上 下
64 / 72

第64話 ついにこの日がやってきた

しおりを挟む
「…は?お前…今何と言った?」

デニムは首にナフキン、右手にナイフ、左手にフォークという間抜けな格好で私を見た。

「ですから、本日はブレンダ・マーチン様とのお見合いを兼ねた朝食会になります」

「いやいや、それはおかしいだろう?!昨夜、俺はメイに話はうまくついたのか尋ねたんだぞ?そうしたらメイは『勿論です』と答えたんだからな?!」

ええ、確かにそう答えましたよ。でも、それはあくまでブレンダ嬢とのお見合いの話しを進められたことへの返答だ。
そして、その一方で私とデニムが会話している直ぐ側ではフレディとクララが着々と2人分の朝食の準備を進めている。

「それではそのメイドと、話の内容は確認されたのですか?」

「う…い、いや…内容については、その…確認はしていない」

「なら、そのメイドは本日のお見合いの話がうまく進められたと言う意味で返答したのではありませんか?」

「いいや、嘘だっ!そんなはずはない!昨夜、俺とメイは2人の輝かしい未来についてワインで乾杯して、酌み交わした仲なんだぞっ?!」

ゾワッ!デニムの言葉に全身に悪寒が走る。そしてフレディとクララの動きが一瞬ピタリと止まり、私の顔を驚いたように見つめてくる。違うっ!誤解だってば!おのれ、クズデニムめ。誤解されるような台詞を平気で言うとは許すまじ。

「そ、そうだ!メイだ!メイを探してここへ連れてこい!あいつにきちんと話をさせる!」

その時、フレディが口を挟んできた。

「あいにく、この屋敷にはメイという名前のメイドはもうおりません。本日付で退職して出ていきましたから」

おお!フレディ、ナイスッ!
そしてテーブルの上にはデニムとブレンダ嬢の朝食の用意が出来た。

「では私はブレンダ様をこちらへお連れしてきます」

一礼して私はデニムに背を向けると出入り口へ向かって歩き出す。
実はブレンダ嬢には別室で待っていてもらっているのだ。なるべくデニムがダダを捏ねて醜態を晒す姿ブレンダ嬢に見せない為だ。これもデニムのお見合いを成功させる為の策である。

「お、おい?!待て!行くな!あの女をここに連れてこないでくれっ!」

背後からデニムの焦る声が追っかけてくるが、知った事か。そんなにいやならこの部屋を自分から出ていけばいいのだろうが、デニムは席を立つことが出来ない。実は私にはある秘策が合ったのだ。奴が見合いを拒否し、途中で席を立とうとするのを阻止する為のある秘策が…!

「くっそー!何で今朝に限って俺の大好物な料理ばかりなんだーっ!」

デニムの絶叫を聞きながら、私は隣の部屋にある控室の扉をノックした。

コンコン

「ブレンダ様、いらっしゃいますか?」

すると…。

カチャリ…

扉が開かれ、中から大柄な体型のブレンダ嬢が現れた。

「ブレンダ様、お待たせ致しました。デニムが待っております。お隣のお部屋になります」

「ありがとうございます、フェリシア様。私…お見合いがんばりますね!」

ブレンダ嬢がガッツポーズを取る。

「はい、私も応援します。着替えが終わり次第、私も迎賓室に伺いますからね」

「分かりました。私は見合いを成功させる、そしてフェリシア様は離婚届を叩きつけるのですね?お互い頑張りましょう!」

「ええ。ブレンダ様!」

ガシッ

そして私達は互いに手を握り合った。

「では行ってまいります!」

大柄な身体に窮屈そうなハイヒールを履いたブレンダ嬢はカツカツと大きな足音を立てて部屋を出ていく。そんな彼女を見送った私も最後の仕上げ、元のフェリシアに戻る為、予め運んでおいたデイ・ドレスに着替え始めた。

ついにこの日がやってきたのだ。

これから阿呆デニムに望み通り離婚届を叩きつけてやろうじゃないの―!






しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
古代魔法を専門とする魔法研究者のアンヌッカは、家族と研究所を守るために軍人のライオネルと結婚をする。 ライオネルもまた昇進のために結婚をしなければならず、国王からの命令ということもあり結婚を渋々と引き受ける。 しかし、愛のない結婚をした二人は結婚式当日すら顔を合わせることなく、そのまま離れて暮らすこととなった。 ある日、アンヌッカの父が所長を務める魔法研究所に軍から古代文字で書かれた魔導書の解読依頼が届く。 それは禁帯本で持ち出し不可のため、軍施設に研究者を派遣してほしいという依頼だ。 この依頼に対応できるのは研究所のなかでもアンヌッカしかいない。 しかし軍人の妻が軍に派遣されて働くというのは体裁が悪いし何よりも会ったことのない夫が反対するかもしれない。 そう思ったアンヌッカたちは、アンヌッカを親戚の娘のカタリーナとして軍に送り込んだ――。 素性を隠したまま働く妻に、知らぬ間に惹かれていく(恋愛にはぽんこつ)夫とのラブコメディ。

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。 いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。 だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・ 「いつわたしが婚約破棄すると言った?」 私に飽きたんじゃなかったんですか!? …………………………… たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

処理中です...