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3章 5 カイン 5
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今回もリアンナ様が人々の前で披露した魔法のような力は見事だった。
人を集めるために奏でた美しい音色も素晴らしかったが、一番の驚きはやはり帽子の中から次々と真っ白なハトを取り出したことだった。
リアンナ様がよく見えるように近くの木に登って様子を伺っていたが、僕はあの方から完全に目を離せなくなっていた。
笑顔で人々の前で不思議な力を披露し、人々から拍手喝采を浴びるリアンナ様は以前とはまるで違っていた。
恐らく殿下も、リアンナ様の家族も今の彼女を見れば驚くに決まっているだろう。
何しろ聖女様と呼ばれるようになっているのだから。
「そうだ。いつまでも、ただ様子をうかがっているだけではいけないな。そろそろ殿下に報告をしなければ……」
現在の居場所とリアンナ様の様子を簡単に手紙を書くと、肩に止まるオスカーに手紙を託した。
「オスカー。急いで殿下に伝えてくれ」
オスカーはクルクルと喉を鳴らすと、羽を広げて城へ向かって飛んで行く。
「……頼んだぞ、オスカー」
そして僕は再び、リアンナ様の監視を続けた――
リアンナ様が奇跡の力を披露した後、鳥たちがお金を回収している最中にリアンナ様たちは片付けを始めていた。
「そろそろ次の場所へ移動するのかもしれないな……こちらも準備を始めておこう」
木の上から降りると、愛馬のスカイの元へ向かった。
****
スカイを連れて宿屋へ行ってみると、丁度リアンナ様たちは出立の準備を始めていた。
やはり思った通りだ。そろそろ出発をするのだろう。引き続き、宿屋の陰でリアンナ様たちの様子を伺っていた。
するとそこへ、少女が母親らしき人物を連れてやってくると御者の青年に声をかけてきた。
どうやら、リアンナ様に会わせて欲しいようだ。青年は少女の申し出を渋っていたが、やがて荷馬車の中を覗き込むとリアンナ様が降りてきた。
少女はリアンナ様に母親を助けて欲しいと訴えているようだった。その訴えに困った様子を見せていたが、少女の訴えを聞くことにしたのだろう。
リアンナ様は小さな弦楽器を小脇に抱えると、曲を演奏し始めた。その曲はとても明るい曲で、聞いているこちらまで楽しくなってくるメロディーだった。
すると、奇跡が起きた。
今にも倒れそうな位、顔色が悪かった女性がみるみるうちに元気になっていったのだ。
「そんな馬鹿な……」
信じられない光景に思わず目を見張った。少女と母親はとても喜び、リアンナ様を聖女様と呼んでお礼を述べている。
やはり、リアンナ様は人々の言う通り本物の聖女だったのだろうか……? だったら、何故そのことを殿下に告げなかったのだろう。
はるか昔、この世界には神が住んでいると言われていた。
けれど人々は徐々に信仰心を無くし、神の存在は忘れられていった。
ただ神官職に就いている者たちが自分達の地位を守るためだけに形だけの教会が今は存在しているだけとなっていた。
尤も、この事実を知るのは権力者たちのみで平民たちは知る由も無い。
今も神の力を信じているのだから。
そんな事を考えながら様子をうかがっていると、女性が何やらリアンナ様にネックレスを渡そうとしている。
けれどリアンナ様は遠慮して受け取ろうとしなかった。けれど、お付きの女性に何か言われたのだろう。
リアンナ様は笑顔でネックレスを受け取ると、親子は満足そうに帰っていった。
あのネックレスはどうするつもりなのだろう?
遠目からでも、おおよそ貴族令嬢が身につけるような代物では無いことは分かる。けれど、リアンナ様はネックレスをつけると嬉しそうに笑ったのだ。
「まさか、あのネックレスをつけるなんて……」
なんて慈愛の心を持っているのだろう。
「やはり……リアンナ様は本当の聖女だったのだろうか?」
気づけば、言葉にしていた――
人を集めるために奏でた美しい音色も素晴らしかったが、一番の驚きはやはり帽子の中から次々と真っ白なハトを取り出したことだった。
リアンナ様がよく見えるように近くの木に登って様子を伺っていたが、僕はあの方から完全に目を離せなくなっていた。
笑顔で人々の前で不思議な力を披露し、人々から拍手喝采を浴びるリアンナ様は以前とはまるで違っていた。
恐らく殿下も、リアンナ様の家族も今の彼女を見れば驚くに決まっているだろう。
何しろ聖女様と呼ばれるようになっているのだから。
「そうだ。いつまでも、ただ様子をうかがっているだけではいけないな。そろそろ殿下に報告をしなければ……」
現在の居場所とリアンナ様の様子を簡単に手紙を書くと、肩に止まるオスカーに手紙を託した。
「オスカー。急いで殿下に伝えてくれ」
オスカーはクルクルと喉を鳴らすと、羽を広げて城へ向かって飛んで行く。
「……頼んだぞ、オスカー」
そして僕は再び、リアンナ様の監視を続けた――
リアンナ様が奇跡の力を披露した後、鳥たちがお金を回収している最中にリアンナ様たちは片付けを始めていた。
「そろそろ次の場所へ移動するのかもしれないな……こちらも準備を始めておこう」
木の上から降りると、愛馬のスカイの元へ向かった。
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スカイを連れて宿屋へ行ってみると、丁度リアンナ様たちは出立の準備を始めていた。
やはり思った通りだ。そろそろ出発をするのだろう。引き続き、宿屋の陰でリアンナ様たちの様子を伺っていた。
するとそこへ、少女が母親らしき人物を連れてやってくると御者の青年に声をかけてきた。
どうやら、リアンナ様に会わせて欲しいようだ。青年は少女の申し出を渋っていたが、やがて荷馬車の中を覗き込むとリアンナ様が降りてきた。
少女はリアンナ様に母親を助けて欲しいと訴えているようだった。その訴えに困った様子を見せていたが、少女の訴えを聞くことにしたのだろう。
リアンナ様は小さな弦楽器を小脇に抱えると、曲を演奏し始めた。その曲はとても明るい曲で、聞いているこちらまで楽しくなってくるメロディーだった。
すると、奇跡が起きた。
今にも倒れそうな位、顔色が悪かった女性がみるみるうちに元気になっていったのだ。
「そんな馬鹿な……」
信じられない光景に思わず目を見張った。少女と母親はとても喜び、リアンナ様を聖女様と呼んでお礼を述べている。
やはり、リアンナ様は人々の言う通り本物の聖女だったのだろうか……? だったら、何故そのことを殿下に告げなかったのだろう。
はるか昔、この世界には神が住んでいると言われていた。
けれど人々は徐々に信仰心を無くし、神の存在は忘れられていった。
ただ神官職に就いている者たちが自分達の地位を守るためだけに形だけの教会が今は存在しているだけとなっていた。
尤も、この事実を知るのは権力者たちのみで平民たちは知る由も無い。
今も神の力を信じているのだから。
そんな事を考えながら様子をうかがっていると、女性が何やらリアンナ様にネックレスを渡そうとしている。
けれどリアンナ様は遠慮して受け取ろうとしなかった。けれど、お付きの女性に何か言われたのだろう。
リアンナ様は笑顔でネックレスを受け取ると、親子は満足そうに帰っていった。
あのネックレスはどうするつもりなのだろう?
遠目からでも、おおよそ貴族令嬢が身につけるような代物では無いことは分かる。けれど、リアンナ様はネックレスをつけると嬉しそうに笑ったのだ。
「まさか、あのネックレスをつけるなんて……」
なんて慈愛の心を持っているのだろう。
「やはり……リアンナ様は本当の聖女だったのだろうか?」
気づけば、言葉にしていた――
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