6 / 107
1-5 過去の記憶 <デスループ 1回目>
しおりを挟む ぼんやりしながら机に向かい、アシュルから来た何枚もの手紙を眺める。入学してからというもの毎日手紙が送られてくる。健気な弟が可愛い。早く返事を書かなければ、もう何日も返していない。このところ気持ちが落ち着かなくて、ウェルとのことを何度も夢に見た。記憶を辿り、いつウェルに嫌われたのか何故嫌われたのか、ぐるぐると考え込んでは落ち込んで堂々巡り。生徒会はしばらくお休みを貰っているが、この間なんて授業中に注意力散漫だと叱られた。筆を持ち、紙を広げたのは良いが何も書けない。
『お兄ちゃん、ウェルに嫌われたみたいだ。』
書きはじめてスラスラと浮かび上がった文は情けないものだった。こんなこと書いて送ったらアシュルが心配する。ダメだ、ダメだと紙を丸める。先程からこの行為の繰り返し。手紙は進まないどころか一枚も書けていない。
「そんなに悩んで、誰に書いてるの?」
肩にぽすりと誰かの手が乗る。珍しいことに驚いて身体が大げさに跳ねる。とは言え、この部屋にいるのは一人だけ。軽薄にも聞こえる声の主は初対面だというのに絶対に仲良くなれないと思った相手、キルト・ウィチルダ。顔がいいのと同室なのもあり確実にフランドール側の攻略対象。華奢な本来のフランドールならば一瞬でコイツに犯されていただろう…。なぜならコイツは同室だと言うのに何度も何度も美少年を連れ込んでいる、マセガキだなんて言ってられない正真正銘のヤリチンだからだ!
「ウィチルダくんには関係ないだろ。急になんだ、俺みたいなのは嫌だと言ったのはウィチルダくんだろう?」
「…‥あの時のことはごめんね? ほら、聞いてたイメージと違って驚いたんだよ。ホントごめんね、許して?」
「……。」
許さん、そんな犬みたいな顔をされても許さんぞ!
それにお前には、まだまだ言いたいことがあるんだ!
ええい、この際だだから言ってやるっ。
「それから何度も言うが、遊び相手を部屋に呼ぶな!」
「そ、それもごめん、もうしない。呼ばないよ、これからは誰ともしない。」
「…なんだ、やけに素直だな。」
まっすぐこちらを見る瞳は真剣そのものだ。
そんなふうに素直になられたら、これ以上怒れないじゃないか…。
案外、良い子なのだろうか?
「それよりさ、さっきから何に悩んでるの? 手紙、書けないの? 誰に書いてるの?」
「うっ、質問が多いな。弟だよ、血は繋がってないが健気で可愛くてな。毎日、送ってきてくれるんだ。ただ、最近は…その…あまり上手くいかない事が多くて、何を書けばいいのか。」
「上手くいかない? もしかしてウェルギリウス殿下とのこと?」
「んっ、まぁ、なんか嫌われちまったっていうか。」
「どうして?」
「……わかんねぇ。」
「それ、僕に話してみない?」
優しく問いかけられると、解れるみたいに言葉が出ていく。なんか、頭がぼんやりしてきた。じわじわと目頭が熱くなる。なんか話してたら、悲しくなってきた。笑いあったことも話したことも夢も、今まで楽しかったこと全部、無かったみたいで。ウェルから逸らされる視線や冷たい声が怖い。どうしても婚約破棄のことは言えない…でも、ウィチルダの相槌のタイミングとか急かさない感じとか、なんか話しやすくて気持ちが溢れる。言ってしまいたい…、聞いてほしい、いいや、ダメだ。どうしてこんなに話したくなってしまうのだろう。俺に兄はいない、でもいたとしたらこんな感じなのだろうか…? 丁寧に畳まれたハンカチで俺の濡れた顔をウィチルダが拭いてくれる。恥ずかしい、情けない姿、コイツに見られてるんだ。たぶんまた身体の方の年齢にひっぱられて…。
「ウェル…っ、殿下と話がしたいんだ…。」
「フランドールくんはウェルギリウス殿下のことが好きなの?」
「えっ、ああ、親友だと思っている。殿下はそう思ってはいなかったみたいだがな。」
「ふぅん、殿下は思ってない、ね。」
含みのある微笑み、いや、ニヤ付きを浮かべたウィチルダの顔。急に現実に引き戻されて、俺は我に返った。
って、なんで俺はウィチルダにこんなこと話してんだっ。
あ~~~~っ!
くそっ、騙されそうになった!
美少年連れ込んでは食い荒らしてるやつの口車に乗せられたっ。
今、なんか変だった!
コイツは面白がってる。
絶対そう!
でなきゃ、こんな真面目に話し聞いてくれるのなんておかしい。
貞操観念ゆるゆる野郎だぞ!
俺の弱みでも握ろうとしてるんだ。
「…っ、今のは無しだ!」
「え? 解けちゃった…?」
「あ? お前、何か企んでるだろう。」
「へっ⁉…あ、いや、そんなことっ。」
「入学してから今の今までまともな会話もなく、挙げ句少し話せば喧嘩を売ってくる。企みがあるに決まっている、そうでなければおかしい!」
椅子から立ち上がり、名探偵風に指をさすと、ウィチルダは顔を引き攣らせた。
明らかに狼狽えている。
やはりな、俺の目はごまかせない!
はぁ~と溜息を吐き、まいったと手を上げる。俺は勝ち誇った顔でフンと腕を組む。いやぁ~!気持ちがいいなっ。満足したところで、コツコツと窓ガラスを叩く音がして意識をそっちに向ける。伝書鳩が手紙と何かをぶら下げていた。きっとアシュルからだろう、俺はそれを受け取るべく窓辺に向かい手を伸ばした。
「えっ、なにっ…。」
突然、背後に気配を感じたと思ったら肩と腰から腕が見えた。背には人の温かな体温。しがみつくみたいに、ぎゅっと張り付いている。
こ、これは、もしかして…。
抱きしめられている、のか?
えっ⁉ なんでぇ⁉
怖いっ!
「うぃ、うぃちるだく~ん?」
離してくれないかと、腕を優しく叩くが動かない。
くっ、今度は、なんか弟みたいでっ。
おれ、年下とか犬系に弱いんだよう…。
顔を背に埋められ身動きがとれない。どうしようかと混乱しながら考えていると、抱きしめる力が更に強くなった。
「好きだ、フランドールくん。
ウェルギリウス殿下のことは忘れたっていいだろう…?」
『お兄ちゃん、ウェルに嫌われたみたいだ。』
書きはじめてスラスラと浮かび上がった文は情けないものだった。こんなこと書いて送ったらアシュルが心配する。ダメだ、ダメだと紙を丸める。先程からこの行為の繰り返し。手紙は進まないどころか一枚も書けていない。
「そんなに悩んで、誰に書いてるの?」
肩にぽすりと誰かの手が乗る。珍しいことに驚いて身体が大げさに跳ねる。とは言え、この部屋にいるのは一人だけ。軽薄にも聞こえる声の主は初対面だというのに絶対に仲良くなれないと思った相手、キルト・ウィチルダ。顔がいいのと同室なのもあり確実にフランドール側の攻略対象。華奢な本来のフランドールならば一瞬でコイツに犯されていただろう…。なぜならコイツは同室だと言うのに何度も何度も美少年を連れ込んでいる、マセガキだなんて言ってられない正真正銘のヤリチンだからだ!
「ウィチルダくんには関係ないだろ。急になんだ、俺みたいなのは嫌だと言ったのはウィチルダくんだろう?」
「…‥あの時のことはごめんね? ほら、聞いてたイメージと違って驚いたんだよ。ホントごめんね、許して?」
「……。」
許さん、そんな犬みたいな顔をされても許さんぞ!
それにお前には、まだまだ言いたいことがあるんだ!
ええい、この際だだから言ってやるっ。
「それから何度も言うが、遊び相手を部屋に呼ぶな!」
「そ、それもごめん、もうしない。呼ばないよ、これからは誰ともしない。」
「…なんだ、やけに素直だな。」
まっすぐこちらを見る瞳は真剣そのものだ。
そんなふうに素直になられたら、これ以上怒れないじゃないか…。
案外、良い子なのだろうか?
「それよりさ、さっきから何に悩んでるの? 手紙、書けないの? 誰に書いてるの?」
「うっ、質問が多いな。弟だよ、血は繋がってないが健気で可愛くてな。毎日、送ってきてくれるんだ。ただ、最近は…その…あまり上手くいかない事が多くて、何を書けばいいのか。」
「上手くいかない? もしかしてウェルギリウス殿下とのこと?」
「んっ、まぁ、なんか嫌われちまったっていうか。」
「どうして?」
「……わかんねぇ。」
「それ、僕に話してみない?」
優しく問いかけられると、解れるみたいに言葉が出ていく。なんか、頭がぼんやりしてきた。じわじわと目頭が熱くなる。なんか話してたら、悲しくなってきた。笑いあったことも話したことも夢も、今まで楽しかったこと全部、無かったみたいで。ウェルから逸らされる視線や冷たい声が怖い。どうしても婚約破棄のことは言えない…でも、ウィチルダの相槌のタイミングとか急かさない感じとか、なんか話しやすくて気持ちが溢れる。言ってしまいたい…、聞いてほしい、いいや、ダメだ。どうしてこんなに話したくなってしまうのだろう。俺に兄はいない、でもいたとしたらこんな感じなのだろうか…? 丁寧に畳まれたハンカチで俺の濡れた顔をウィチルダが拭いてくれる。恥ずかしい、情けない姿、コイツに見られてるんだ。たぶんまた身体の方の年齢にひっぱられて…。
「ウェル…っ、殿下と話がしたいんだ…。」
「フランドールくんはウェルギリウス殿下のことが好きなの?」
「えっ、ああ、親友だと思っている。殿下はそう思ってはいなかったみたいだがな。」
「ふぅん、殿下は思ってない、ね。」
含みのある微笑み、いや、ニヤ付きを浮かべたウィチルダの顔。急に現実に引き戻されて、俺は我に返った。
って、なんで俺はウィチルダにこんなこと話してんだっ。
あ~~~~っ!
くそっ、騙されそうになった!
美少年連れ込んでは食い荒らしてるやつの口車に乗せられたっ。
今、なんか変だった!
コイツは面白がってる。
絶対そう!
でなきゃ、こんな真面目に話し聞いてくれるのなんておかしい。
貞操観念ゆるゆる野郎だぞ!
俺の弱みでも握ろうとしてるんだ。
「…っ、今のは無しだ!」
「え? 解けちゃった…?」
「あ? お前、何か企んでるだろう。」
「へっ⁉…あ、いや、そんなことっ。」
「入学してから今の今までまともな会話もなく、挙げ句少し話せば喧嘩を売ってくる。企みがあるに決まっている、そうでなければおかしい!」
椅子から立ち上がり、名探偵風に指をさすと、ウィチルダは顔を引き攣らせた。
明らかに狼狽えている。
やはりな、俺の目はごまかせない!
はぁ~と溜息を吐き、まいったと手を上げる。俺は勝ち誇った顔でフンと腕を組む。いやぁ~!気持ちがいいなっ。満足したところで、コツコツと窓ガラスを叩く音がして意識をそっちに向ける。伝書鳩が手紙と何かをぶら下げていた。きっとアシュルからだろう、俺はそれを受け取るべく窓辺に向かい手を伸ばした。
「えっ、なにっ…。」
突然、背後に気配を感じたと思ったら肩と腰から腕が見えた。背には人の温かな体温。しがみつくみたいに、ぎゅっと張り付いている。
こ、これは、もしかして…。
抱きしめられている、のか?
えっ⁉ なんでぇ⁉
怖いっ!
「うぃ、うぃちるだく~ん?」
離してくれないかと、腕を優しく叩くが動かない。
くっ、今度は、なんか弟みたいでっ。
おれ、年下とか犬系に弱いんだよう…。
顔を背に埋められ身動きがとれない。どうしようかと混乱しながら考えていると、抱きしめる力が更に強くなった。
「好きだ、フランドールくん。
ウェルギリウス殿下のことは忘れたっていいだろう…?」
11
お気に入りに追加
337
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる