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第12話 聞かれていた!

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「みんな、ただいま~!」

空になったワゴンを押して厨房へ戻った私をシェフと料理人たちが駆けつけてきた。

「お、奥様!どうでしたかっ?!」

シェフが青ざめた顔で真っ先に声を掛けてきた。

「ええ、今度のお見合い相手もとっても若かったわ。まだ14~15歳程度の少女に見えたもの。私ちっとも知らなかったわ。デニムって少女趣味だったのね。でもあれでは犯罪スレスレよ」

「い、いえ…そうではなくお料理の方ですが…」

「ええ。お見合い相手の女性はとっても美味しそうな料理だって褒めてくれていたわ。良かったじゃない」

「そうですか、それは良かった…ではなくて!デニム様のご様子ですよ!」

「ああ…デニムね。物凄い目で私を睨みつけていたわ。」

「あああっ!やっぱり!」

シェフは頭を抱えて天井を見て叫び、他の料理人達も騒ぎ出す。

「ああ…もう駄目だ…」
「クビだ、俺たちはみんなクビだ~!」
「どうしよう、きっと叱られるに決まってる…!」

「あなた達!落ち着いてっ!」

パンパンッ!

私は手を叩いて皆を落ち着かせた。

「お、奥様…わ、我々はもう終わりです…!今にデニム様がここに乗り込んで来て、きっと我々を叱責するに決まってますっ!」

ここの厨房の責任者であるシェフはまるでこの世の終わりのような絶望的な顔をみせている。

「大丈夫だってばっ!貴方達の事はこの私が守ってあげるから。あ~お腹空いたわ。何でもいいから何か料理を作ってくれる?今日は朝からずっと動き通しだからお腹空いちゃって」

するとシェフが言った。

「分かりました、奥様。先程デニム様にお出ししようとしていた食材が余っております。そちらを使用してとびきりの料理をご用意させて頂きますね?皆、やるぞ!」

『おーっ!』

シェフの掛け声に料理人たちは返事をすると、彼らは一斉に料理作りを始めた。私は彼らの邪魔にならないように椅子を持って部屋の隅に移動して料理づくりの様子を見物することにした―。


****

ジュウジュウと分厚いお肉の焼ける匂いが厨房に漂い始めた頃…。

バンッ!!

勢いよく扉が開かれて、現れたのはやはりデニムだった。彼は顔を真っ赤にしてズカズカと厨房に現れ、自分が指定した食材で料理を作っている様子を見ると、途端に態度が変わった。

「何だ、ちゃんと料理を作っているじゃないか。そうかそうか。あれはお見合い用のメニューだったのか?」

デニムは顔に笑みを浮かべながらシェフを見る。どうやら部屋の隅っこにいる私の姿には気づいていないようだった。

「え、ええ…まあ、そんなところです」

シェフは私にチラチラ視線を送っている。どうやら助けが欲しいようだ。そこで私は椅子から降りるとデニムの側へ行き、声をかけた。

「どうでしたか?デニム様。お見合いは?」

「アーッ!お、お前…メイドの仕事もせずにまだこんなところにいたのかっ?!貴様のせいで俺は見合いの席で酷い目に遭ったのだからな?!」

デニムは鼻息を荒くし、私を指差すと言った。全く…人を指さすとは失礼な。

「酷い目?一体それはどんな事でしょうか?」

「ああ、俺は大嫌いな食材ばかりで何も料理を口にすることが出来なかった。すると見合い相手の令嬢が『デニム様?何故お食事をお召し上がらにならないのですか?』と聞いてきたのだ。だから俺は突然お腹の調子が悪くなって食事を食べられそうに無いと言ったら、『まあ!それは大変!でもそれでは折角のお料理が勿体ないので私がデニム様の分も頂いてよろしいでしょうか?』と尋ねてきたのだ。」

デニムは令嬢のモノマネを上手にする。

「そこで俺はうなずいた、ああ、どうぞと。そしたらあの女…本当に俺の分の料理まで全てあっと言う間に平らげてしまったんだ!くっそ~…あの大食漢め…大体お見合いにランチを指定してきたから少しおかしいと思ったのだ。あんな大飯喰らいの女は、はっきり言って論外だなっ!」

するとその時…

ガタンッ!!

廊下で物凄い音がした。

「?」

訝しげにドアを開けるとそこには廊下で尻もちをついている令嬢がいた。しかもその人物は…。

「ああっ!!き、君は先程の見合い相手の…!」

私の背後から廊下を覗き込んだデニムが顔面蒼白になって令嬢を見つめている。

「ひ、酷いですわ…デニム様…美味しい料理を作って頂いたシェフの皆様にお礼を申し上げようと来てみれば…わ、私の事をそんな目で…!」

「ち、違う!こ、これは誤解なんだっ!」

デニムは慌てて倒れ込んでいる令嬢に手を差し伸べるも乱暴に振払われてしまう。大体、あんなにはっきり名言しておいて誤解もへったくれも無いと思う。

「貴方みたいな相手…こちらから願い下げですわっ!」

令嬢は立ち上がると泣きながら走り去って行く。

「あ!ま、待って下さいっ!!」

その後を慌てて追いかけていくデニム。そんな彼らの後ろ姿を見ながら私は思った。
フッ。
今度のお見合いも確実に失敗だろう―と。


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