無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

文字の大きさ
上 下
15 / 81

1章 14 旅立ち

しおりを挟む
「うう……まさか、侯爵令嬢であるリアンナ様が荷馬車に乗る日が来るなんて……」

ガラガラと走る荷馬車の上でニーナが嘆く声が聞こえる。

「そう? 確かに乗り心地は良くないけど幌を上げれば空がよく見えるし、風が運んでくる自然の香りがとっても癒やされると思わない?」

私は笑顔で、ニーナと御者台で面白く無さそうに手綱を握るジャンに語った。
二人は荷馬車が気に入らないみたいだが、私は最高に気分が良かった。

実は私には夢があった。
澄み渡った青空の元、大自然に囲まれた一本道を荷馬車でどこまでも進んでいく……そんな夢を見ていたのだ。
それが今現実となってか叶ったのだから、こんなに嬉しいことはない。

「はぁ~……リアンナ様は能天気ですね……俺はまさか自分が荷馬車の御者になる日が来るとは思いませんでしたよ」

溜め息をつくジャンをニーナが咎める。

「ちょっとジャン! リアンナ様に失礼でしょう? いくら何でもリアンナ様が急に庶民的になったからといって」

「おい、別に俺は庶民的になったとは言っていないぞ? ニーナが勝手に言った言葉だろう?」

「何ですって!?」

「何だよ!」

ついに二人は口論を始めてしまった。

「ちょっと待って二人共! 恋人同士で喧嘩をしちゃだめよ!」

「「は!? 恋人同士!?」」

すると私の言葉に驚いたのか、息ぴったりに声を揃えるニーナとジャン。

「そうよ、二人は恋人同士でしょう?」

頷く私に、ニーナが心底嫌そうな顔を見せた。

「そんな筈無いじゃありませんか! リアンナ様、私とジャンは双子の姉弟ですよ? 気持ち悪いこと言わないでください」    

「え!? 双子だったの?」

言われてみれば、顔が……似ていない、ことも無い。

「そうですよ、リアンナ様。記憶喪失になったとはニーナから聞かされていましたけど……まさか俺とニーナが双子の兄妹だということを忘れていたなんて」

御者台上でため息を付くジャン。

「アハハハ……ご、ごめんね」

確かに双子の兄妹の関係なのに、恋人同士と思われたら気持ち悪くてしかたないだろう。

「それよりジャン。今の言葉は聞き捨てならないわね。私のほうが姉でしょ?」

「違うだろう? 俺のほうが兄だろう?」

「はぁ!?」

「何だよ!」

またしても喧嘩が勃発しそうになる。

「あー! 分かった! ストップ!! 喧嘩はしないの! 仲良くしましょう、仲良く。ね?」

「「はい……」」

でも双子か……家族はどうしたのだろう? そこで二人に質問してみることにした。

「ジャンとニーナは本当に私について出てきて良かったの? 家族だっているのでしょう?」

「家族は私とジャン二人だけですよ。小さい時に両親が亡くなって、マルケロフ家で庭師をしていた祖父に引き取られましたから」

「その祖父も5年前に亡くなりましたからね。もう俺とニーナが屋敷を去っても心配する家族はいないから大丈夫です」

私の質問にニーナとジャンが交互に答える。

「え……? そうだったの? ごめんなさい、何だか悪いことを聞いてしまったわね」

「そんなことありません、リアンナ様」

「そうですよ。気にしないで下さい」

笑顔を向ける二人。
それでも住み慣れた屋敷を離れるのは寂しいに違いない。だとしたら、尚更私は二人の面倒を見てあげなければ。

「ところで、リアンナ様。とりあえず、町は出ましたが次は何処へ行くつもりですか?」

手綱を握りしめたジャンが尋ねてきた。

「そうね……それじゃ、港がある町に向かいましょう」

「港ですか?」

「どうして港に行くのです?」

ジャンとニーナが首を傾げる。

「港へ行けば、船に乗ってもっと遠くへ行くことができるでしょう? 少しでもマルケロフ家から遠く離れたいのよ。それに世界を回ってみたいしね」

「すごい! 何だか壮大な旅になりそうですね!」

「私、何だかワクワクしてきました」

嬉しそうに笑う二人。

「そうでしょう? 私も楽しみよ。それじゃ、港を目指しましょう!」

「「はい!!」」

こうして私達を乗せた馬車は、港目指して進み始めた。

後をつけている人物がいるということに、気づくこともなく――




しおりを挟む
感想 95

あなたにおすすめの小説

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

処理中です...