出ていけ、と言ったのは貴方の方です

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

文字の大きさ
上 下
13 / 14

第13話 出ていくのは貴方の方です

しおりを挟む
「旦那様。もう一度尋ねます。今、私に何と言ったのですか?」

「ああ、何度でも言ってやる。おまえみたいな女はお断りだ。黒縁メガネに黒いひっつめ髪。ただでさえ根暗そうに見えるのに辛気臭い色の服ばかり着やがって。おまけに口を開けば仕事をしろの一点張り。もう、うんざりなんだよ!」

腕組みするとフンと鼻を鳴らすヘンリー。

「私達は、ここ『イナカ』の領主なのですよ? 領民たちのため、領地のために仕事をするのは当然です。旦那様が仕事をしないから、私が代理を勤めているのですよ?そうでなければ、とっくに『イナカ』は終わっています」

「うるさい! 俺はまだ正式な領主じゃない! 親父が領主なんだ! もし、『イナカ』が終わっているなら、仕事を放棄した親父の責任だ! 第一、勝手に仕事をしていたのはおまえだろう!? 俺に強要するなよ!」

しかし、何を言われようとジャンヌは一切動じない。

「なるほど、正式な領主じゃないから、仕事をしないというわけですか? だから毎日毎日遊び呆けていたと言うのですね? しかも様々な女性相手に。そのような勝手な真似が許されるとでも思っているのでしょうか?」

「な、何だ? 文句あるのか? お前は俺を妻だと認めていないと言っただろう? もしかしておまえ、ヤキモチでも焼いているつもりか?」

「ヤキモチですって? フッ。寝言を言うのはやめていただけますか?」

するとその言葉にジャンヌは鼻で笑った。

「はぁ!? お、おまえ……い、今鼻で笑ったな!? 醜女のくせに!」

「醜女……これも記録に残したほうがいいわね」

ジャンヌはポケットからメモ帳を取り出すと、机の上に置かれたペンでサラサラと何かを書き込んでいく。

「おい? 一体何を書いているんだ?」

問いかけに答えることなく、ジャンヌはメモ帳をしまうと、再びヘンリーに向き直った。

「ええ。笑いましたよ。私が言いたいのはそのようなことではありません。貴方はブロンドの若い女性ばかりに手を出していましたね? しかも相手が人妻であろうと」

「うっ!」

「女性たちの夫から訴えが届いておりますよ? 妻が寝取られてしまったので何とかして欲しいと。可哀想に……彼らは相手が領主であるから何も言えないのでしょう」

「だ、だがなぁ! 俺にばかり、罪をなすりつけるなよ! だったら相手の女だって悪いだろう! 嫌ならついてこなきゃいいんだ!」

「まだ、そのような寝言をほざいてらっしゃるのですか? 相手の女性は領主様に逆らえなかったと話しておりましたよ?」

腕組みすると、ジャンヌはジロリと睨みつけた。

「何だって!? そんなのは嘘だ、デタラメだ! 彼女たちは皆喜んで俺についてきたぞ! いい加減な話ばかりしやがって……もう限界だ! さっさと荷物をまとめて出ていけって言ってるだろう!」

すると……。

「いいえ、旦那様。出ていくのはあなたのほうです」

ジャンヌはメガネを外すと、美しい青い瞳で睨みつけた。

「そうです。ヘンリー様。あなたは規約を破りました。よって、ここを出ていかなければなりません」

音も立てずにマイクがヘンリーの背後から声をかけてきた。

「うわぁ!! 気配を隠して背後に立つなって前から言ってるだろう!? それに、何だよ! マイク! おまえ、一体誰の味方なんだ!」

『奥様の味方に決まっています!!』

突如、使用人たちが部屋の中になだれ込んできた。

「な、な、何なんだよ! お前たち……それに規約って一体何のことだよ!」

ヘンリーは震える指先で、ジャンヌを指差す。

「まぁ、旦那様……いえ、ヘンリー。規約にも目を通されていなかったのですね? 本当に何から何までいい加減な方ですわね?」

ジャンヌは引き出しから2枚の書類を取り出すと、マイクに手渡した。

「マイクさん、結婚に関する規約をこの男に聞かせてやってくださいませんか?」

「お、男って……おまえ、一体何様のつもりだよ!」

「だまりなさい! 言いか、よく聞くがよい、ヘンリー」

ついにマイクまで態度を豹変させると、怯えるヘンリーの前で規約を述べ始めた――


しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 3

あなたにおすすめの小説

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】元妃は多くを望まない

つくも茄子
恋愛
シャーロット・カールストン侯爵令嬢は、元上級妃。 このたび、めでたく(?)国王陛下の信頼厚い側近に下賜された。 花嫁は下賜された翌日に一人の侍女を伴って郵便局に赴いたのだ。理由はお世話になった人達にある書類を郵送するために。 その足で実家に出戻ったシャーロット。 実はこの下賜、王命でのものだった。 それもシャーロットを公の場で断罪したうえでの下賜。 断罪理由は「寵妃の悪質な嫌がらせ」だった。 シャーロットには全く覚えのないモノ。当然、これは冤罪。 私は、あなたたちに「誠意」を求めます。 誠意ある対応。 彼女が求めるのは微々たるもの。 果たしてその結果は如何に!?

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

愛する彼には美しい愛人が居た…私と我が家を侮辱したからには、無事では済みませんよ?

coco
恋愛
私たちは仲の良い恋人同士。 そう思っていたのに、愛する彼には美しい愛人が…。 私と我が家を侮辱したからには、あなたは無事では済みませんよ─?

幼馴染を溺愛する旦那様の前から、消えてあげることにします

新野乃花(大舟)
恋愛
「旦那様、幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

処理中です...