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1章 9 質屋で演技
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「良かったですね、リアンナ様。質屋が開いていて」
私と一緒に馬車から降り立ったニーナが店の前で嬉しそうに話しかけてきた。
「そうね。ラッキーだったわ」
「ラッキーってどういう意味です?」
「ラッキーっていうのは、ついてるって意味よ。さて、それじゃニーナ。ジャン。質屋に入るわよ」
私は二人に声をかけた。
「え? 俺も行くのですか?」
自分まで行くことになるとは思わなかったのか、ジャンが首を傾げる。
「勿論、お付きの者は1人でも多いほうがいいじゃない。少でも身分を高く見せるための常套手段よ。ジャン、これからあなたは高圧的な態度を取ってもらうわよ。いいわね?」
「はぁ……分かりました。頑張ります」
「よし、それじゃ入るわよ。二人共」
「「はい」」
そして私は堂々とした態度で扉を開けると、店内に足を踏み入れた。
「ここが質屋ね。ふ~ん……中々良い店のようじゃない?」
店の中は日本の質屋とあまり雰囲気が変わらないように見える。店内には様々な服やドレスが吊るされ、カウンターの棚にはアクセサリーがズラリと並べられている。
「いらっしゃいま……せ?」
カウンターの奥にから黒縁メガネの男性が出てきた。私を見るとその表情は一瞬ギョッとした顔つきに変わる。
でも店員が驚くのは無理もない話だろう。
裾が広がった舞踏会用のゴージャスドレスに、イヤリングやネックレス。指輪と言った装飾品をゴテゴテと身につけた女性が質屋に現れたのだから。
「あ、あの~……当店にはどのような御用件で……」
「勿論、質屋に用があってきたのよ。私の身につけているドレスやら装飾品、全て買い取って頂こうかと思ってね」
わざと高飛車な態度を取る。
何しろ、高値で買い取ってもらわなければならないのだから舐められるわけにはいかない。
「え……? そちらのドレスから、装飾品まで全て……ですか?」
店員は私をジロジロと見つめる。
すると……。
「店主、我らの主をあまり不躾な目で見ないで頂こう」
ジャンがズイッと進み出てきた。
「こちらの女性は、リアンナ・マルケロフ侯爵令嬢。マルケロフ家くらいは聞いたことがあるだろう? この土地の領主なのだから」
「え……ええっ!? マルケロフ侯爵令嬢ですか!? も、申し訳ございません! 何しろ、ここは質屋。侯爵家の方が来店されるような店ではありませんので……」
おおっ! ジャン……中々の役者だ。彼なら、きっと良い働きをしてくれるに違いない。
そこで私は再び口を開いた。
「およしなさい、ジャン。質屋の店主なら知らなくても無理ないわ。でも、私が誰だか分かったのなら、先ずはドレスから査定してもらいましょうか? 代わりに……そうね。別の服をいただこうかしら」
「で、ですがここは質屋です。お気に召す用なドレスなど、取り扱いはしておりません」
申し訳無さそうに謝る店主に、私は首を振った。
「ドレスは必要じゃないわ。普通の平民が着る服でいいのよ。これから私達はお忍びで領地を視察して周る予定なの。ドレスなど着ていたら目立つでしょう?」
口からペラペラでまかせを言う私。
ドレスなんか着慣れないし、目立ってしようがない。それに何より当面の生活費のために、お金を工面しなければならないのだ。
「おおっ……これは何と立派なお言葉……かしこまりました。それでしたらお任せください。平民女性が着る普段着を各種ご用意してあります。あちらに取り揃えてありますのでご自由にお試しください」
店主が示した先には、シンプルなワンピースやブラウス、スカートなどがズラリと吊り下げられていた。
「ありがとう、早速選ばせてもらうわ」
そこで私は紺色のワンピースにエプロンドレスをチョイスすると、試着室でニーナに手伝って貰って着替えてみた。
「まぁ、リアンナ様。よくお似合いですわ。初めはなんて地味な服を選ばれたのだと思いましたが……素敵です」
「そう? ありがとう。やっぱり動きやすさが一番よね」
息が詰まりそうなコルセットも脱ぎ捨てたので、すっかり身軽になれた私は早速試着室を出た。
すると、店主とジャンが驚きの顔を浮かべた。
「おお! これはまた……お似合いでいらっしゃいますね」
「ほ、本当にリアンナ様ですか……?」
そこで私はにっこり笑った。
「それでは、早速このドレス……査定してもらおうかしら?」
「お願いします」
私のドレスを手にしていたニーナが店主にドレスを差し出した。
「は、はい! 直ちに査定させていただきます!」
そこへ、ジャンが追い打ちをかける。
「いいか? このドレスはマルケロフ侯爵家が新調したドレスだ。そんじょそこらの安物と一緒にするなよ?」
「ひぃ! わ、分かりました!」
怯えた声を上げる店主。
う~ん……何だか脅迫しているように聞こえるのは……多分、気の所為だろう。
――その後。
査定の結果、ドレスとコルセットは230万ロン(平均給料の10ヶ月分)という金額で買い取りしてもらえたのだった――
私と一緒に馬車から降り立ったニーナが店の前で嬉しそうに話しかけてきた。
「そうね。ラッキーだったわ」
「ラッキーってどういう意味です?」
「ラッキーっていうのは、ついてるって意味よ。さて、それじゃニーナ。ジャン。質屋に入るわよ」
私は二人に声をかけた。
「え? 俺も行くのですか?」
自分まで行くことになるとは思わなかったのか、ジャンが首を傾げる。
「勿論、お付きの者は1人でも多いほうがいいじゃない。少でも身分を高く見せるための常套手段よ。ジャン、これからあなたは高圧的な態度を取ってもらうわよ。いいわね?」
「はぁ……分かりました。頑張ります」
「よし、それじゃ入るわよ。二人共」
「「はい」」
そして私は堂々とした態度で扉を開けると、店内に足を踏み入れた。
「ここが質屋ね。ふ~ん……中々良い店のようじゃない?」
店の中は日本の質屋とあまり雰囲気が変わらないように見える。店内には様々な服やドレスが吊るされ、カウンターの棚にはアクセサリーがズラリと並べられている。
「いらっしゃいま……せ?」
カウンターの奥にから黒縁メガネの男性が出てきた。私を見るとその表情は一瞬ギョッとした顔つきに変わる。
でも店員が驚くのは無理もない話だろう。
裾が広がった舞踏会用のゴージャスドレスに、イヤリングやネックレス。指輪と言った装飾品をゴテゴテと身につけた女性が質屋に現れたのだから。
「あ、あの~……当店にはどのような御用件で……」
「勿論、質屋に用があってきたのよ。私の身につけているドレスやら装飾品、全て買い取って頂こうかと思ってね」
わざと高飛車な態度を取る。
何しろ、高値で買い取ってもらわなければならないのだから舐められるわけにはいかない。
「え……? そちらのドレスから、装飾品まで全て……ですか?」
店員は私をジロジロと見つめる。
すると……。
「店主、我らの主をあまり不躾な目で見ないで頂こう」
ジャンがズイッと進み出てきた。
「こちらの女性は、リアンナ・マルケロフ侯爵令嬢。マルケロフ家くらいは聞いたことがあるだろう? この土地の領主なのだから」
「え……ええっ!? マルケロフ侯爵令嬢ですか!? も、申し訳ございません! 何しろ、ここは質屋。侯爵家の方が来店されるような店ではありませんので……」
おおっ! ジャン……中々の役者だ。彼なら、きっと良い働きをしてくれるに違いない。
そこで私は再び口を開いた。
「およしなさい、ジャン。質屋の店主なら知らなくても無理ないわ。でも、私が誰だか分かったのなら、先ずはドレスから査定してもらいましょうか? 代わりに……そうね。別の服をいただこうかしら」
「で、ですがここは質屋です。お気に召す用なドレスなど、取り扱いはしておりません」
申し訳無さそうに謝る店主に、私は首を振った。
「ドレスは必要じゃないわ。普通の平民が着る服でいいのよ。これから私達はお忍びで領地を視察して周る予定なの。ドレスなど着ていたら目立つでしょう?」
口からペラペラでまかせを言う私。
ドレスなんか着慣れないし、目立ってしようがない。それに何より当面の生活費のために、お金を工面しなければならないのだ。
「おおっ……これは何と立派なお言葉……かしこまりました。それでしたらお任せください。平民女性が着る普段着を各種ご用意してあります。あちらに取り揃えてありますのでご自由にお試しください」
店主が示した先には、シンプルなワンピースやブラウス、スカートなどがズラリと吊り下げられていた。
「ありがとう、早速選ばせてもらうわ」
そこで私は紺色のワンピースにエプロンドレスをチョイスすると、試着室でニーナに手伝って貰って着替えてみた。
「まぁ、リアンナ様。よくお似合いですわ。初めはなんて地味な服を選ばれたのだと思いましたが……素敵です」
「そう? ありがとう。やっぱり動きやすさが一番よね」
息が詰まりそうなコルセットも脱ぎ捨てたので、すっかり身軽になれた私は早速試着室を出た。
すると、店主とジャンが驚きの顔を浮かべた。
「おお! これはまた……お似合いでいらっしゃいますね」
「ほ、本当にリアンナ様ですか……?」
そこで私はにっこり笑った。
「それでは、早速このドレス……査定してもらおうかしら?」
「お願いします」
私のドレスを手にしていたニーナが店主にドレスを差し出した。
「は、はい! 直ちに査定させていただきます!」
そこへ、ジャンが追い打ちをかける。
「いいか? このドレスはマルケロフ侯爵家が新調したドレスだ。そんじょそこらの安物と一緒にするなよ?」
「ひぃ! わ、分かりました!」
怯えた声を上げる店主。
う~ん……何だか脅迫しているように聞こえるのは……多分、気の所為だろう。
――その後。
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