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1章 8 喧嘩はやめて
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町に到着したのは午後9時を少し過ぎたところだった。
「何だか、あまり人がいないわね……それにお店もあまり開いていないみたいだし」
馬車の窓から見える町の景色は閑散としていた。大通りに面した店は半分以上明かりが消えて暗くなっている。
「それは当然のことですよ、リアンナ様。だってもう夜ですよ? 開いているお店と言えば、料理やお酒を提供するお店。もしくは宿屋くらいなものです」
ニーナが教えてくれた。
「そうだったのね……困ったな……。ねぇニーナ。聞きにくいことを尋ねるけど……お金持っている?」
「え? お、お金ですか……? ちょっと待ってくださいね」
ニーナはエプロンのポケットに手を入れ……たちまち悲しげな顔に変わる。
「……申し訳ございません、リアンナ様。お財布ごと、マルケロフ家に置いてきてしまいました。でも、待ってくださいね。まだ私達には頼もしい仲間、ジャンがいますから。 ジャン!! 馬車を止めて、降りてきてくれる!?」
ニーナは御者台のジャンに大きな声で呼びかけた。
「え? 分かった!」
馬を止めたジャンが御者台から降りてくる姿が見え、すぐに扉が開かれた。
「どうしたんだ? ニーナ」
「ジャン、お金持ってる!?」
「はぁ? お金?」
いきなりニーナに現金のことを聞かれ、目を見開くジャン。
「そうよ、お金。私、全く持ち合わせがないのよ。それに……」
チラリとニーナが私を見る。
「アハハハ……ごめんね。私も全くお金を持っていなかったみたい……」
そう、あろうことかリアンナは一切のお金を持ち歩いていなかったのだ。こんなことって日本人だった私にはありえない。
まぁ確かにキャッシュレスの時代にはなってきていた。それでもお金は必要でしょう? ましてやこの世界には文明機器など無いのだから。
「リアンナ様がお金を持ち歩かないのは、無理もない話ですよ。何しろ侯爵令嬢なのですから……」
「え? そうなの? 侯爵令嬢ならお金を持ち歩かないのは無理もない話なの?」
知らなかった!
先程まで持ち合わせがなく、恥ずかしい思いをしていただけにホッとする。
「ええ、そうですよ。大抵買い物をする際はまとめて月末払いか、小切手を切っていましたから」
ジャンが説明してくれる。
「月末払いか小切手……」
駄目だ、今の屋敷を追い出されてしまったリアンナにとっては通用しない支払い方法だ。
「う~ん……だけど困ったな……俺も、これだけしか持っていないんだよ」
ジャンはズボンのポケットに手を突っ込み、握りしめた手を広げた。
手の平には、10円硬化に似たコインが数枚乗っている。
これって、日本円に換算するといくらぐらいなのだろう?
仮にも侯爵家で働く御者なのだから、期待してもよいだろうか……?
しかし、すぐに私の期待は打ち砕かれることになる。
「……はぁ!? ちょっとジャン! 何よ、これっぽっちしか無いの!? 600ロンしか持っていないの!? これじゃ、子供の小遣い程度じゃないの!」
「ええ!? そ、そうなの!?」
ニーナの言葉に落胆する。
「何言ってるんだよ! そういうニーナは何だよ! 1ロンも持っていないじゃないか!」
「仕方ないでしょう!? メイドはね、お金を持ち歩いて仕事なんかしないのよ!」
「俺だってそうだよ!」
「御者なら外出する機会が多いのだから、お金を持ち歩くべきでしょう!?」
「俺は御者じゃない! 庭師だよ!」
ニーナの言葉に反論するジャン。
「え!? 庭師だったの!?」
いや、別にもうジャンが御者だろうが庭師だろうが関係ない。
今やニーナとジャンは一種即発状態だ。こんなところで仲間割れしている場合ではないというのに。
「まって! 落ち着いて二人共! 喧嘩は駄目よ。仲良くしないと!」
「「リアンナ様……」」
睨み合っていた二人は私の言葉に喧嘩をやめた。
「喧嘩をしていても始まらないわ。とにかく今の私達にはお金が全く無いということよ。というわけで……この町に質屋はある?」
私はニーナとジャンの顔を交互に見た――
「何だか、あまり人がいないわね……それにお店もあまり開いていないみたいだし」
馬車の窓から見える町の景色は閑散としていた。大通りに面した店は半分以上明かりが消えて暗くなっている。
「それは当然のことですよ、リアンナ様。だってもう夜ですよ? 開いているお店と言えば、料理やお酒を提供するお店。もしくは宿屋くらいなものです」
ニーナが教えてくれた。
「そうだったのね……困ったな……。ねぇニーナ。聞きにくいことを尋ねるけど……お金持っている?」
「え? お、お金ですか……? ちょっと待ってくださいね」
ニーナはエプロンのポケットに手を入れ……たちまち悲しげな顔に変わる。
「……申し訳ございません、リアンナ様。お財布ごと、マルケロフ家に置いてきてしまいました。でも、待ってくださいね。まだ私達には頼もしい仲間、ジャンがいますから。 ジャン!! 馬車を止めて、降りてきてくれる!?」
ニーナは御者台のジャンに大きな声で呼びかけた。
「え? 分かった!」
馬を止めたジャンが御者台から降りてくる姿が見え、すぐに扉が開かれた。
「どうしたんだ? ニーナ」
「ジャン、お金持ってる!?」
「はぁ? お金?」
いきなりニーナに現金のことを聞かれ、目を見開くジャン。
「そうよ、お金。私、全く持ち合わせがないのよ。それに……」
チラリとニーナが私を見る。
「アハハハ……ごめんね。私も全くお金を持っていなかったみたい……」
そう、あろうことかリアンナは一切のお金を持ち歩いていなかったのだ。こんなことって日本人だった私にはありえない。
まぁ確かにキャッシュレスの時代にはなってきていた。それでもお金は必要でしょう? ましてやこの世界には文明機器など無いのだから。
「リアンナ様がお金を持ち歩かないのは、無理もない話ですよ。何しろ侯爵令嬢なのですから……」
「え? そうなの? 侯爵令嬢ならお金を持ち歩かないのは無理もない話なの?」
知らなかった!
先程まで持ち合わせがなく、恥ずかしい思いをしていただけにホッとする。
「ええ、そうですよ。大抵買い物をする際はまとめて月末払いか、小切手を切っていましたから」
ジャンが説明してくれる。
「月末払いか小切手……」
駄目だ、今の屋敷を追い出されてしまったリアンナにとっては通用しない支払い方法だ。
「う~ん……だけど困ったな……俺も、これだけしか持っていないんだよ」
ジャンはズボンのポケットに手を突っ込み、握りしめた手を広げた。
手の平には、10円硬化に似たコインが数枚乗っている。
これって、日本円に換算するといくらぐらいなのだろう?
仮にも侯爵家で働く御者なのだから、期待してもよいだろうか……?
しかし、すぐに私の期待は打ち砕かれることになる。
「……はぁ!? ちょっとジャン! 何よ、これっぽっちしか無いの!? 600ロンしか持っていないの!? これじゃ、子供の小遣い程度じゃないの!」
「ええ!? そ、そうなの!?」
ニーナの言葉に落胆する。
「何言ってるんだよ! そういうニーナは何だよ! 1ロンも持っていないじゃないか!」
「仕方ないでしょう!? メイドはね、お金を持ち歩いて仕事なんかしないのよ!」
「俺だってそうだよ!」
「御者なら外出する機会が多いのだから、お金を持ち歩くべきでしょう!?」
「俺は御者じゃない! 庭師だよ!」
ニーナの言葉に反論するジャン。
「え!? 庭師だったの!?」
いや、別にもうジャンが御者だろうが庭師だろうが関係ない。
今やニーナとジャンは一種即発状態だ。こんなところで仲間割れしている場合ではないというのに。
「まって! 落ち着いて二人共! 喧嘩は駄目よ。仲良くしないと!」
「「リアンナ様……」」
睨み合っていた二人は私の言葉に喧嘩をやめた。
「喧嘩をしていても始まらないわ。とにかく今の私達にはお金が全く無いということよ。というわけで……この町に質屋はある?」
私はニーナとジャンの顔を交互に見た――
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