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3章 6 カイン 6
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――14時半
荷造りを終えた、リアンナ様たちは馬車に乗り込むと「イナク」の村を出発した。
「よし、後を追うか」
スカイに乗ると程よい距離を保ちつつ、リアンナ様の後を追った……。
リアンナ様たちの旅はゆっくり続いていた。
時折荷馬車を止めては周囲の風景を皆で眺めていたりと、心から楽しんでいるように見えた。
そのおかげで、こちらとしては後をつけるのが楽だったが……僕は不思議でならなかった。
実家を追い出され、この国から出ていくように命じられているのに……何故笑顔でいられるのだろう?
本来なら悲しみに打ちひしがれてもいいくらいなのに、リアンナ様は違った。
常に前向きで、しかも立ち寄る先で奇跡の力を見せて人々を元気にさせている。
「リアンナ様こそ、次の王太子妃に相応しい方だったのではないだろうか……」
城に縛り付ける生活よりも、自由気ままに旅を続けている方がリアンナ様は余程似合っているように思える。
この調子で旅を続けていけば、国を出るにはまだ当分時間はかかるだろう。
その間、リアンナ様の姿を遠くから見守っていこう。
心にそう決めたのに、予想外の出来事が起きてしまう――
****
太陽が少し西に傾きかけた頃、リアンナ様たちは「ユズ」の町に到着した。
恐らく今日はこの町で宿泊するのだろう。
荷馬車の後をスカイに乗ってついていくと、はやり思った通り馬車は一軒の宿屋の前で停車した。
「今日はここに泊まるのか……」
林に囲まれた宿屋は、お世辞にも豪華な宿とは程遠かった。
「イナク」の村には宿屋は一軒しかなかったが、「ユズ」の町には他にも数件の宿屋がある。そのどれもが今目の前にある宿よりも余程立派だった。
御者の青年が宿屋の中へ入っていき、リアンナ様とお付きの女性は外の風景を眺めている。
――そのとき
バサバサと羽音が聞こえ、見上げるとオスカーがこちらへ向かって飛んできていた。
「オスカー、戻ってきてくれたんだな」
ところがオスカーは僕の頭上を飛び越え、あろうことかリアンナ様たちの馬車へ向かって飛んで行く。
「え? オスカー!?」
オスカーはそのままリアンナ様たちの乗る荷馬車の幌の上に乗ってしまったのだ。しかも幌の上には既に白い鳩たちも乗っている。
ひょっとして、仲間だと思って加わってしまったのだろうか。
「困ったことになったな……」
首から下げていたオスカーを呼び寄せる笛を思わず握りしめる。
まさか、オスカーがリアンナ様の元へ飛んでいくとは思わなかった。
こんな至近距離だ。仮にオスカーを呼び寄せる笛を吹こうものなら、リアンナ様たちにばれてしまう。
「どうか、気付かれる前にオスカーが戻ってきてくれないだろうか……」
何しろ、オスカーの足には殿下からの手紙がくくりつけてある。万一、抜き取られて読まれてしまえば、大変なことになりかねない。
幸い、まだリアンナ様たちは幌の上のハトに気づいていない。このままどうかバレずに宿屋へ入ってもらえれば……!
しかし祈りも虚しく、ついにオスカーの存在が付き人女性に気付かれてしまった。
「え? 何でしょう、あのハトは……。もしかして、リアンナ様の曲に惹かれてついてきてしまったのでしょうか?」
「さ、さぁ……でも、あんなに大きいハトはマジックには不向き……あれ? 何だろう? 足に何か付いているみたい」
まずい! 気付かれてしまった!
「本当ですね……あ! もしかして、あれは伝書鳩かもしれませんよ!」
「伝書鳩?」
リアンナ様が首を傾げて、オスカーに手を伸ばした。
もう、限界だった。駄目だ! 手紙だけは何としても守らなければ!
「オスカー!!」
僕は荷馬車に向かって駆け寄った――
荷造りを終えた、リアンナ様たちは馬車に乗り込むと「イナク」の村を出発した。
「よし、後を追うか」
スカイに乗ると程よい距離を保ちつつ、リアンナ様の後を追った……。
リアンナ様たちの旅はゆっくり続いていた。
時折荷馬車を止めては周囲の風景を皆で眺めていたりと、心から楽しんでいるように見えた。
そのおかげで、こちらとしては後をつけるのが楽だったが……僕は不思議でならなかった。
実家を追い出され、この国から出ていくように命じられているのに……何故笑顔でいられるのだろう?
本来なら悲しみに打ちひしがれてもいいくらいなのに、リアンナ様は違った。
常に前向きで、しかも立ち寄る先で奇跡の力を見せて人々を元気にさせている。
「リアンナ様こそ、次の王太子妃に相応しい方だったのではないだろうか……」
城に縛り付ける生活よりも、自由気ままに旅を続けている方がリアンナ様は余程似合っているように思える。
この調子で旅を続けていけば、国を出るにはまだ当分時間はかかるだろう。
その間、リアンナ様の姿を遠くから見守っていこう。
心にそう決めたのに、予想外の出来事が起きてしまう――
****
太陽が少し西に傾きかけた頃、リアンナ様たちは「ユズ」の町に到着した。
恐らく今日はこの町で宿泊するのだろう。
荷馬車の後をスカイに乗ってついていくと、はやり思った通り馬車は一軒の宿屋の前で停車した。
「今日はここに泊まるのか……」
林に囲まれた宿屋は、お世辞にも豪華な宿とは程遠かった。
「イナク」の村には宿屋は一軒しかなかったが、「ユズ」の町には他にも数件の宿屋がある。そのどれもが今目の前にある宿よりも余程立派だった。
御者の青年が宿屋の中へ入っていき、リアンナ様とお付きの女性は外の風景を眺めている。
――そのとき
バサバサと羽音が聞こえ、見上げるとオスカーがこちらへ向かって飛んできていた。
「オスカー、戻ってきてくれたんだな」
ところがオスカーは僕の頭上を飛び越え、あろうことかリアンナ様たちの馬車へ向かって飛んで行く。
「え? オスカー!?」
オスカーはそのままリアンナ様たちの乗る荷馬車の幌の上に乗ってしまったのだ。しかも幌の上には既に白い鳩たちも乗っている。
ひょっとして、仲間だと思って加わってしまったのだろうか。
「困ったことになったな……」
首から下げていたオスカーを呼び寄せる笛を思わず握りしめる。
まさか、オスカーがリアンナ様の元へ飛んでいくとは思わなかった。
こんな至近距離だ。仮にオスカーを呼び寄せる笛を吹こうものなら、リアンナ様たちにばれてしまう。
「どうか、気付かれる前にオスカーが戻ってきてくれないだろうか……」
何しろ、オスカーの足には殿下からの手紙がくくりつけてある。万一、抜き取られて読まれてしまえば、大変なことになりかねない。
幸い、まだリアンナ様たちは幌の上のハトに気づいていない。このままどうかバレずに宿屋へ入ってもらえれば……!
しかし祈りも虚しく、ついにオスカーの存在が付き人女性に気付かれてしまった。
「え? 何でしょう、あのハトは……。もしかして、リアンナ様の曲に惹かれてついてきてしまったのでしょうか?」
「さ、さぁ……でも、あんなに大きいハトはマジックには不向き……あれ? 何だろう? 足に何か付いているみたい」
まずい! 気付かれてしまった!
「本当ですね……あ! もしかして、あれは伝書鳩かもしれませんよ!」
「伝書鳩?」
リアンナ様が首を傾げて、オスカーに手を伸ばした。
もう、限界だった。駄目だ! 手紙だけは何としても守らなければ!
「オスカー!!」
僕は荷馬車に向かって駆け寄った――
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