里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

第5話 離婚前からお見合い？！

　実家を出て、太陽が昇った頃にようやく牧草地帯の広がるコネリー家の領地が見えてきた。よし、この辺で馬車をチェンジしよう。

「あの、すみません御者さん。馬車を止めて頂けますか？」

御者の男性に声をかけ、馬車を止めてもらうとここまでの路銀を払って帰ってもらった。そしてずっと実家からついてきてくれたボロ馬車に乗り換える。

「それでは目的地のコネリー家の屋敷迄乗せて行って頂ける？それと屋敷の敷地内に入るときは正門ではなく、裏口の門から入ってね？」

「はい、承知致しました。」

そして私は非常に乗り心地の悪い馬車に揺られて、コネリー家の屋敷を目指した―。



ゴトゴトゴトゴト…

激しく揺れる馬車がようやく止まったので窓の外を見れば、そこはコネリー家の使用人専用の出入り口だった。使用人専用の出入り口は正面エントランスに比べれば本当に小さい扉になっている。

「着きましたけど‥」

やけにオドオドしながら御者の男性は言う。きっとここまで立派な屋敷に来たことが無いから緊張しているのかもしれない。

「どうもご苦労様でした。」

多めに路銀を渡すと、ボロ馬車の御者は大げさなくらいに頭を下げて、馬車に飛び乗り、去って行った。

「さて･･･誰かいないかしら？」

トランクケースを持ってあてもなく勝手口をウロウロしていると、背後から声を掛けられた。

「奥様？ひょっとして奥様ではありませんか？！」

その声に振り向くと、私専用のメイドを務めてるクララが立っていた。彼女は手に大きな洗濯物が入った籠を抱えている。そして何故か驚愕したかのように目を見開いていた。

「まあ、クララ。良かったわ、偶然貴女がここに現れてくれて」

するとクララは何故か顔を真っ青にして私を見ると言った。

「そ、そんな事よりも…一体どいうことなのですか？奥様！」

クララはドサッと足もとに持っていた洗濯籠を落とすと私の両肩を持って、激しくガタガタと揺さぶりながら言う。

「今朝の事です！突然屋敷中の使用人たちが全体朝礼だと言ってデニム様に呼び出されてホールに集められたのです。そして私たちが集まるとデニム様と大奥様と大旦那様まも現れたのです。するとデニム様が…何と言ったと思いますかっ？！」

そこまで聞けば大体の事は分かってしまった。

「おそらくデニムは、私と離婚したとでも言ったんじゃないかしら？」

「ええ、その通りです‥でも何故奥様はそのことをご存じなのですか？」

クララは不思議そうに首を傾げた。

「だって、一昨日実家に帰っていた私の元に離婚届と手紙が郵送で届いたからよ」

「な、何ですって？！私たちが聞かされた話とは真逆ですよっ！」

クララがあまりにも大きな声を出すものだから他にも何人ものメイドやフットマン、それに何故かこの屋敷のシェフ迄がかけつけてきた。

「あ！奥様っ！」
「やはり戻ってきてくれたんですね？！」
「もう驚きましたよ‥」
「奥様が我々に内緒で出て行くとは思っていませんでした！」
「離婚なんて考えなおして下さいよ！」

等々・・彼らは寄ってたかって私に声を掛けてきた。でも…何だか様子がおかしい。

「ストーップ！皆、ちょっと待って！何だか少し話がおかしいみたいなのだけど…私は妹の出産を祝うために実家に里帰りしただけよ？それは皆に説明していったはずだけど？」

「ええ、確かに私もそう記憶していたのすけど…」

クララは戸惑ったように言う。

「でも、今朝のデニム様の話では、奥様が離婚届を自分に送り付けてきたって言うんですよ？！」

見習いフットマンの少年が身振り手振りで説明する。え？私が離婚届を送り付けた？

「それだけじゃありません！離婚が成立したからと言って…デニム様は今日からお見合いを始めると言い出したのですよ？早速午前10時からお見合いが始まるんです！私はその為にお茶菓子を用意するように命じられたのですから！」

この屋敷のシェフの言葉に耳を疑ってしまった。

「え？え？ちょっと待って…？お見合い？しかも午後2時から？」

私は慌てて勝手口から屋敷の中へ入り、一番手前にある部屋…厨房に駆け込んで壁にかけてある時計を確認した。

今の時間は午前9時15分。

デニムの見合い時間まで1時間を切っていた―。