55 / 81
4章 8 神がかり的な?
しおりを挟む
――夕方
私達は約8時間かけて、次の町『プレタ』の中心地に到着した。
「あんたたち! 一緒に旅が出来て楽しかったよ!」
「姉ちゃん! また機会があったら、その楽器で何か演奏してくれよな」
「その音楽を聞いていると、何故か元気が湧いてくるんだよ!」
一緒に旅を続けていた行商人の人たちが手を振って、散り散りバラバラになっていく。
「はい、皆さん! ご一緒できて楽しかったです!」
荷馬車の上から大きく手を振って彼らを見送っていると、御者台のジャンが声をかけてきた。
「リアンナ様、余り目立つことはされないで下さい。俺達はお尋ね者なんですよ?」
「お尋ね者とは、また物騒な言い方ね。でも、皆ウクレレ演奏を聞いて楽しそうだったじゃない」
私の言葉に隣に座っていたニーナが同意した。
「私もそう思います。それに行商の人たち、皆怖そうに見えましたけど話してみれば気さくな人たちばかりでしたね」
「でも本当にリアンナ様は聖女様ではありませんか? その証拠に馬達は全く疲れを見せることがありませんでしたから。それに、動物たちも音楽に引き寄せられて増えましたよね?」
馬にまたがるカインが荷馬車を覗き込んだ。
中には新しく仲間? に加わったリスや猿たちまで乗っている。
「アハハハ……た、確かにそうかもね」
因みに、今私の肩には小さな猿が乗っている。
森の中を荷馬車で走っているときに、ウクレレを演奏していたら動物たちが寄ってきて勝手に? 乗り込んでしまったのだ。
「ええ、私もそう思います! リアンナ様は動物を呼び寄せることが出来る聖女様に違いありませんよ!」
ニーナは興奮した様子で頷いた。
「違うってば! もし動物たちが引き寄せられて来たのなら、この楽器の音色が原因だってば!」
だいたい、今私が手にしているウクレレを何処で手に入れたのか全く記憶が無いのだから。
もしかすると、このウクレレに神がかり的な力が宿っているのかもしれない。
「ところでリアンナ様。また何処で殿下の騎士たちに遭遇するか分かりません。まずは宿屋を探しませんか?」
不意にカインが声をかけてきた。
「そうね、カインの言う通りね」
するとジャンが勢いよく振り返る。
「宿屋なら俺が探しますよ!」
「いや、僕が探すよ。ジャンは騎士たちの顔を知らないだろう?」
「それを言うなら、カイン様だって顔バレしてしまいますよね?」
「僕なら大丈夫。フードで顔を隠しているし、髪の色も違うからバレることはないよ」
今のカインは黒髪から金色の髪に変わっている。これは行商人から買いとったカツラを被っているからだ。
うん、さすがは美青年カイン。金髪姿も良く似合っている。
ちなみに私も顔が騎士たちに知れ渡っているかも知れないということで、銀色のカツラを被っていた。
「くぅっ! わ、分かりました……ではカイン様に宿探しをお願いします!」
妙に悔しそうな素振りを見せるジャン。
そんなに、宿屋を探したかったのだろうか?
「それじゃ、行ってきます。皆さんは向こうの広場で待っていて下さい」
カインは広場を指差し、にっこり笑う馬にまたがったまま人混みの中へ消えていった。
「くっそ~! 俺が宿屋を探したかったのに!」
ジャンは今も悔しそうにしている。
ひょっとして、ジャンは……?
「ねぇ? もしかして、ジャンは宿屋にこだわりがあるの?」
荷馬車から身を乗り出すと、ジャンに尋ねた。
「は? リアンナ様、何を仰っているのですか?」
「だって、自分で宿屋を見つけたかったのでしょう? だから何かこだわりというか、基準があるのかと思ったのよ。例えば、料理が美味しい宿屋だとか……」
するとジャンは目を大きく見開き、「はぁ~」とため息をついた。
え? 何? ため息つかれるような質問だったの?
「ジャン。仕方ないわよ。諦めなさい」
何故かニーナがジャンに言葉をかけている。
「え? え? 一体何のこと?」
さっぱり分からず、2人に尋ねても「気にしないで下さい」と言って結局理由を教えてもらうことは出来なかった――
私達は約8時間かけて、次の町『プレタ』の中心地に到着した。
「あんたたち! 一緒に旅が出来て楽しかったよ!」
「姉ちゃん! また機会があったら、その楽器で何か演奏してくれよな」
「その音楽を聞いていると、何故か元気が湧いてくるんだよ!」
一緒に旅を続けていた行商人の人たちが手を振って、散り散りバラバラになっていく。
「はい、皆さん! ご一緒できて楽しかったです!」
荷馬車の上から大きく手を振って彼らを見送っていると、御者台のジャンが声をかけてきた。
「リアンナ様、余り目立つことはされないで下さい。俺達はお尋ね者なんですよ?」
「お尋ね者とは、また物騒な言い方ね。でも、皆ウクレレ演奏を聞いて楽しそうだったじゃない」
私の言葉に隣に座っていたニーナが同意した。
「私もそう思います。それに行商の人たち、皆怖そうに見えましたけど話してみれば気さくな人たちばかりでしたね」
「でも本当にリアンナ様は聖女様ではありませんか? その証拠に馬達は全く疲れを見せることがありませんでしたから。それに、動物たちも音楽に引き寄せられて増えましたよね?」
馬にまたがるカインが荷馬車を覗き込んだ。
中には新しく仲間? に加わったリスや猿たちまで乗っている。
「アハハハ……た、確かにそうかもね」
因みに、今私の肩には小さな猿が乗っている。
森の中を荷馬車で走っているときに、ウクレレを演奏していたら動物たちが寄ってきて勝手に? 乗り込んでしまったのだ。
「ええ、私もそう思います! リアンナ様は動物を呼び寄せることが出来る聖女様に違いありませんよ!」
ニーナは興奮した様子で頷いた。
「違うってば! もし動物たちが引き寄せられて来たのなら、この楽器の音色が原因だってば!」
だいたい、今私が手にしているウクレレを何処で手に入れたのか全く記憶が無いのだから。
もしかすると、このウクレレに神がかり的な力が宿っているのかもしれない。
「ところでリアンナ様。また何処で殿下の騎士たちに遭遇するか分かりません。まずは宿屋を探しませんか?」
不意にカインが声をかけてきた。
「そうね、カインの言う通りね」
するとジャンが勢いよく振り返る。
「宿屋なら俺が探しますよ!」
「いや、僕が探すよ。ジャンは騎士たちの顔を知らないだろう?」
「それを言うなら、カイン様だって顔バレしてしまいますよね?」
「僕なら大丈夫。フードで顔を隠しているし、髪の色も違うからバレることはないよ」
今のカインは黒髪から金色の髪に変わっている。これは行商人から買いとったカツラを被っているからだ。
うん、さすがは美青年カイン。金髪姿も良く似合っている。
ちなみに私も顔が騎士たちに知れ渡っているかも知れないということで、銀色のカツラを被っていた。
「くぅっ! わ、分かりました……ではカイン様に宿探しをお願いします!」
妙に悔しそうな素振りを見せるジャン。
そんなに、宿屋を探したかったのだろうか?
「それじゃ、行ってきます。皆さんは向こうの広場で待っていて下さい」
カインは広場を指差し、にっこり笑う馬にまたがったまま人混みの中へ消えていった。
「くっそ~! 俺が宿屋を探したかったのに!」
ジャンは今も悔しそうにしている。
ひょっとして、ジャンは……?
「ねぇ? もしかして、ジャンは宿屋にこだわりがあるの?」
荷馬車から身を乗り出すと、ジャンに尋ねた。
「は? リアンナ様、何を仰っているのですか?」
「だって、自分で宿屋を見つけたかったのでしょう? だから何かこだわりというか、基準があるのかと思ったのよ。例えば、料理が美味しい宿屋だとか……」
するとジャンは目を大きく見開き、「はぁ~」とため息をついた。
え? 何? ため息つかれるような質問だったの?
「ジャン。仕方ないわよ。諦めなさい」
何故かニーナがジャンに言葉をかけている。
「え? え? 一体何のこと?」
さっぱり分からず、2人に尋ねても「気にしないで下さい」と言って結局理由を教えてもらうことは出来なかった――
699
お気に入りに追加
1,837
あなたにおすすめの小説
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる