17 / 107
1-16 過去の記憶 <デスループ 6回目>
しおりを挟む
あれは6回目のループの時に訪れた死だった―。
<デスループ 6回目>
弓矢による射殺
前日に最終試験で私がアンリ王子の婚約者として選ばれた翌日だった。アンリ王子がジュリエッタと3人だけのささやかなお祝いをしたいと言う伝言を持ってユベールが朝食の席に現れたのだ。
ドサッ!
私はダイニングルームで朝食を食べていると、不意に目の前の椅子にユベールが音を立てて座って来た。そして彼は腕組みをして私を見ている。
「あの・・ユベール様。私に何か御用でしょうか・・?」
「お前に伝言を持ってきた。」
ユベールは愛想笑いする事も無く言った。
「伝言・・・?」
首を傾げるとユベールは続けた。
「昨日、お前がアンリ王子の婚約者に決定しただろう?その祝いとしてアンリ王子とジュリエッタがお前を森の中のコテージに招待したいそうなのだ。」
「え・・・?ジュリエッタ様もですか・・・?」
そんな・・ジュリエッタ嬢はアンリ王子と恋人同士。そんな彼女が私とアンリ王子の婚約決定の祝いの席に同席するだなんて・・普通に考えてみてもあり得ない行動だ。何だか嫌な予感がする・・それにどんな顔をして私は参加すればいいのだろう・・。
その時、ユベールが言った。
「何だ・・?その不満そうな顔は・・。」
「え・・?」
ユベールを見ると、彼の顔は明らかに怒りを込めて私を見つめている。
「お前はもしかしてジュリエッタが邪魔なのか?だからそんなに不満そうな顔をしているのか?」
「い、いえ。不満なんて、とんでもありません。ただ私は・・いえ、私みたいな人間がお2人の間に割って入っていいものかと思って・・・」
すると何故かますますユベールの顔は不機嫌になっていく。
「何故そんな言い方をする。お前はアンリ王子の正式な婚約者に選ばれた人間だ。何故そこで自分を卑下するような言い方をする?いや・・それ以前にお前のその言い方だとまるでアンリ王子とジュリエッタの仲を疑っているようなものではないかっ?!」
いやいや・・疑うも何も2人が恋人同士だと言う事を知らない候補生は誰もいなかった。
「す、すみません・・出過ぎた言い方をしてしまいました。分りました・・是非参加させて頂きます」
これ以上ユベールの機嫌を損ねる訳には行かないので、私は不承不承、承諾した。
「全く・・最初から素直に従っていれば良かったのだ。では11時にお前の部屋に迎えに行くから用意をして待っていろよ」
「はい・・分かりました・・」
項垂れて返事をするとユベールは機嫌が悪そうに立ち上がると去って行った。
「はあ・・・」
私は一気に食欲がなくなり、ほとんど口を付ける事無く席を立った―。
11時―
コンコン
ノックの音が聞こえ、私はドアを開けた。やはりそこに立っていたのはユベールだった。
「準備は出来ているか?」
ろくに挨拶も無しにユベールは尋ねた。
「はい、ご覧の通り出来ております」
しかし、何故かユベールは眉を潜める。
「お前・・そんな恰好で行くのか?」
「え?何か変ですか?」
私は自分の姿を見ると言った。今私が着ているのは外出用の半そでのワンピースだった。
「ドレスは無いのか?申請すれば支給されただろう?」
「ええ・・・特に必要としていませんし・・父からは贅沢をしないように言われていますから。領民たちの貴重な税金を無駄にしないように言いつけられてきたので」
「ふ~ん・・そうか・・」
ユベールは少し思案するような顔をしたが、すぐにいつもの仏頂面になった。
「よし、なら行くぞ」
「はい、分りました」
そして私はユベールの護衛で馬車に乗り、森の中のコテージへと向かった―。
****
森の中にひっそりとたたずむコテージ。そこには既にアンリ王子とジュリエッタの姿があった。
「良く来てくれたね?僕の婚約者のシルビア」
「いらっしゃい、シルビアさん。まあ・・随分地味な姿でいらしたのね?」
ジュリエッタはレースをふんだんにあしらった、まるで水をまとったかのような豪華なドレスを着用していた。
「ええ・・私はこのワンピースで十分です」
一体あのドレス・・どれだけの血税が使われたのだろう・・?私は豪華なドレスの素晴らしさよりもそちらの方が気がかりだった。
「・・・。」
ユベールは黙ってジュリエッタを見つめている。
「さあ、それでは我々だけのパーティーを始めよう」
アンリ王子の言葉から、パーティーが始まったのだが、主役はもはやジュリエッタだった。
王宮の合奏団の曲に合わせてダンスを踊るアンリ王子とジュリエッタ。
私とアンリ王子は絶対に踊る事は無い。ユベールと2人のダンスをお茶を飲みながら眺めていた。私はチラリとユベールを見ると、彼は食い入るようにジュリエッタを熱い視線で見つめている。・・・気の毒なユベール。貴方はジュリエッタの事が好きなのね・・。
やがてダンスが終わり、ジュリエッタの提案で森の中で弓矢を使って小動物の獲物をアンリ王子とユベール、そして数人の従者たちと争う事になった。森の中へ入って行く彼らの後を何故か私とジュリエッタもついていく。
「ふふ・・誰が獲物を捕らえるかしらね?」
ジュリエッタが耳元で言う。
「さ、さあ・・?誰かしら?」
私はそんな事よりも残酷な事はやめてほしかった。
「シルビアさん。下手に動くと危ないから貴女はここにいたほうがいいわ」
「え、ええ・・・」
「私は向こうで見ているからね?」
ジュリエッタはいたずらっぽく笑うと、その場を去って行く。
「・・・。」
少しの間その場で立って待っていたその時・・
ヒュッ!!
風を切るような鋭い音と共にドスッ!と何かが突き刺さる音が聞こえた。それと同時に胸に激しい痛みが襲ってくる。
「え・・?」
その時、私は自分の胸元に深々と弓矢が刺さっていることに気が付いた。胸からは血がにじんでいる。そして口元からは鉄のような味が込み上げてくる。
ゴーン
ゴーン
ゴーン
ああ・・鐘の音が聞こえる・・・・
ドサッ!
地面に倒れた私の意識が急激に薄れてゆく・・そして誰かがこちらへ駆けつけてくる姿が見えた。その人物は・・。
「ユ・・・ユベール・・・・」
ゴーン
ゴーン
ゴーン
そして私は・・・6度目の死を迎えた―。
<デスループ 6回目>
弓矢による射殺
前日に最終試験で私がアンリ王子の婚約者として選ばれた翌日だった。アンリ王子がジュリエッタと3人だけのささやかなお祝いをしたいと言う伝言を持ってユベールが朝食の席に現れたのだ。
ドサッ!
私はダイニングルームで朝食を食べていると、不意に目の前の椅子にユベールが音を立てて座って来た。そして彼は腕組みをして私を見ている。
「あの・・ユベール様。私に何か御用でしょうか・・?」
「お前に伝言を持ってきた。」
ユベールは愛想笑いする事も無く言った。
「伝言・・・?」
首を傾げるとユベールは続けた。
「昨日、お前がアンリ王子の婚約者に決定しただろう?その祝いとしてアンリ王子とジュリエッタがお前を森の中のコテージに招待したいそうなのだ。」
「え・・・?ジュリエッタ様もですか・・・?」
そんな・・ジュリエッタ嬢はアンリ王子と恋人同士。そんな彼女が私とアンリ王子の婚約決定の祝いの席に同席するだなんて・・普通に考えてみてもあり得ない行動だ。何だか嫌な予感がする・・それにどんな顔をして私は参加すればいいのだろう・・。
その時、ユベールが言った。
「何だ・・?その不満そうな顔は・・。」
「え・・?」
ユベールを見ると、彼の顔は明らかに怒りを込めて私を見つめている。
「お前はもしかしてジュリエッタが邪魔なのか?だからそんなに不満そうな顔をしているのか?」
「い、いえ。不満なんて、とんでもありません。ただ私は・・いえ、私みたいな人間がお2人の間に割って入っていいものかと思って・・・」
すると何故かますますユベールの顔は不機嫌になっていく。
「何故そんな言い方をする。お前はアンリ王子の正式な婚約者に選ばれた人間だ。何故そこで自分を卑下するような言い方をする?いや・・それ以前にお前のその言い方だとまるでアンリ王子とジュリエッタの仲を疑っているようなものではないかっ?!」
いやいや・・疑うも何も2人が恋人同士だと言う事を知らない候補生は誰もいなかった。
「す、すみません・・出過ぎた言い方をしてしまいました。分りました・・是非参加させて頂きます」
これ以上ユベールの機嫌を損ねる訳には行かないので、私は不承不承、承諾した。
「全く・・最初から素直に従っていれば良かったのだ。では11時にお前の部屋に迎えに行くから用意をして待っていろよ」
「はい・・分かりました・・」
項垂れて返事をするとユベールは機嫌が悪そうに立ち上がると去って行った。
「はあ・・・」
私は一気に食欲がなくなり、ほとんど口を付ける事無く席を立った―。
11時―
コンコン
ノックの音が聞こえ、私はドアを開けた。やはりそこに立っていたのはユベールだった。
「準備は出来ているか?」
ろくに挨拶も無しにユベールは尋ねた。
「はい、ご覧の通り出来ております」
しかし、何故かユベールは眉を潜める。
「お前・・そんな恰好で行くのか?」
「え?何か変ですか?」
私は自分の姿を見ると言った。今私が着ているのは外出用の半そでのワンピースだった。
「ドレスは無いのか?申請すれば支給されただろう?」
「ええ・・・特に必要としていませんし・・父からは贅沢をしないように言われていますから。領民たちの貴重な税金を無駄にしないように言いつけられてきたので」
「ふ~ん・・そうか・・」
ユベールは少し思案するような顔をしたが、すぐにいつもの仏頂面になった。
「よし、なら行くぞ」
「はい、分りました」
そして私はユベールの護衛で馬車に乗り、森の中のコテージへと向かった―。
****
森の中にひっそりとたたずむコテージ。そこには既にアンリ王子とジュリエッタの姿があった。
「良く来てくれたね?僕の婚約者のシルビア」
「いらっしゃい、シルビアさん。まあ・・随分地味な姿でいらしたのね?」
ジュリエッタはレースをふんだんにあしらった、まるで水をまとったかのような豪華なドレスを着用していた。
「ええ・・私はこのワンピースで十分です」
一体あのドレス・・どれだけの血税が使われたのだろう・・?私は豪華なドレスの素晴らしさよりもそちらの方が気がかりだった。
「・・・。」
ユベールは黙ってジュリエッタを見つめている。
「さあ、それでは我々だけのパーティーを始めよう」
アンリ王子の言葉から、パーティーが始まったのだが、主役はもはやジュリエッタだった。
王宮の合奏団の曲に合わせてダンスを踊るアンリ王子とジュリエッタ。
私とアンリ王子は絶対に踊る事は無い。ユベールと2人のダンスをお茶を飲みながら眺めていた。私はチラリとユベールを見ると、彼は食い入るようにジュリエッタを熱い視線で見つめている。・・・気の毒なユベール。貴方はジュリエッタの事が好きなのね・・。
やがてダンスが終わり、ジュリエッタの提案で森の中で弓矢を使って小動物の獲物をアンリ王子とユベール、そして数人の従者たちと争う事になった。森の中へ入って行く彼らの後を何故か私とジュリエッタもついていく。
「ふふ・・誰が獲物を捕らえるかしらね?」
ジュリエッタが耳元で言う。
「さ、さあ・・?誰かしら?」
私はそんな事よりも残酷な事はやめてほしかった。
「シルビアさん。下手に動くと危ないから貴女はここにいたほうがいいわ」
「え、ええ・・・」
「私は向こうで見ているからね?」
ジュリエッタはいたずらっぽく笑うと、その場を去って行く。
「・・・。」
少しの間その場で立って待っていたその時・・
ヒュッ!!
風を切るような鋭い音と共にドスッ!と何かが突き刺さる音が聞こえた。それと同時に胸に激しい痛みが襲ってくる。
「え・・?」
その時、私は自分の胸元に深々と弓矢が刺さっていることに気が付いた。胸からは血がにじんでいる。そして口元からは鉄のような味が込み上げてくる。
ゴーン
ゴーン
ゴーン
ああ・・鐘の音が聞こえる・・・・
ドサッ!
地面に倒れた私の意識が急激に薄れてゆく・・そして誰かがこちらへ駆けつけてくる姿が見えた。その人物は・・。
「ユ・・・ユベール・・・・」
ゴーン
ゴーン
ゴーン
そして私は・・・6度目の死を迎えた―。
10
お気に入りに追加
337
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる