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1章 6 恐ろしい家族
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夜道の緑道を馬車は走り続けた。
美しい満月に照らし出された緑道はなんとも幻想的でファンタジーな世界に見える。
「リアンナ様。このあたりはマルケロフ家の私有地なので、もうすぐお屋敷に到着しますよ」
「え!? 嘘! ここって、私有地だったの!?」
ニーナの言葉に驚く。
「はい、そうですよ」
「すっご……い」
一体どれだけマルケロフ家はお金持ちなのだろう?
「あ! お屋敷が見えてきましたよ! あれがマルケロフ家のお屋敷です!」
一緒に外の景色を眺めていたニーナが前方を指差した。
緑道の先には、まるで大型リゾートホテルのような建物が見える。
「うわぁ~……すごい……」
あんな大きな屋敷に住んでいるとは、マルケロフ家は相当の名家なのだろう。
「リアンナ様、ひたすら謝り続ければ旦那様もベネディクト様もひょっとするとお許し下さるかもしれません。どうか頑張ってくださいね!?」
「あははは……うまくいくといいけどね……」
仮にも、リアンナはこの家の令嬢なのだ。恐らく彼女の父も兄も許してくれるだろう。
このときまでの私は、そんな呑気なことを考えていた。
けれど……現実は、それほど甘くは無かったのだった――
****
馬車を降りた私は屋敷の扉の前に立っていた。
背後にはニーナとジャンが控えている。
「そ、それじゃ……呼び鈴を鳴らすわよ……」
扉の前に吊るされた呼び鈴の紐を握りしめると、私はニーナとジャンを振り返った。
「はい、リアンナ様」
「どうぞ、鳴らしてください」
ニーナとジャンが交互に頷く。
私は2人に後押しされるように呼び鈴の紐を2回引っ張り、その場で待った。
すると……。
ギィイイイ~……
軋んだ音を立てて扉が開かれ、黒いスーツ姿の初老の男性が姿を見せた。
「リアンナお嬢様……お戻りになられたのですね?」
「ええ、ただいま」
そしてそのまま屋敷の中へ入ろうとし……。
「お待ち下さい、どちらへ行かれるおつもりですか?」
冷たい声で背後から呼び止められた。
「え? どちらへって……」
そうだ、考えてみれば私はこの身体の記憶が全く無い。リアンナの部屋がどこにあるのかも分からないのだ。
そこで、ニーナに声をかけた。
「ニーナ。一緒に部屋まで行くわよ」
「はい、リアンナ様……」
ニーナが返事をした途端、初老の男性がとんでもない言葉を口にした。
「リアンナお嬢様、旦那さまとベネディクト様から屋敷の中へ入れないように命じられております。お二人がこちらにお見えになるまで、勝手に屋敷内をうろつかないでください」
「う、うろつく……?」
あまりの表現に思わず男性を振り返ると、視線だけで凍りつかせるような冷たい瞳で私を見つめていた。
そのとき――
「よくも図々しく、この屋敷に足を踏み入れたものだな」
冷たい声がエントランスに響き渡った。
「旦那様、ベネディクト様。お待ちしておりました」
私を睨みつけていた男性が丁寧にお辞儀をする。リアンナの父親と兄が、現れたのだ。
恐る恐る振り向くと、リアンナに良く似た風貌の中年男性と青年が怒りの表情を浮かべて立っていた。
「あ、あの……ただいま、戻りました……」
「何故戻って来た!! この屋敷を出た段階で、二度とここには戻ってくるなと言っただろう!!」
父親と思しき男性が、怒鳴りつけてきた。
「由緒正しい、マルケロフ侯爵家でありながら……みすみす伯爵家の者に、次期王妃の座を奪われるとは……よくも俺と父に恥をかかせてくれたな!」
リアンナの兄、ベネディクトも怒りの眼差しを向けてくる。
「旦那様! リアンナ様は反省しております! どうかお許し頂けないでしょうか!?」
すると今まで口を閉ざしていたジャンが駆け寄り、まるで私を守るかのように立ちふさがった。
「黙れ! 使用人の分際で主人に楯突く気か!」
リアンナの父は声を荒げ、ジャンを突き飛ばした。
「うっ!」
「ジャン!」
床に激しく倒れ込んだジャンの元に、ニーナが駆け寄って抱き起こした。
「乱暴な真似はしないでください!」
我慢できずに私は父親に訴えた。
「黙れ!!」
バシッ!!
次の瞬間左頬が熱くなり、一瞬目から火花が飛んだ。
――叩かれたのだ。
まさか、娘に手を挙げるとは……信じられなかった。だが、今の行動で全てを理解した。
リアンナはこの屋敷に居場所が無いのだと。……だったら長居は無用だ。
「分かりました……出て行けと仰るのなら出ていきます」
私はそれだけ告げると、くるりと背中を向けて扉の外へ向かって歩き始めた。
「ああ! 二度と戻って来るな!」
その時。
「ちょっと待て! リアンナッ!」
不意にベネディクトの声が聞こえた。
まさか……引き止めてくれるのだろうか?
そう思い、振り返ろうとした次の瞬間……。
「お前……俺が渡した毒を飲まなかったのだな。せっかく人が親切に渡してやったというのに」
「え……?」
その言葉にぞっとした。
毒……?
リアンナは実の兄から自殺を促されていたのだろうか………?
その事実を知り、背筋がぞっとした。
「今までお世話になりました!」
それだけ告げると、私は逃げるように屋敷を飛び出した。
冗談じゃない!
こんなところにいたら、命が幾つ合っても足りるわけないじゃない!!
「待ってください! リアンナ様っ!!」
「俺達も連れて行ってください!!」
ニーナとジャンが追いかけてきたのは、言うまでも無い――
美しい満月に照らし出された緑道はなんとも幻想的でファンタジーな世界に見える。
「リアンナ様。このあたりはマルケロフ家の私有地なので、もうすぐお屋敷に到着しますよ」
「え!? 嘘! ここって、私有地だったの!?」
ニーナの言葉に驚く。
「はい、そうですよ」
「すっご……い」
一体どれだけマルケロフ家はお金持ちなのだろう?
「あ! お屋敷が見えてきましたよ! あれがマルケロフ家のお屋敷です!」
一緒に外の景色を眺めていたニーナが前方を指差した。
緑道の先には、まるで大型リゾートホテルのような建物が見える。
「うわぁ~……すごい……」
あんな大きな屋敷に住んでいるとは、マルケロフ家は相当の名家なのだろう。
「リアンナ様、ひたすら謝り続ければ旦那様もベネディクト様もひょっとするとお許し下さるかもしれません。どうか頑張ってくださいね!?」
「あははは……うまくいくといいけどね……」
仮にも、リアンナはこの家の令嬢なのだ。恐らく彼女の父も兄も許してくれるだろう。
このときまでの私は、そんな呑気なことを考えていた。
けれど……現実は、それほど甘くは無かったのだった――
****
馬車を降りた私は屋敷の扉の前に立っていた。
背後にはニーナとジャンが控えている。
「そ、それじゃ……呼び鈴を鳴らすわよ……」
扉の前に吊るされた呼び鈴の紐を握りしめると、私はニーナとジャンを振り返った。
「はい、リアンナ様」
「どうぞ、鳴らしてください」
ニーナとジャンが交互に頷く。
私は2人に後押しされるように呼び鈴の紐を2回引っ張り、その場で待った。
すると……。
ギィイイイ~……
軋んだ音を立てて扉が開かれ、黒いスーツ姿の初老の男性が姿を見せた。
「リアンナお嬢様……お戻りになられたのですね?」
「ええ、ただいま」
そしてそのまま屋敷の中へ入ろうとし……。
「お待ち下さい、どちらへ行かれるおつもりですか?」
冷たい声で背後から呼び止められた。
「え? どちらへって……」
そうだ、考えてみれば私はこの身体の記憶が全く無い。リアンナの部屋がどこにあるのかも分からないのだ。
そこで、ニーナに声をかけた。
「ニーナ。一緒に部屋まで行くわよ」
「はい、リアンナ様……」
ニーナが返事をした途端、初老の男性がとんでもない言葉を口にした。
「リアンナお嬢様、旦那さまとベネディクト様から屋敷の中へ入れないように命じられております。お二人がこちらにお見えになるまで、勝手に屋敷内をうろつかないでください」
「う、うろつく……?」
あまりの表現に思わず男性を振り返ると、視線だけで凍りつかせるような冷たい瞳で私を見つめていた。
そのとき――
「よくも図々しく、この屋敷に足を踏み入れたものだな」
冷たい声がエントランスに響き渡った。
「旦那様、ベネディクト様。お待ちしておりました」
私を睨みつけていた男性が丁寧にお辞儀をする。リアンナの父親と兄が、現れたのだ。
恐る恐る振り向くと、リアンナに良く似た風貌の中年男性と青年が怒りの表情を浮かべて立っていた。
「あ、あの……ただいま、戻りました……」
「何故戻って来た!! この屋敷を出た段階で、二度とここには戻ってくるなと言っただろう!!」
父親と思しき男性が、怒鳴りつけてきた。
「由緒正しい、マルケロフ侯爵家でありながら……みすみす伯爵家の者に、次期王妃の座を奪われるとは……よくも俺と父に恥をかかせてくれたな!」
リアンナの兄、ベネディクトも怒りの眼差しを向けてくる。
「旦那様! リアンナ様は反省しております! どうかお許し頂けないでしょうか!?」
すると今まで口を閉ざしていたジャンが駆け寄り、まるで私を守るかのように立ちふさがった。
「黙れ! 使用人の分際で主人に楯突く気か!」
リアンナの父は声を荒げ、ジャンを突き飛ばした。
「うっ!」
「ジャン!」
床に激しく倒れ込んだジャンの元に、ニーナが駆け寄って抱き起こした。
「乱暴な真似はしないでください!」
我慢できずに私は父親に訴えた。
「黙れ!!」
バシッ!!
次の瞬間左頬が熱くなり、一瞬目から火花が飛んだ。
――叩かれたのだ。
まさか、娘に手を挙げるとは……信じられなかった。だが、今の行動で全てを理解した。
リアンナはこの屋敷に居場所が無いのだと。……だったら長居は無用だ。
「分かりました……出て行けと仰るのなら出ていきます」
私はそれだけ告げると、くるりと背中を向けて扉の外へ向かって歩き始めた。
「ああ! 二度と戻って来るな!」
その時。
「ちょっと待て! リアンナッ!」
不意にベネディクトの声が聞こえた。
まさか……引き止めてくれるのだろうか?
そう思い、振り返ろうとした次の瞬間……。
「お前……俺が渡した毒を飲まなかったのだな。せっかく人が親切に渡してやったというのに」
「え……?」
その言葉にぞっとした。
毒……?
リアンナは実の兄から自殺を促されていたのだろうか………?
その事実を知り、背筋がぞっとした。
「今までお世話になりました!」
それだけ告げると、私は逃げるように屋敷を飛び出した。
冗談じゃない!
こんなところにいたら、命が幾つ合っても足りるわけないじゃない!!
「待ってください! リアンナ様っ!!」
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