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3章 4 カイン 4
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「な、何だ? あれは一体……」
イナクの村に到着したリアンナ様たちの馬車の上に、白い鳥がずらりと並んで羽を休めていた。
「一体、鳥なんていつのまに……」
ここからでは何と言っているか分からないが、リアンナ様は鳥たちに向かって何か話しかけている。
すると……。
白い鳥たちが一斉に飛び立ち、近くの木の枝に止ったのだ。
「!!」
その光景を見て、さらに衝撃を受けた。
「いつの間に鳥たちを集めただけでなく……訓練までしていたなんて……」
つい、自分の肩に乗るオスカーをじっと見つめてしまった。
今では伝書鳩として、役立ってくれているオスカー。けれど、ここまで仕上げる為に相当の訓練を受けさせた。
なのにリアンナ様はあっという間にあれほどの鳥たちと一気に手懐けてしまったのだ。
そのことがどうしても信じられなかった。
「リアンナ様……一体貴女は何者なのですか……?」
気づけば、ポツリと疑問を口に出していた――
****
――辺りが薄暗くなった頃
「は~……余計なことをしてしまっただろうか……」
近くの林で野営の準備をしながら、ため息をついてしまった。
宿屋の食堂でリアンナ様が主人に鳥の餌について尋ねた時のことを思い出してしまった。
困っていたようなので、つい口を挟んでしまったが怪しまれなかっただろうか?
「殿下の命令で怪しまれないように後をつけなければならなかったのに……」
もし自分の正体がバレてしまっては、もうリアンナ様を尾行することが出来ない。
「これからは最新の注意を払わなければならないな……」
自分の心に、強く言い聞かせた……。
――翌朝5時半
テントを畳んで馬の背につけ、再びイナクの村へ戻ると宿屋へ足を向けた。
「いつ、村を出発されるか分からないからな……早目に見張っておかなければ」
宿屋の側には茂みと巨木が生えている。
そこでまずは愛馬のスカイを茂みの中に隠すと、僕は巨木をスルスルと登り始めた。
「……よし、ここからなら宿屋が良く見えるな」
巨木の上から宿屋を見下ろしていると、驚いたことにリアンナ様が1人で宿屋から出てきた。
「供もつけずにでかけるつもりだろうか……うん? 何か手にしているな……もしかして餌だろうか?」
リアンナ様は僕が登っている木とは反対側の巨木に向かって声をかけた。
「みんなー! ご飯よ!」
やはり手にしていたのは餌だったのだ。
そのまま様子をうかがっていると、バサバサと羽音を立てて白い鳥たちが次々とリアンナ様の足元に舞い降りてくる。おまけに荷馬車からはウサギまで顔を覗かせたのだ。
「そ、そんな……鳥だけではなく、ウサギまでしつけられていたなんて……」
すると動物たちを見つめていたリアンナ様が笑った。
「フフフ……みんな、本当にお利口ね」
「!」
それは、とても素敵な笑顔で思わず息を呑んでしまった。城でよく見かけていたときとは想像も出来ない姿だった。
あの頃のリアンナ様は、表情も暗くて滅多なことでは口も開くことも無かった。
親しい人もおらず、誰も寄せ付けない雰囲気を全身から放っていた。
今の姿とは全く真逆で真逆で、心を閉ざしていた女性だったのに……。
「リアンナ様……」
いつしか僕は自分の任務も忘れ、彼女の姿を食い入るように見つめていた。
自分の中に芽生えた、ある感情に気付くこともなく――
イナクの村に到着したリアンナ様たちの馬車の上に、白い鳥がずらりと並んで羽を休めていた。
「一体、鳥なんていつのまに……」
ここからでは何と言っているか分からないが、リアンナ様は鳥たちに向かって何か話しかけている。
すると……。
白い鳥たちが一斉に飛び立ち、近くの木の枝に止ったのだ。
「!!」
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「いつの間に鳥たちを集めただけでなく……訓練までしていたなんて……」
つい、自分の肩に乗るオスカーをじっと見つめてしまった。
今では伝書鳩として、役立ってくれているオスカー。けれど、ここまで仕上げる為に相当の訓練を受けさせた。
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もし自分の正体がバレてしまっては、もうリアンナ様を尾行することが出来ない。
「これからは最新の注意を払わなければならないな……」
自分の心に、強く言い聞かせた……。
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テントを畳んで馬の背につけ、再びイナクの村へ戻ると宿屋へ足を向けた。
「いつ、村を出発されるか分からないからな……早目に見張っておかなければ」
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そこでまずは愛馬のスカイを茂みの中に隠すと、僕は巨木をスルスルと登り始めた。
「……よし、ここからなら宿屋が良く見えるな」
巨木の上から宿屋を見下ろしていると、驚いたことにリアンナ様が1人で宿屋から出てきた。
「供もつけずにでかけるつもりだろうか……うん? 何か手にしているな……もしかして餌だろうか?」
リアンナ様は僕が登っている木とは反対側の巨木に向かって声をかけた。
「みんなー! ご飯よ!」
やはり手にしていたのは餌だったのだ。
そのまま様子をうかがっていると、バサバサと羽音を立てて白い鳥たちが次々とリアンナ様の足元に舞い降りてくる。おまけに荷馬車からはウサギまで顔を覗かせたのだ。
「そ、そんな……鳥だけではなく、ウサギまでしつけられていたなんて……」
すると動物たちを見つめていたリアンナ様が笑った。
「フフフ……みんな、本当にお利口ね」
「!」
それは、とても素敵な笑顔で思わず息を呑んでしまった。城でよく見かけていたときとは想像も出来ない姿だった。
あの頃のリアンナ様は、表情も暗くて滅多なことでは口も開くことも無かった。
親しい人もおらず、誰も寄せ付けない雰囲気を全身から放っていた。
今の姿とは全く真逆で真逆で、心を閉ざしていた女性だったのに……。
「リアンナ様……」
いつしか僕は自分の任務も忘れ、彼女の姿を食い入るように見つめていた。
自分の中に芽生えた、ある感情に気付くこともなく――
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