無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

文字の大きさ
上 下
30 / 81

2章 7 元気の源?

しおりを挟む
 荷馬車に乗り込んで、荷物整理をしていると外に出ていたジャンが声をかけてきた。

「リアンナ様、村人がリアンナ様にお願いがあるそうで、訪ねて来ているのですが……」

「え? 私に?」

何だろう……? 果てしなくイヤな予感がする。

荷馬車から顔を出すと、具合が悪そうな女性と10歳ほどの少女がこちらを見上げて立っていた。

「あ! 聖女様だ! お母さん、この人が聖女様だよ!」

すると女の子が私を見て嬉しそうに指さしてきた。

「まぁ……この方が聖女様なのね? 美しい方だわ……」

うう~。私は聖女様なんかじゃないのに……罪悪感がこみ上げてくる。

「あ、あの~私に何か御用でしょうか? 実はこれから次の町に出発するのですが……」

こちらを心配そうに見つめているジャンとニーナをチラリと見る。すると少女がとんでもないことを言ってきた。

「お願い! 聖女様! お母さんを助けて!」

「えぇっ!? た、助けるって!?」

すると女性が私に頭を下げてきた。

「お母さん、もうずっと具合が悪いの! うちは貧しいからお医者様に診てもらうことなんて出来なくて……だから聖女様にお母さんの病気を治してほしいの! お願いします!」

「そ、そんな……」

どうしよう、困った。私が出来るのはマジックだけ。聖女などではないし、医療の知識だって無い。
そんな私が病気の女性を治せるはずなんて無いのに!

すると女性は私が困っている様子に気付いたのか、少女に声をかけた。

「およしなさい、マヤ。聖女様はこれから旅に出るのよ? お手間を取らせてはいけないわ。大丈夫……そのうち、良くなるわよ……」

けれど、女性は本当に具合が悪そうに見えた。おそらく、この宿屋にだって必死の思いで来たに違いない。

だけど、私は……。

「お力になれず……申し訳ありません……」

すると、少女は首を振った。

「そんなこと言わないでお願いします! お母さんを助けて! だって、皆聖女様の弾いた音楽を聞いて元気になれたって言ってたんだもの!」

「音楽を聞いて?」

あ~……きっと、それは「元気になれた」って意味じゃなくて「元気を分けてもらえた」って意味なんだろうけど……折角ここまで来てもらったのに、帰ってもらうのは非常に気が引けた。

「分かったわ、それじゃ楽器を弾くだけならいいわよ」

「え!? 本当に!?」

少女の目がキラキラ輝く。

「勿論。だって折角来てくれたのだから」

ウクレレを抱えながら、少女に笑顔で答える。
元気が出てきそうな短めの曲を1つでも弾いてあげれば、納得してくれるだろう。
そこで、少し考えて「大牧場はみどり」を弾き始めた。

すると、たちまちウクレレの音色が風にのってイナクに村に響き渡る。

演奏しながら母親と少女の様子を見ると、2人は笑顔で演奏を聞いている。
うん、やっぱり明るい曲は元気になれる気がする。最後まで明るいノリで演奏をおえると私は一度会釈した。

すると、たちまちその場にいた全員がパチパチと拍手する。

「やっぱりリアンナ様の演奏はいいですね」
「うん、最高だ」

ジャンとリアンナの様子を見たとき。

「まぁ! すごいわ!」

突然女性が驚きの声をあげた。

「どうかしましたか!?」

何かやらかしてしまっただろうか!?

「ありがとうございます! 聖女様! 今まで、体中がだるくて仕方なかったのに……今は、体中に元気が漲っています! 何なら、走って家に帰れそうです!」

女性が興奮気味に訴えてくる。

「お母さん! 本当?」

「ええ、本当よ。マヤ、やっぱり聖女様の力は本当なのね?」

抱き合って喜ぶ親子。

「あ……あははは……そ、それは良かったです……お役に立てて何よりです」

何だろう? 私の演奏でそんなに気力が漲ってきたのだろうか?

すると女性が深々と頭を下げてきた。

「聖女様、本当にありがとうございます。これでまた働くことが出来ます。何か、御礼を差し上げたいのですが……こんなものくらいしか用意できず、申し訳ありません」

女性はポケットから、木彫りのネックレスを取り出した。

「いえ! そんな、お礼なんていりませんから!」

だって、私は女性の病気を治したわけではない。単にウクレレを演奏しただけなのに?

すると女性は首を振る。

「そんなこと、おっしゃらずに受け取って下さい。これでも私はここでは腕の良いアクセサリー職人なのです。是非、聖女様に差し上げたいのです」

するとニーナが耳打ちしてきた。

「リアンナ様。ここまで言われているのですから、受けとって差し上げたらいかがですか?」

「ニーナ……そうね。分かったわ。それでは、頂きますね」

「ありがとうございます!」

私がネックレスを受け取ると、女性は嬉しそうに笑った――



しおりを挟む
感想 95

あなたにおすすめの小説

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

処理中です...