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14 もう一人の敵との再会
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騎士と一緒に東屋へ近づいて行くと、一番豪華なオレンジ色のドレスを着用した女性がこちらに気づいて声をかけてきた。年の頃は三十代半ばといったところだろうか?
「あら、アーサーじゃないの。どうしたのかしら?」
このとき、騎士の名前がアーサーだということを初めて知る。
「はい、実は現在我が国と交戦中の『モリス』王国の姫君が人質としてこの国に身を置くことになりました。そこで是非とも王妃様にお目通りしたいと願い出られましたのでお連れ致しました」
すると、女性が目を見開いた。
「まぁ! ではそちらの男装されている方がそうなの?」
「はい、そうです」
アーサーがこちらを振り向いたので、私は一歩前に進み出た。
「初めまして、私はミレーユと申します。今後はこちらの国に身を置かせていただくために参りました。どうぞよろしくお願いいたします」
丁寧に挨拶し、改めて王妃の顔をじっと見る。
「ミレーユ姫……名前を聞いたことがあるわ。確か炎の魔力を駆使して、我軍と戦場で戦っていたと言うじゃない。その力で、かなりこの国は戦況が振りになったこともあったわ」
そして、どこか憎しみを込めた目で私を見る。
「申し訳ございません、父からの命令だったものですから」
謝罪の言葉を述べるも、王妃の刺すような視線は変わりがない。
困った……この状況では王妃の名前を尋ねることは難しそうだ。
十年前に一度会ったきりなので、彼女がオフィーリアなのかどうか私には判別できなかった。
「お前……人質と言っているけれど、もしや陛下から名指しされてこの国に来たわけではないでしょうね?」
「え? 一体それはどういうことでしょう?」
いきなり突拍子もない質問に戸惑う。
「とぼけるつもりかしら? お前は若くて美しい容姿をしているわ。さては陛下から側室になるように求められているのではなくて?」
「側室……?」
あまりの言葉に思わず顔をしかめそうになってしまった。クラウスの側室になるなど、冗談ではない。あの男は婚約者である私を捨ててオフィーリアを選んだ。挙げ句にふたりで共謀して私を殺した……そんな男に身を委ねるなどありえない。
考えただけで吐き気が込み上げてくる。
「いいえ、それはないでしょう」
私に変わり、答えたのはアーサーだった。
「アーサー、何故そう思うの?」
眉をしかめる王妃。
「それは陛下は王妃様のことを愛されているからです。その証拠に今まで一度も側室を持たれたことはないではありませんか」
「フン! 愛ですって? よくもそんなことを言えるわね? 私達の間に子はいないのよ? どの口がそんなことを言えるのかしら。クラウスはね、側室こそ持たないけれども色々なメイドに手を出しているのは知っているのよ!」
吐き捨てるように言う王妃を見かねたのか、侍女と思しき女性が声をかけてきた。
「オフィーリア様、そのように男装をする女性は男勝りに決まっています。陛下がそのような女性を嫌うのはお分かりではありませんか」
オフィーリア……!
やはり、この女はオフィーリアだったのだ。敵に二人も会うことができ、私の心は歓喜で震える。
「ええ、そうですわ。だからこそ、陛下は王妃様を選ばれたのではありませんか」
もう一人の女性も同意する。
「……もう、行きなさい。お前を見ていると、嫌な女を思い出させるわ」
シッシと手で私追い払う仕草をするオフィーリア。
「…参りましょう。姫」
背後からアーサーが声を掛けてくる。
「ええ……失礼致しました」
私はお辞儀をすると、アーサーに連れられて中庭を後にした――
「あら、アーサーじゃないの。どうしたのかしら?」
このとき、騎士の名前がアーサーだということを初めて知る。
「はい、実は現在我が国と交戦中の『モリス』王国の姫君が人質としてこの国に身を置くことになりました。そこで是非とも王妃様にお目通りしたいと願い出られましたのでお連れ致しました」
すると、女性が目を見開いた。
「まぁ! ではそちらの男装されている方がそうなの?」
「はい、そうです」
アーサーがこちらを振り向いたので、私は一歩前に進み出た。
「初めまして、私はミレーユと申します。今後はこちらの国に身を置かせていただくために参りました。どうぞよろしくお願いいたします」
丁寧に挨拶し、改めて王妃の顔をじっと見る。
「ミレーユ姫……名前を聞いたことがあるわ。確か炎の魔力を駆使して、我軍と戦場で戦っていたと言うじゃない。その力で、かなりこの国は戦況が振りになったこともあったわ」
そして、どこか憎しみを込めた目で私を見る。
「申し訳ございません、父からの命令だったものですから」
謝罪の言葉を述べるも、王妃の刺すような視線は変わりがない。
困った……この状況では王妃の名前を尋ねることは難しそうだ。
十年前に一度会ったきりなので、彼女がオフィーリアなのかどうか私には判別できなかった。
「お前……人質と言っているけれど、もしや陛下から名指しされてこの国に来たわけではないでしょうね?」
「え? 一体それはどういうことでしょう?」
いきなり突拍子もない質問に戸惑う。
「とぼけるつもりかしら? お前は若くて美しい容姿をしているわ。さては陛下から側室になるように求められているのではなくて?」
「側室……?」
あまりの言葉に思わず顔をしかめそうになってしまった。クラウスの側室になるなど、冗談ではない。あの男は婚約者である私を捨ててオフィーリアを選んだ。挙げ句にふたりで共謀して私を殺した……そんな男に身を委ねるなどありえない。
考えただけで吐き気が込み上げてくる。
「いいえ、それはないでしょう」
私に変わり、答えたのはアーサーだった。
「アーサー、何故そう思うの?」
眉をしかめる王妃。
「それは陛下は王妃様のことを愛されているからです。その証拠に今まで一度も側室を持たれたことはないではありませんか」
「フン! 愛ですって? よくもそんなことを言えるわね? 私達の間に子はいないのよ? どの口がそんなことを言えるのかしら。クラウスはね、側室こそ持たないけれども色々なメイドに手を出しているのは知っているのよ!」
吐き捨てるように言う王妃を見かねたのか、侍女と思しき女性が声をかけてきた。
「オフィーリア様、そのように男装をする女性は男勝りに決まっています。陛下がそのような女性を嫌うのはお分かりではありませんか」
オフィーリア……!
やはり、この女はオフィーリアだったのだ。敵に二人も会うことができ、私の心は歓喜で震える。
「ええ、そうですわ。だからこそ、陛下は王妃様を選ばれたのではありませんか」
もう一人の女性も同意する。
「……もう、行きなさい。お前を見ていると、嫌な女を思い出させるわ」
シッシと手で私追い払う仕草をするオフィーリア。
「…参りましょう。姫」
背後からアーサーが声を掛けてくる。
「ええ……失礼致しました」
私はお辞儀をすると、アーサーに連れられて中庭を後にした――
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