81 / 98
7 交渉
しおりを挟む
白い大扉の前には大柄の騎士が立っており、ジェイクの姿を見ると挨拶してきた。
「ジェイク様、お帰りなさいませ」
「ああ。父はいるのだろう?」
「はい、中でジェイク様をお待ちです。どうぞお入り下さい」
騎士は扉の前から移動し……私をチラリと見た。
「……ところで、こちらの男装のご令嬢はどなたですか?」
「俺の婚約者である『モリス』国のミレーユ姫だ」
「なんと! 姫でしたか? それは少しも気づきませんでした」
大げさな素振りで騎士が驚く。
「そうだ。扉を開けてくれ」
「かしこまりました」
騎士は頷くと、扉に向かって声を掛けた。
「ジェイク様が戻られました」
『入れ』
その言葉に騎士は扉を大きく開いた。
「行こう、ミレーユ」
「はい」
ジェイクに促され、私達は執務室へ入ると広々とした部屋に置かれた書斎机の前にひとりの男性が座っていた。
「只今戻りました、父上」
ジェイクが恭しく挨拶をしたので、私もとっさに頭を下げた。
「ようやく戻ったのだな? ジェイク……私の言うことも聞かず、勝手に城を出た挙げ句に何ヶ月も戻らずに」
その声には明らかに苛立ちが混じっている。
「申し訳ございません。ですがなんとしてもミレーユを助け出さなければならなかったからです」
頭を下げたままジェイクは答える。
「ジェイク! 私は『モリス』王国の第四王女とは婚約解消しろと何度も言っていただろう? それを何だ! 言うことも聞かずに挙げ句に勝手に連れ帰ってくるとは! ふたりの婚姻は絶対に認めない。お前は我が国まで戦争に巻き込むつもりか!」
大公は明らかに憎悪の目で私を睨みつけてきた。
「父上! しかし、それではミレーユを見殺しにしろというのですか!?」
「見殺し? その者は炎の魔法の使い手だろう? 魔法を使える者は兵士は兵士百人分に値する力を有すると言われているではないか? とにかく、第四王女との婚約は解消だ!」
確かに、魔法は強力だ。敵に近づかなくとも遠距離から攻撃できる。私はミレーユの力がどれほど凄いか、もう十分に理解していた。
「はい、分かりました。婚約解消の件、謹んでお受けいたします」
私は初めて口を開いた。
「ミレーユ!? 何を言うんだ!?」
ジェイクが驚きの目で私を見る。けれど、私は彼を見もせずに、大公に話しを持ちかけることにした。
「大公様のお望み通り、私とジェイクの婚約はなかったことに致します。その代わり、お願いがあります。現在モリス国と戦争をしている『タリス』国に私を引き渡す交渉をしていただけませんか? 私が人質になれば『モリス』国は白旗を上げ、戦争を集結させることができるはずです」
そう、『タリス』国に潜入し……我が一族を滅ぼした憎むべき王族に報復するのだから――
「ジェイク様、お帰りなさいませ」
「ああ。父はいるのだろう?」
「はい、中でジェイク様をお待ちです。どうぞお入り下さい」
騎士は扉の前から移動し……私をチラリと見た。
「……ところで、こちらの男装のご令嬢はどなたですか?」
「俺の婚約者である『モリス』国のミレーユ姫だ」
「なんと! 姫でしたか? それは少しも気づきませんでした」
大げさな素振りで騎士が驚く。
「そうだ。扉を開けてくれ」
「かしこまりました」
騎士は頷くと、扉に向かって声を掛けた。
「ジェイク様が戻られました」
『入れ』
その言葉に騎士は扉を大きく開いた。
「行こう、ミレーユ」
「はい」
ジェイクに促され、私達は執務室へ入ると広々とした部屋に置かれた書斎机の前にひとりの男性が座っていた。
「只今戻りました、父上」
ジェイクが恭しく挨拶をしたので、私もとっさに頭を下げた。
「ようやく戻ったのだな? ジェイク……私の言うことも聞かず、勝手に城を出た挙げ句に何ヶ月も戻らずに」
その声には明らかに苛立ちが混じっている。
「申し訳ございません。ですがなんとしてもミレーユを助け出さなければならなかったからです」
頭を下げたままジェイクは答える。
「ジェイク! 私は『モリス』王国の第四王女とは婚約解消しろと何度も言っていただろう? それを何だ! 言うことも聞かずに挙げ句に勝手に連れ帰ってくるとは! ふたりの婚姻は絶対に認めない。お前は我が国まで戦争に巻き込むつもりか!」
大公は明らかに憎悪の目で私を睨みつけてきた。
「父上! しかし、それではミレーユを見殺しにしろというのですか!?」
「見殺し? その者は炎の魔法の使い手だろう? 魔法を使える者は兵士は兵士百人分に値する力を有すると言われているではないか? とにかく、第四王女との婚約は解消だ!」
確かに、魔法は強力だ。敵に近づかなくとも遠距離から攻撃できる。私はミレーユの力がどれほど凄いか、もう十分に理解していた。
「はい、分かりました。婚約解消の件、謹んでお受けいたします」
私は初めて口を開いた。
「ミレーユ!? 何を言うんだ!?」
ジェイクが驚きの目で私を見る。けれど、私は彼を見もせずに、大公に話しを持ちかけることにした。
「大公様のお望み通り、私とジェイクの婚約はなかったことに致します。その代わり、お願いがあります。現在モリス国と戦争をしている『タリス』国に私を引き渡す交渉をしていただけませんか? 私が人質になれば『モリス』国は白旗を上げ、戦争を集結させることができるはずです」
そう、『タリス』国に潜入し……我が一族を滅ぼした憎むべき王族に報復するのだから――
15
お気に入りに追加
485
あなたにおすすめの小説

妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。

婚約破棄?とっくにしてますけど笑
蘧饗礪
ファンタジー
ウクリナ王国の公爵令嬢アリア・ラミーリアの婚約者は、見た目完璧、中身最悪の第2王子エディヤ・ウクリナである。彼の10人目の愛人は最近男爵になったマリハス家の令嬢ディアナだ。
さて、そろそろ婚約破棄をしましょうか。
母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語
母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・?
※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています
ふしだらな母親の娘は、私なのでしょうか?【第5回ツギクル小説大賞 AIタイトル賞】
イチモンジ・ルル
恋愛
奪われ続けた少女に届いた未知の熱が、すべてを変える――
「ふしだら」と汚名を着せられた母。
その罪を背負わされ、虐げられてきた少女ノンナ。幼い頃から政略結婚に縛られ、美貌も才能も奪われ、父の愛すら失った彼女。だが、ある日奪われた魔法の力を取り戻し、信じられる仲間と共に立ち上がる。
歪められた世界で、隠された真実を暴き、奪われた人生を新たな未来に変えていく。
――これは、過去の呪縛に立ち向かい、愛と希望を掴み、自らの手で未来を切り開く少女の戦いと成長の物語――
旧タイトル ふしだらと言われた母親の娘は、実は私ではありません
他サイトにも投稿。
2025/2/28 第5回ツギクル小説大賞 AIタイトル賞をいただきました

アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!
アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。
「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」
王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。
背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。
受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ!
そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた!
すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!?
※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。
※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。
※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。

【完結】不協和音を奏で続ける二人の関係
つくも茄子
ファンタジー
留学から戻られた王太子からの突然の婚約破棄宣言をされた公爵令嬢。王太子は婚約者の悪事を告発する始末。賄賂?不正?一体何のことなのか周囲も理解できずに途方にくれる。冤罪だと静かに諭す公爵令嬢と激昂する王太子。相反する二人の仲は実は出会った当初からのものだった。王弟を父に帝国皇女を母に持つ血統書付きの公爵令嬢と成り上がりの側妃を母に持つ王太子。貴族然とした計算高く浪費家の婚約者と嫌悪する王太子は公爵令嬢の価値を理解できなかった。それは八年前も今も同じ。二人は互いに理解できない。何故そうなってしまったのか。婚約が白紙となった時、どのような結末がまっているのかは誰にも分からない。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる