出ていけ、と言ったのは貴方の方です

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第5話 論外の女性

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――13時

「つ、疲れた……」

ようやく領民たちの陳情会議が終了し、ヘンリーは書斎へ戻ってきた。

「ヘンリー様。疲れたからと言って、呆けている暇はありません。すぐに領民たちの期待に添える返事を書いて下さい」

マイクは先ほど領民たちから預かった資料をヘンリーの前に置く。

「おい! 少し位休ませてくれ! 昨夜は5時間しか眠ってないんだよ!」

「5時間も眠れば上等です。よいですか? 旦那様の平均睡眠時間は3時間、お食事時間は20分でした」

「何? そうだったのか?」

これにはさすがのヘンリーも驚く。

「ええ、さようでございます。ですが、何故旦那様が身を粉にして働いていたか、お分かりになりますか? いえ、きっとヘンリー様には分からないでしょうね? それはヘンリー様がお仕事を少しも手伝わなかったからですよ。 だから旦那様は嫌気が差して蒸発してしまったのではありませんか?」

一気にまくしたてるように責め立てるマイク。

「わ、分かった! 俺が悪かったよ! 休まず仕事すればいいんだろう?」

ヘンリーは子供の頃からマイクの世話になっていたので、どうしても頭が上がらなかったのだ。

「……それにしても何だ? こんなのが陳情なのか? 牛の乳の出が悪くなったので、質の良い餌を配給して欲しい? 農機具が壊れたから支給してくれ……? おまけにこれは何だ? 教会のオルガンが壊れたから新しいのを買ってくれだと!? こんなのは俺には関係ない話だろう!?」

「何を仰っているのです。領民全ての望みを聞いて、できる限り解決する。それが良き、領主なのです。いい加減な領主のもとでは、領民たちが逃げ出します。逃げれば働き手がいなくなり、税を収めてくれない。そして領地の衰退へと移行していくのですよ。大体、私だって手伝っているのですから文句を言わないで下さい」

「分かったよ! 頼むから一気にまくしたてないでくれ!」

ヘンリーが頭を抱えたそのとき。

「あ、あの……ヘンリー様、女性のお客様がお見えになっておりますが……」

開け放たれた扉からフットマンが声をかけてきた。

「何? 女性客だと? 誰だ?」

女性と聞いて、顔を上げるヘンリー。

「はい、ジャンヌ・ダールという女性です。重要な書類を預かっているとのことでヘンリー様との面会を希望されております。もう応接室にお招きしているのですが……」

「ジャンヌ・ダール……? 聞いたことのない名前だなぁ……若いのか?」

「ええ。黒髪の女性です。まだ若そうです」

「何? 黒髪の女? そんな知り合いはいないが……美人か?」

「ヘンリー様。女性の外見なのど、どうでも宜しいです。重要書類を持ってきているのであれば、絶対に会わなければなりません。さぁ! 早く行きましょう!」

「分かったよ……ったく、気乗りしないなぁ……大体

マイクに急かされ渋々席を立つと、ヘンリーは応接室へ向かった――


「おい、あれが面会に来た女性か?」

応接室の扉の隙間から女性を覗き込むと、ヘンリーはフットマンに尋ねた。

「ええ。さようでございますが?」

「冗談じゃない、黒髪の女ってだけで論外なのにメガネまでしてるじゃないか。おまけに髪はひっつめだし、着ている服も茶色で地味すぎる。仕事が忙しいと伝えて帰ってもらえ」

「ヒィ! そ、そんな無茶な……」

「無茶でも何でもいい! 早くそう伝えてこい」

そのとき。

背後から近づいていたマイクが扉を大きく開け放しながら、ヘンリーの背中を強引に押して中へ入れた。

「お待たせ致しました。現当主、ヘンリー様をお連れ致しました」

「お、おい!」

無理やり応接室の中へ入れられたヘンリーは恨めしい目を一瞬マイクに向けると、すぐに作り笑いを浮かべて女性に挨拶した。

「お待たせして申し訳ございません。当主代理のヘンリーです。生憎、当主の父は不在ですので、代わりに用件を伺いましょう」

すると、女性は立ち上がり挨拶を返した。

「はじめまして。私はジャンヌ・ダールと申します。私がお会いしたかったのはヘンリー様ですので問題ありませんわ」

「え? 父ではなく、私にですか?」

「ええ、そうです。まずは座ってお話しませんか?」

「は、はぁ……」

促され、ヘンリーはソファに座るとジャンヌは笑顔で語りだした。

「ヘンリー様。この度は私と婚姻して頂き、ありがとうございます。誠心誠意、尽くしますので何卒よろしくお願いいたします」


「え……ええっ!?」

ヘンリーが驚いたのは、言うまでもなかった――
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