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6 私の考え
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「そ、その格好は……?」
扉を開けた私を見たジェイクが驚いたように目を見開いた。
「どうですか? 似合いますか?」
「似合うと言うか……い、いや! 決して似合っていないというわけじゃないんだが、一体どうしたんだい? その姿は?」
ジェイクが驚くのも無理はないだろう。あの後何か着替えになりそうな服が無いか探したところ、女性用の服の類は一切無かった。
その代わり残されていたのが男性用の正装一式だった。そこで薄汚れていた村娘のような服を着るよりはずっとマシだろうと思った私は迷わずこの服を着ることにしたのだった。
ついでに長い髪の毛は一つにまとめてある。
私は騎士として軍服を着て戦場で戦ってきた。
男性用礼装も軍服も私にとっては大差ない物だったのだ。
「私はこのような服装に慣れています。どこか着崩れているところはありませんか?」
私と同様、正装に身を包んだジェイクは私の頭からつま先までを見渡すと首を振った。
「いや、どこもおかしなところは無い。完璧だよ。けれど、何故そんな恰好をしているんだい? メイドに用意して貰ったのではないのか?」
やはりジェイクは何も知らないようだ。
「その話なら歩きながらしませんか? 大公をお待たせするわけにはいきませんから」
「あ、ああ。そうだな。それでは行こうか? 父は執務室にいるんだ」
ジェイクは戸惑いながらも返事をし、私たちは大公に面会する為に執務室へ向かった。
「それで? 何故このようなことになったんだ?」
ジェイクが早速尋ねてきた。
「はい、イゴール卿は私をあの部屋に案内するとすぐにどちらかへ行ってしまったのです。部屋の中には着替えも無かったので、誰かいないか廊下を覗いてみたのですが人の気配はありませんでした。そこでやむを得ず、たまたま部屋で見つけたこの服を着ることにしたのです」
「そうだったのか‥…それは申し訳ないことをした。まさかイゴールがそんな真似をするとは思わなかった」
ジェイクはグッと拳を握りしめる。
「別に気にしていないので大丈夫です。それに本来の私は元々このような服ばかり着ていたのですから」
「そうだったのか? 俺はてっきり君は公爵令嬢だったからさぞかし煌びやかなドレスばかり着ていると思っていたが」
「いいえ、それは違います。私は騎士だったのですから、このような服を着ている時の方が多かったのです。公の場や……婚約者だったクラウス殿下と会う時だけドレスを着用していました」
「成程、だから着慣れていたのか」
ジェイクが納得したかのように頷く。
「はい、ですが……こんな身なりで大公の前に姿を現していいのかどうか……」
「大丈夫だ、父はあまりそのようなことは気にしない人間だ。問題なのは……」
「私が大公からあまり良く思われていないということですよね?」
「……ああ、そうなんだ……」
「構いません、私に考えがありますから」
「考え? 一体どういう考えだ?」
「それは……そのときに分かりますから」
私は笑みを浮かべて返事をした――
扉を開けた私を見たジェイクが驚いたように目を見開いた。
「どうですか? 似合いますか?」
「似合うと言うか……い、いや! 決して似合っていないというわけじゃないんだが、一体どうしたんだい? その姿は?」
ジェイクが驚くのも無理はないだろう。あの後何か着替えになりそうな服が無いか探したところ、女性用の服の類は一切無かった。
その代わり残されていたのが男性用の正装一式だった。そこで薄汚れていた村娘のような服を着るよりはずっとマシだろうと思った私は迷わずこの服を着ることにしたのだった。
ついでに長い髪の毛は一つにまとめてある。
私は騎士として軍服を着て戦場で戦ってきた。
男性用礼装も軍服も私にとっては大差ない物だったのだ。
「私はこのような服装に慣れています。どこか着崩れているところはありませんか?」
私と同様、正装に身を包んだジェイクは私の頭からつま先までを見渡すと首を振った。
「いや、どこもおかしなところは無い。完璧だよ。けれど、何故そんな恰好をしているんだい? メイドに用意して貰ったのではないのか?」
やはりジェイクは何も知らないようだ。
「その話なら歩きながらしませんか? 大公をお待たせするわけにはいきませんから」
「あ、ああ。そうだな。それでは行こうか? 父は執務室にいるんだ」
ジェイクは戸惑いながらも返事をし、私たちは大公に面会する為に執務室へ向かった。
「それで? 何故このようなことになったんだ?」
ジェイクが早速尋ねてきた。
「はい、イゴール卿は私をあの部屋に案内するとすぐにどちらかへ行ってしまったのです。部屋の中には着替えも無かったので、誰かいないか廊下を覗いてみたのですが人の気配はありませんでした。そこでやむを得ず、たまたま部屋で見つけたこの服を着ることにしたのです」
「そうだったのか‥…それは申し訳ないことをした。まさかイゴールがそんな真似をするとは思わなかった」
ジェイクはグッと拳を握りしめる。
「別に気にしていないので大丈夫です。それに本来の私は元々このような服ばかり着ていたのですから」
「そうだったのか? 俺はてっきり君は公爵令嬢だったからさぞかし煌びやかなドレスばかり着ていると思っていたが」
「いいえ、それは違います。私は騎士だったのですから、このような服を着ている時の方が多かったのです。公の場や……婚約者だったクラウス殿下と会う時だけドレスを着用していました」
「成程、だから着慣れていたのか」
ジェイクが納得したかのように頷く。
「はい、ですが……こんな身なりで大公の前に姿を現していいのかどうか……」
「大丈夫だ、父はあまりそのようなことは気にしない人間だ。問題なのは……」
「私が大公からあまり良く思われていないということですよね?」
「……ああ、そうなんだ……」
「構いません、私に考えがありますから」
「考え? 一体どういう考えだ?」
「それは……そのときに分かりますから」
私は笑みを浮かべて返事をした――
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