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第9話 新妻の働き方改革

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――翌朝の午前5時

「気持ちの良い朝だわ……」

ジャンヌはダブルベッドの上で目覚めた。結局ヘンリーは帰宅することなく、新妻であるジャンヌは1人の夜を過ごしたのだった。

「ふわぁあ~……良く眠れたわ。きっとベッドが素晴らしかったからね。でも贅沢品だわ。これはきっと旦那様の趣味なのかもしれないわね。さて、仕事が待っているから起きなくちゃ」

働き者ジャンヌはベッドから起きると、手早く着替を始めた――


****

「皆さん、おはようございます」

厨房にジャンヌが現れ、働いていた5人の料理人たちはギョッとした。

「あ、あの……どちら様でしょうか……?」

大柄な男がジャンヌに声をかけた。

「私は昨日からヘンリー様の妻となったジャンヌと言います。皆様の働きぶりを見学するために厨房へ足を運んだ次第です」

「え! そうだったのですか? あまりにも地味なお召し物でしたので、気づきませんでした。大変申し訳ございません!」

男性は白帽子を脱ぐと、謝罪する。

「いいえ、気付かないのは当然です。それで、ここの代表の方はどなたですか?」

「はい、私ですけど」

「お名前を教えてくださいますか?」

「コックと申します」

「コックさんですね? これからよろしくお願いします。では、早速ですが食材を見せて頂けますか?」

ジャンヌは笑顔を見せた――


****

「では、皆さん。お仕事頑張ってくださいね」

「「「「「はい、奥様」」」」」

ジャンヌが厨房から出ていくと、とたんに騒然となる料理人達。

「いや~それにしても若奥様には驚いたよ」

「そうだな、食材をチェックしてこれからは旬の野菜を取り入れて仕入れ価格を押さえるように……なんて言うとは」

「それだけじゃない。もっと農家の人たちを助けてあげるように、領地だけで生産している畜産物を料理に使用するようにだってよ」

「見てくれよ、この価格表。今一番お手頃な食材のリストだぜ」

「本当に昨日嫁いてできたばかりなのか?」

そして、料理人たちは口を揃えた。

「「「「「何て素晴らしい若奥様だろう」」」」」と――


****

 その後も屋敷のいたるところにジャンヌは顔出しをし、使用人たちの働き方改革を提案していった。


「洗濯業務を領民たちに委託するなんて斬新な発想ね」

「仕事がない人々に職を与えて給料を支払うなんて素晴らしい考えだ」

「掃除の仕事もそうだよな? 今までは人手不足で手が回らなかったものな」

「掃除もしなくてすむなんて負担が減って嬉しいわ」

そして使用人たちは口々に声を揃えて言う。

「「「「「若奥様は最高に素晴らしい方だ」」」」」

このように、瞬く間にジャンヌは使用人たちの心を鷲掴みにしてしまったのだった。


****

――午前7時半

ジャンヌは明るい日差しが差し込むダイニングルームで食後のお茶を楽しんでいた。

「美味しい朝食だったわ。でも、少し贅沢が過ぎるわね。後で食事内容を見直すプランを立てて厨房に持っていったほうが良さそうね。それよりも今飲んでいるお茶は輸入物かしら……?」

その時。

「ジャンヌ様!」

慌てた様子で執事長マイクが駆け込んできた。

「あら、おはようございます。マイクさん」

「はい、おはようございます。ジャンヌ様、申し訳ございません。実は私、ヘンリー様が昨夜は戻られなかったので今まで領地に捜しに行っていたものですからご挨拶が遅れてしまいました」

マイクは乱れた髪を手で整えた。

「まぁ、そうだったのですね? お手数をかけてしまい、申し訳ございませんでした」

「い、いえ! 謝罪するべきはむしろ私の方です」

恐縮するマイク。

「それで、夫は見つかりましたか?」

「い、いえ……そ、それが……」

胸ポケットからハンカチを取り出すと額の汗を拭うマイク。

「その様子では、つまり夫は見つからなかったということでしょうか?」

「はい……酒場で、昨夜女性とお酒を飲んでいた姿が最後の目撃情報でして……どうやら、その後は……」

「ええ。みなまで言わなくとも分かります。つまり初夜を迎えるはずの新妻を放ったらかして、何処の誰とも分からぬ女性と何処かへシケ込んだということですね?」

ジャンヌはにっこり笑みを浮かべる。

「ゴホッ!! シ、シケこむ……とは……。は、はい。言い方を変えれば、そういうことになりますが……本当に申し訳ございません」

あまりの言葉にむせながら謝罪するマイク。

「大丈夫です、私は全く気にしておりませんので。これもモテる夫を持つ妻の宿命だと甘んじて受け入れるつもりです。ですが……このこともきちんと記録に残させておきますけどね?」

「え? 記録……ですか?」

首を傾げるマイク。

「ええ。記録です」

そしてジャンヌは再び紅茶を飲み……口元に小さな笑みを浮かべるのだった――
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