60 / 81
4章 13 逃げませんか?
しおりを挟む
「失礼いたします……」
リュックの右肩に触れると、頭の中で彼の腕が元通りに動けるように必死で念じる。
「「「「「……」」」」」
その様子をじっと見守る5人。
「……どうですか? 何か感じますか?」
手を離すと、まるで怪しい霊能力者のようなセリフを口にする私。
「う~ん……どうでしょう?」
当然首を捻るリュック。
「リュック、ちょっと腕が動くか試してみろよ」
「そうだな」
サムに促されリュックは右腕を動かそうとし……。
「……駄目です。ピクリとも動きません」
「そうですか。駄目ですか……申し訳ありません」
あぁ、やっぱりね。そうだと思ってた。だって私は聖女様なんかじゃないもの。
偽物聖女に動かなくなった腕を治せるはずはない。
それなのに――
「う~ん。今日のリアンナ様は何だか調子が悪いみたいです。神力を使い果たしてしまったのかもしれませんね」
ニーナがとんでもない台詞を口にする。
「えっ!?」
神力なんて、元々持っていませんけど!? これでは増々、私は詐欺師になってしまうじゃない!
これには流石にジャンとカインも驚いたようだ。
「おい! ニーナッ!! なんて事言うんだよ!」
ジャンが血相変えて叫ぶも、ニーナは気にする素振りも無く私に話しかけてきた。
「リアンナ様、神力を回復する儀式を行いましょう」
「え? ぎ、儀式……?」
儀式……儀式……一体何のことだろう?
するとニーナが私の耳もとで囁いた。
「ウクレレを演奏して下さい。大丈夫、きっと何らかの奇跡が起こるに決まっています」
ウクレレを演奏する? そんなことをしたって何もならないのに?
だけど、助けてあげられなかったお詫び位するべきだろう。
「そうね。ウクレレを演奏することにするわ」
ウクレレを演奏して、神のご加護がありますように……とでも言って、誤魔化すしか無い!
私は心に決めると立ち上がった。
「それでは今、ウクレレを取ってくるので皆さんはこちらでお待ち下さい」
逃げたい気持ちを抑え込み、引きつった笑みを浮かべたとき。
「リアンナ様、僕もご一緒します」
するとカインが立ち上がった。
「カインが?」
何故、ただウクレレを取りに行くだけなのにカインがついてくるのだろう?
「僕はリアンナ様の護衛騎士ですからね。何処へ行くにも一緒です、では行きましょう」
「え? ちょ、ちょっと!」
カインは有無を言わさず私の右手を握りしめると、大股で部屋を出ていく。
「おい! 勝手に手を繋ぐなよ!」
背後でジャンの抗議する声を聞きながら扉がバタンと閉ざされた。
「カイン、別にウクレレを取りに行くぐらい……」
するとカインが向き直り、とんでもない言葉を口にした。
「リアンナ様……逃げませんか?」
「はぁ!?」
「リアンナ様にその気があるなら、 僕はあなたを連れて何処までも逃げ切ってみせる自信はあります。例え、地の果てだろうと」
カインの瞳は真剣だ。とても冗談を言っているようには見えない。
「ええっ!? ちょっと、本気でそんなこと言ってるの?」
「はい、僕はいつだって本気です」
「何で逃げなくちゃいけないの? それにジャンとニーナはどうするの?」
「あの2人なら大丈夫、きっと何とかなるでしょう。それよりも僕はリアンナ様のことが心配でなりません」
「何とかなるって……」
一体、カインは何を根拠に言うのだろう?
「ええ、何とかなるはずです。今はリアンナ様のピンチを救うことが一番大事です」
おおっ! またしても言い切った! だけど……。
「心配してくれてありがとう、カイン。だけど私はこれでもジャンとニーナの主なの。2人を置いて自分だけ逃げるなんて出来ないわ。それにリュックさんの腕を治せなかったお詫びに、ウクレレを演奏して元気づけてあげたいのよ」
「分かりました。では、ウクレレを取りに行きましょう」
そして私達は一緒にウクレレを部屋に取りに行った――
****
「すみません、お待たせしました」
ウクレレを持ってカインと一緒に部屋に戻ると、早速サムが声をかけてきた。
「あ! それは、村で弾いていた不思議な楽器ですね?」
「そうです。これがウクレレという楽器です。では、早速元気が出てくるような音楽を演奏しますね」
わざと曖昧な言い方をすると、思った通りリュックとサムが勘違い発言をする。
「なるほど、聖女様は演奏で奇跡を起こせるのですね」
「そう言えば俺も聖女様の奏でた音楽に引き寄せられたんだっけ……やっぱり不思議な力があったからだったのか」
よ、よし! 勘違いしている間に演奏を始めてしまえ!
「それでは、1曲弾かせて頂きますね」
そして、私は元気が湧いてくるような明るい曲『線路は続くよどこまでも』の演奏を始めた――
リュックの右肩に触れると、頭の中で彼の腕が元通りに動けるように必死で念じる。
「「「「「……」」」」」
その様子をじっと見守る5人。
「……どうですか? 何か感じますか?」
手を離すと、まるで怪しい霊能力者のようなセリフを口にする私。
「う~ん……どうでしょう?」
当然首を捻るリュック。
「リュック、ちょっと腕が動くか試してみろよ」
「そうだな」
サムに促されリュックは右腕を動かそうとし……。
「……駄目です。ピクリとも動きません」
「そうですか。駄目ですか……申し訳ありません」
あぁ、やっぱりね。そうだと思ってた。だって私は聖女様なんかじゃないもの。
偽物聖女に動かなくなった腕を治せるはずはない。
それなのに――
「う~ん。今日のリアンナ様は何だか調子が悪いみたいです。神力を使い果たしてしまったのかもしれませんね」
ニーナがとんでもない台詞を口にする。
「えっ!?」
神力なんて、元々持っていませんけど!? これでは増々、私は詐欺師になってしまうじゃない!
これには流石にジャンとカインも驚いたようだ。
「おい! ニーナッ!! なんて事言うんだよ!」
ジャンが血相変えて叫ぶも、ニーナは気にする素振りも無く私に話しかけてきた。
「リアンナ様、神力を回復する儀式を行いましょう」
「え? ぎ、儀式……?」
儀式……儀式……一体何のことだろう?
するとニーナが私の耳もとで囁いた。
「ウクレレを演奏して下さい。大丈夫、きっと何らかの奇跡が起こるに決まっています」
ウクレレを演奏する? そんなことをしたって何もならないのに?
だけど、助けてあげられなかったお詫び位するべきだろう。
「そうね。ウクレレを演奏することにするわ」
ウクレレを演奏して、神のご加護がありますように……とでも言って、誤魔化すしか無い!
私は心に決めると立ち上がった。
「それでは今、ウクレレを取ってくるので皆さんはこちらでお待ち下さい」
逃げたい気持ちを抑え込み、引きつった笑みを浮かべたとき。
「リアンナ様、僕もご一緒します」
するとカインが立ち上がった。
「カインが?」
何故、ただウクレレを取りに行くだけなのにカインがついてくるのだろう?
「僕はリアンナ様の護衛騎士ですからね。何処へ行くにも一緒です、では行きましょう」
「え? ちょ、ちょっと!」
カインは有無を言わさず私の右手を握りしめると、大股で部屋を出ていく。
「おい! 勝手に手を繋ぐなよ!」
背後でジャンの抗議する声を聞きながら扉がバタンと閉ざされた。
「カイン、別にウクレレを取りに行くぐらい……」
するとカインが向き直り、とんでもない言葉を口にした。
「リアンナ様……逃げませんか?」
「はぁ!?」
「リアンナ様にその気があるなら、 僕はあなたを連れて何処までも逃げ切ってみせる自信はあります。例え、地の果てだろうと」
カインの瞳は真剣だ。とても冗談を言っているようには見えない。
「ええっ!? ちょっと、本気でそんなこと言ってるの?」
「はい、僕はいつだって本気です」
「何で逃げなくちゃいけないの? それにジャンとニーナはどうするの?」
「あの2人なら大丈夫、きっと何とかなるでしょう。それよりも僕はリアンナ様のことが心配でなりません」
「何とかなるって……」
一体、カインは何を根拠に言うのだろう?
「ええ、何とかなるはずです。今はリアンナ様のピンチを救うことが一番大事です」
おおっ! またしても言い切った! だけど……。
「心配してくれてありがとう、カイン。だけど私はこれでもジャンとニーナの主なの。2人を置いて自分だけ逃げるなんて出来ないわ。それにリュックさんの腕を治せなかったお詫びに、ウクレレを演奏して元気づけてあげたいのよ」
「分かりました。では、ウクレレを取りに行きましょう」
そして私達は一緒にウクレレを部屋に取りに行った――
****
「すみません、お待たせしました」
ウクレレを持ってカインと一緒に部屋に戻ると、早速サムが声をかけてきた。
「あ! それは、村で弾いていた不思議な楽器ですね?」
「そうです。これがウクレレという楽器です。では、早速元気が出てくるような音楽を演奏しますね」
わざと曖昧な言い方をすると、思った通りリュックとサムが勘違い発言をする。
「なるほど、聖女様は演奏で奇跡を起こせるのですね」
「そう言えば俺も聖女様の奏でた音楽に引き寄せられたんだっけ……やっぱり不思議な力があったからだったのか」
よ、よし! 勘違いしている間に演奏を始めてしまえ!
「それでは、1曲弾かせて頂きますね」
そして、私は元気が湧いてくるような明るい曲『線路は続くよどこまでも』の演奏を始めた――
638
お気に入りに追加
1,837
あなたにおすすめの小説
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。
八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。
パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。
攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。
ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。
一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。
これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。
※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。
※表紙はAIイラストを使用。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる