのもありだよ?最も魔石を隠したのはこの僕とジュリエッタの2人で隠したから、城の皆は一切何も知らない。大体魔力も皆持っていないしね。でも闇雲に探せばひょっとすると偶然魔石を見つける事が出来るかもしれない。さあ…どうする?今なら棄権する事だって出来るよ?」

アンリ王子は笑みを浮かべながら言う。そしてその隣に座るジュリエッタはまるで悪女のように微笑んでいる。

「な、何て事なの…」

思わず口の中で呟いてしまった。
こんなことは過去のループで一度も起こらなかった。ひょっとするとアンリ王子は始めから今回のテストを受けに来た令嬢達を全員棄権させるつもりだったのだろうか?
だけど…
アンリ王子。残念ながら貴方はまだまだ甘い。彼女たちはきっと…。

「そうなのですね?どんな手を使ってもいのですね?」
「それなら俄然やる気が出てきましたわ!」
「絶対に負けないわ!」

逆に令嬢たちのやる気に火をつけただけだった。彼らは皆財力のある令嬢たちばかりだ。お金に糸目をつけず、全力でこの勝負に挑むだろう。まあ、中には実家の後ろ盾を望めない令嬢達も数人いるが・・彼女たちだって、実家の家紋の名誉を背負って送り込まれたのだ。決して棄権する事は無いだろう。
そして一方の私は …。

「棄権しましょう。」

今夜にでも棄権する事を申しでて、早々にこの城を出るのだ。そうすれば私は確実にこの訳の分からない「デスループ」から抜けられる。大体、こんな方法を取れば魔石を巡って殺人事件が起こるかもしれない。

ゴーン
ゴーン
ゴーン

その証拠に…私の死に際にいつも聞こえてくる鐘の音が今もどこかで鳴り響いている。微かに響く鐘の音を聞きながら、私はこのゲームから棄権する事を心に決めた。

だけど、この時の私はまだ知らなかった。自分がもうこの状況から逃れられない運命に置かれていたと言う事に―。
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