5 / 81
1章 4 見送りと迎え
しおりを挟む
「そ、そんな……」
震えながら鏡に近づき、改めて自分の顔をじっと見つめる。
「どうしたのですか? リアンナ様?」
背後でカインの戸惑うような声が聞こえるも、今の私はそれどころではなかった。
「な……」
「え?」
「な、なんって美人なのぉ~っ!!」
「は?」
「波打つような栗毛色の髪、色白で彫りの深い顔立ち。何と言ってもまるで宝石のような緑色の瞳……! 美しすぎるわ!」
鏡の前にへばりつき、自分の今の顔をうっとり眺める。
「あ、あの~……リアンナ様……?」
何処か呆れた様子のカインが鏡に映り込んでいる。
「あ、すみません。つい、見惚れてしまって……申し訳ございません。では参りましょうか?」
慌てて我に返る私。
「は、はぁ……では行きましょう」
「はい」
こうして私は再びカインに連れられて城の出口まで案内された――
「この扉から外に出ることが出来ます」
アーチ型の木製扉の前に到着すると、カインが私を振り返った。
「そうですか……ありがとうございます」
カインに礼を述べるも、今の私は不安でいっぱいだった。殿下に出て行けと言われて、あの会場から出てきたまではいい。
けれど、ここを出たとして……私は一体何処へ行けばいいのだろう?
自分の名前と身分は分かったものの、それ以上のことは何も分からない。
年齢も、家族のことも……それに、何処に住んでいるかも。
かと言って、あのパーティー会場にもいられるはずはなかった。
殿下には憎悪の目で見られ、出席者たちは全員が私に蔑みや敵意の込められて目で睨みつけているのだから。
唯一の救いは……私をここまで案内してくれたカインだけだろうか?
彼だけは私に対し、敵意を露わにすることはない。
「どうしたのですか? お帰りにならないのですか? それに何だか顔色がすぐれないようですけど?」
カインが尋ねてきた。
「い、いえ。帰ります。ここまで送って頂き、ありがとうございました」
自分で扉を開けようとすると、カインが引き止めた。
「この扉は女性が開けるには大変です。僕が開けますよ」
カインは私が返事をする前に、大扉を開け放してくれた。
「ご親切にお見送りして頂き、ありがとうございます」
再び、御礼を述べるとカインが神妙な顔つきになる。
「あの……リアンナ様……」
「はい、何でしょうか?」
リアンナという名前は全く自分の名前に思えなかったが返事をした。
「いえ。何でもありません。どうぞお気をつけてお帰りください」
「は? はい」
カインに見送られながら、扉を通り抜けるとバタンと音を立ててすぐに閉ざされてしまった。
「……ふぅ。これからどうすればいいのかな……」
私の眼前には、まるで広場のような広大な敷地が広がっている。その先には敷地を取り囲んだ城門が見える。
「とりあえず、あの門まで歩くしか無いわね……」
ため息をつき、数百メートルは先にあるかと思われる門を目指して歩き始めた。
****
「うう……本当に遠いわね……」
歩きにくいドレスに、履き慣れない靴で歩き続け……ようやく半分程門まで距離が近づいた頃。
開かれた門から、1台の馬車が近づいてくる様子が見えてきた。
「すごい! 馬車だわ!」
本物の馬車など、見るのは初めてだ。感心していると、馬車はどんどんこちらへ近づき、手綱を握りしめている青年の姿も見えてきた。
「ふ~ん。あの人が御者ね。誰かを迎えに来たのかな?」
馬車はまっすぐ私の方に向かって走ってくる。
あれ? 何だかこっちに向かって近づいてきている……?
そう思った矢先。
「リアンナ様ーっ!!」
御者の青年が突然大きな声で私の名前を呼んだ。
「え? もしかして私を迎えに来たの!?」
すると案の定、馬車は私の直ぐ側で止まった。
「リアンナ様……やはり追い出されてしまったのですね? 待機していて良かったです」
青年は憐れむような視線を私に向ける。
「え?」
もしかすると、この人物は私のことを良く知っているのだろうか?
なら、尋ねるしかないでしょう!?
「あ、あの……」
口を開いた途端。
「リアンナ様っ!」
突然馬車の扉が開かれて、メイド服姿の若い女性が姿を現した。
「え? メ、メイド!?」
女声は馬車から降りてくると、涙目で私の両手を握りしめてきた。
「リアンナ様……旦那様がなんと仰るかは分かりませんが……とりあえず、屋敷に戻ってみましょう」
「ええ、そうです。誠心誠意を持って懇願すれば、旦那様もお許しになっていただけるかもしれません!」
御者の青年の顔は悲壮感が漂っている。
え? 一体どういうこと!? 状況がさっぱり分からないのですけど!
「アハハハ……そ、そうね……」
果てしなく嫌な予感を抱きながら、笑って返事をするしか無かった――
震えながら鏡に近づき、改めて自分の顔をじっと見つめる。
「どうしたのですか? リアンナ様?」
背後でカインの戸惑うような声が聞こえるも、今の私はそれどころではなかった。
「な……」
「え?」
「な、なんって美人なのぉ~っ!!」
「は?」
「波打つような栗毛色の髪、色白で彫りの深い顔立ち。何と言ってもまるで宝石のような緑色の瞳……! 美しすぎるわ!」
鏡の前にへばりつき、自分の今の顔をうっとり眺める。
「あ、あの~……リアンナ様……?」
何処か呆れた様子のカインが鏡に映り込んでいる。
「あ、すみません。つい、見惚れてしまって……申し訳ございません。では参りましょうか?」
慌てて我に返る私。
「は、はぁ……では行きましょう」
「はい」
こうして私は再びカインに連れられて城の出口まで案内された――
「この扉から外に出ることが出来ます」
アーチ型の木製扉の前に到着すると、カインが私を振り返った。
「そうですか……ありがとうございます」
カインに礼を述べるも、今の私は不安でいっぱいだった。殿下に出て行けと言われて、あの会場から出てきたまではいい。
けれど、ここを出たとして……私は一体何処へ行けばいいのだろう?
自分の名前と身分は分かったものの、それ以上のことは何も分からない。
年齢も、家族のことも……それに、何処に住んでいるかも。
かと言って、あのパーティー会場にもいられるはずはなかった。
殿下には憎悪の目で見られ、出席者たちは全員が私に蔑みや敵意の込められて目で睨みつけているのだから。
唯一の救いは……私をここまで案内してくれたカインだけだろうか?
彼だけは私に対し、敵意を露わにすることはない。
「どうしたのですか? お帰りにならないのですか? それに何だか顔色がすぐれないようですけど?」
カインが尋ねてきた。
「い、いえ。帰ります。ここまで送って頂き、ありがとうございました」
自分で扉を開けようとすると、カインが引き止めた。
「この扉は女性が開けるには大変です。僕が開けますよ」
カインは私が返事をする前に、大扉を開け放してくれた。
「ご親切にお見送りして頂き、ありがとうございます」
再び、御礼を述べるとカインが神妙な顔つきになる。
「あの……リアンナ様……」
「はい、何でしょうか?」
リアンナという名前は全く自分の名前に思えなかったが返事をした。
「いえ。何でもありません。どうぞお気をつけてお帰りください」
「は? はい」
カインに見送られながら、扉を通り抜けるとバタンと音を立ててすぐに閉ざされてしまった。
「……ふぅ。これからどうすればいいのかな……」
私の眼前には、まるで広場のような広大な敷地が広がっている。その先には敷地を取り囲んだ城門が見える。
「とりあえず、あの門まで歩くしか無いわね……」
ため息をつき、数百メートルは先にあるかと思われる門を目指して歩き始めた。
****
「うう……本当に遠いわね……」
歩きにくいドレスに、履き慣れない靴で歩き続け……ようやく半分程門まで距離が近づいた頃。
開かれた門から、1台の馬車が近づいてくる様子が見えてきた。
「すごい! 馬車だわ!」
本物の馬車など、見るのは初めてだ。感心していると、馬車はどんどんこちらへ近づき、手綱を握りしめている青年の姿も見えてきた。
「ふ~ん。あの人が御者ね。誰かを迎えに来たのかな?」
馬車はまっすぐ私の方に向かって走ってくる。
あれ? 何だかこっちに向かって近づいてきている……?
そう思った矢先。
「リアンナ様ーっ!!」
御者の青年が突然大きな声で私の名前を呼んだ。
「え? もしかして私を迎えに来たの!?」
すると案の定、馬車は私の直ぐ側で止まった。
「リアンナ様……やはり追い出されてしまったのですね? 待機していて良かったです」
青年は憐れむような視線を私に向ける。
「え?」
もしかすると、この人物は私のことを良く知っているのだろうか?
なら、尋ねるしかないでしょう!?
「あ、あの……」
口を開いた途端。
「リアンナ様っ!」
突然馬車の扉が開かれて、メイド服姿の若い女性が姿を現した。
「え? メ、メイド!?」
女声は馬車から降りてくると、涙目で私の両手を握りしめてきた。
「リアンナ様……旦那様がなんと仰るかは分かりませんが……とりあえず、屋敷に戻ってみましょう」
「ええ、そうです。誠心誠意を持って懇願すれば、旦那様もお許しになっていただけるかもしれません!」
御者の青年の顔は悲壮感が漂っている。
え? 一体どういうこと!? 状況がさっぱり分からないのですけど!
「アハハハ……そ、そうね……」
果てしなく嫌な予感を抱きながら、笑って返事をするしか無かった――
1,107
お気に入りに追加
1,837
あなたにおすすめの小説
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる