無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

文字の大きさ
上 下
24 / 81

2章 1 私の望んでいた世界

しおりを挟む
「のどかな光景ねぇ……」

青い空の下、目の前に広がる緑の茂った地平線にどこまでも続く長い一本道……。

「これこそが、私の待ち望んでいた世界よ!」

つい、心の声が言葉となって飛び出してしまった。

「うわぁぁ!! な、何だ!?」

「キャアッ! リアンナ様っ!! 突然馬車で叫ばないで下さい!」

ジャンとニーナが悲鳴をあげる。

「あ……ご、ごめんなさい。今の状況が嬉しくて、つい心の声が……」

「え!? これが嬉しいのですか!?」

「荷馬車の旅ですよ!?」

「うん、とても楽しいじゃない。大自然の中を荷馬車で進むなんて最高の気分よ!」

ウキウキしながら答えると、何やらジャンとニーナがヒソヒソ話し合っている。

「あれ……本当にリアンナ様か……? なんだか性格がまるで違うぞ?」

「お気の毒に……ショックな出来事が多すぎて記憶喪失になってしまったせいだわ……」

「俺達で哀れなリアンナ様を支えてやらないと」

「そうね。リアンナ様にとっては、私達しか頼れる人はいないものね」

……なんだか、酷く同情されているようだが……うん、ここは聞こえなかったふりをしておこう。

「ふふ……本当に最高な気分……」

こうして呑気な旅は続く。
ずっと誰かがつけてきていることも、私達は気付かずに――


****

「リアンナ様。あの森を抜ければ、イナクの村まであと少しですよ」

不意にジャンが声をかけてきた。

「え? 森? どれ?」

荷馬車から顔を出すと、地平線の先に広大な森が広がっている景色が見える。

「うわ~……大きい森ね~。すごい……」

こんな光景、日本ではまず見られない。

「イナクの村は林業が盛んです。木材を加工して収入を得ているのですよ」

ニーナが教えてくれる。

「そうなんだ。物知りね、ニーナは」

「ありがとうございます」

褒められて嬉しいのか、ニーナが顔を赤らめる。
でも、あれだけ森に囲まれている村なら他の場所に住む人々とは孤立した暮らしをしている可能性がある。
派手なマジックを披露しても、他所に広がることは無いだろう。
鳩をシルクハットから出すマジックなどお披露目すれば、どれくらい喜ばれることだろう……。

「あ~あ……鳩がいればなぁ……」

「急にどうしたのです?」

「鳩が好きなのですか?」

ジャンとニーナが尋ねてくる。

「うん。シルクハットから鳩を出すマジックを披露すれば、きっとみんな目を丸くするだろうなって思ったのよ」

「え? そんな事ができるのですか?」

「それは素晴らしいマジックですね!」

興奮するニーナとジャン。

「うん、マジックの定番中の定番なんだけどね……そのためには鳩が必要なのよ。いくらマジックでも無から作り出すことなんて出来ないし……しかも、鳩といってもどんな鳩でもいいわけじゃないの。真っ白なギンバトよ。小さくておとなしいから良く使われるんだけど……そう簡単にいるはずないしね……」

「ギンバトですか……う~ん。確かに普通の鳩ならよく見かけますが……」

ジャンが首をひねる。

「まぁ、無いものは仕方ないわ。別に帽子から取り出すのは、鳩じゃなくてもいいわけだし。ぬいぐるみでも、何でもいいのよ」

そしてゴロリと荷馬車に寝転がった時、ウクレレが目に止まった。

「そうだ、二人のために何か曲を弾いてあげようか?」

ウクレレを手に取るとジャンとニーナに声をかけた。

「本当ですか? 嬉しいです!」

「俺、もう一度聞いてみたかったんですよ!」

「それじゃ、二人の為に何か一曲弾いてあげるわね」

早速私はウクレレを弾き始めた。
次のマジックのことを考えながら……。

すると私の願いが通じたのだろうか?

ある、奇跡が起こったのだ――


しおりを挟む
感想 95

あなたにおすすめの小説

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

処理中です...