無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

文字の大きさ
上 下
54 / 81

4章 7 心配しても始まらない

しおりを挟む
 私達は、大急ぎで『カンナ』の町を出発する準備をしていた。

「ほら、ジャン! さっさと荷物を運びなさいよ!」

「何だよ! そういうニーナだって、早く荷造りを済ませろよ!」

相変わらずジャンとニーナの口論は絶えない。けれども、2人とも手や身体はしっかり動かしているから大したものだ。

「はぁ~……残念だったわ……この町でもマジックショーを披露しようと思っていたのに……」

荷造をしながら、思わずため息が出てしまった。

「リアンナ様のお気持ちは分かりますが、あの騎士達がこの町にいる以上、一刻も早く立ち去るべきです。彼らも伝書鳩を使いますから殿下に連絡しているはずです」

荷物を運んでいたカインが話しかけてきた。

「え? そうなの? だったら急いだほうが良いわね」

「はい、殿下の本当の目的が分からない今は少しでもこの町から遠くへ離れないといけません」

「だったら汽車を使えばいいのではありませんか? 確かこの町にも駅はありましたよね?」

「俺もニーナの意見に賛成です。お金の心配なら大丈夫ですよね? 何しろ伯爵位のカイン様がいるのですから」

どこか、嫌味を含んだ言い方をするジャン。けれど、カインは気にも止める様子が無い。

「汽車か……あまりおすすめはしませんが、この町には鉄道が走っていますね。では試しに駅まで行ってみませんか?」

「おすすめはしない? もしかして汽車に何か問題があるの?」

カインのどこか含みをもたせた言い方が妙に気になる。

「いえ、汽車に問題があるわけではありません。とりあえず行くだけ行ってみましょう」

「う、うん。そうね……」

そして荷造を終えた私達は駅へと向かった――



****


「……やはり、駄目ですね」

マントのフードを目深に被ったカインが建物の陰から駅を見つめて呟いた。

「駄目って? 何が駄目なの?」

私は荷馬車の上からカインに尋ねた。

「駅の前に2人の騎士が立っています。彼らは僕の顔見知りです」

「まさか、さっきカインが倒した騎士たちなの?」

「いえ。後をつけていた騎士たちとは別ですね」

「え!? 他にもまだ追手がいたんですか!?」

御者台のジャンが驚きの声を上げる。

「そ、そんな……」

ニーナの顔が青くなる。

「やはり汽車は使わないほうが良さそうですね。荷馬車で旅を続けましょう。多分この様子では次の駅でも待ち伏せされているかもしれません。幸い、この町には行商の馬車が多数出入りしています。彼らに混じって町を出れば、恐らくバレることは無いはずです」

なるほど、カインは先回りされているときのことを考えていたのか。

「確かに、そうかもしれませんね。それに考えてみれば荷馬車もあるのに、汽車に乗るのは難しいですし」

「う! た、確かに……貨物車両に荷馬車まで乗せてくれるかどうか怪しいし……」

ジャンが悔しそうに手綱を握りしめる。

「それじゃ、決まりね。荷馬車の旅を続けましょう」

「「「はい」」」

私の言葉に3人は返事をした――



****


「はぁ~やっぱり、荷馬車の旅は良いわね~」

荷馬車の上から、青い空を見上げて私は伸びをした。

「リアンナ様は呑気ですね……こっちは殿下の騎士たちに追われているかもしれないと思うと、気が気じゃないっていうのに……」

御者台のジャンがため息をつく。

「でもこれだけ多くの行商人たちの馬車に紛れていれば気づかれないんじゃないかしら? どうせこの国を出てしまえば、騎士達だって追って来ないんじゃないの?」

ニーナはジャンに比べれば、楽観的だ。
確かに、そうかもしれないけれど……。

私は馬に乗っているカインをチラリと見た。

カイン……これからどうするのだろう? 他の護衛騎士を相手に戦ってしまったのだから、殿下に歯向かったことになってしまうのではないだろうか?

すると私の視線に気づいたのか、カインがこちらを向いた。

「リアンナ様、どうかされましたか?」

「う、うん。カインは大丈夫なのかなって思って」

「大丈夫とは、どういう意味でしょうか?」

「ほら、他の騎士たちと戦ってしまったから殿下に歯向かったとみなされるんじゃないかと思って」

「僕のことなら大丈夫です。心配してくださって、ありがとうございます」

カインはニコリと笑みを浮かべる。

「そうですよ、カイン様なら大丈夫でしょう。まずはご自身の心配をされるべきですよ。何しろ、聖女様も騎士たちは探しているのでしょう?」

確かにジャンの言うとおりかもしれない。カインは殿下直属の騎士で、とても強い。
私が心配しても始まらないのだから。

「それもそうね。気をつけるわ」

でも私が聖女様と呼ばれているとは、殿下は夢にも思わないだろう。第一、仮に聖女の正体が私だと知れば興味を無くすに決まっている。何しろ殿下は、私をとても嫌っているのだから。

この時の私は楽観的に考えていた。
けれどその考えは誤りだったと、後に身を持って知ることになる――


しおりを挟む
感想 95

あなたにおすすめの小説

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

処理中です...