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3 冷たい視線
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フードを外し、みすぼらしい荷馬車を走らせているジェイクの姿に城内の人々は驚いた様子で挨拶をしてくる。
でも驚くのは無理もない。私達の乗る荷馬車だが幌は汚れ、ところどころ破れかかっている。
粗末の木の造りの荷馬車は、この公国の時期跡取りとなる人物が乗るような代物ではない。
それに何よりジェイクの姿も人々の驚きを誘った。ほころびが目立つ、イラクサで織ったマントを羽織った彼は貧しい暮らしを強いられている平民のような姿に見える。
「ハハハ……みんな随分驚いた様子で俺を見ているな」
御者台のジェイクが苦笑している。
「それは当然ですよ……仮にもジェイクさんは、いずれこの公国を治める方ですよね? そんな身なりでは驚かれるのも当然です」
私の言葉にジェイクは振り返った。
「けれど、ユリアナ。君の姿も僕とさほど変わりないように見えるよ。……王女には見えない」
王女……でもその言葉は間違いだ。確かにミレーユは王女であるだろうけれども、私は彼女ではない。
生きる場所を失った……元・公爵令嬢なのだから。
黙っていると、ジェイクが声を掛けてきた。
「そろそろ城に到着する。ユリアナは荷馬車の中に隠れていてくれ。城の中に入ったら声をかけるから、それまで奥にいてくれ」
「はい」
返事をすると私は荷馬車の奥に移動した。薄暗い荷馬車の中で、膝を抱えるように座っていると、やがてジェイクが誰かと会話する声が聞こえてきた。
「ただいま帰還した。城の扉を開けてくれ!」
「これは驚きました。先程伝令で知ったのですが、ジェイク様だったのですね。お帰りなさいませ」
「ああ。早速父に伝えてきてくれ」
「はい、承知いたしました!」
やがて何者かの走り去る音が聞こえ……ジェイクが幌を上げて、顔を覗かせた。
「ユリアナ、城の前に到着した。出ておいで」
「はい」
馬車を降りると眼前は大きな城がそびえ立ち、扉が開け放たれている。
「行こうか?」
私を安心させる為だろうか? ジェイクが笑みを浮かべた。
「はい」
返事をすると、私たちは並んで城の中へと足を踏み入れた。
城内に入ると、既に知らせは聞いていたのか多くの使用人達が頭を下げて整列してい
た。中には騎士の姿もいる。
『お帰りなさいませ、ジェイク様』
全員が声を揃えて出迎える。そこへ白髪交じりの年配の男性が現れた。軍服のような姿にマントを羽織った姿は騎士のようにも見える。
そして一番特徴的なのは……その男性には顔に鋭い傷跡があることだった。
「お帰りをお待ちいたしておりました、ジェイク様」
「……遅くなってすまない。イゴール」
「いいえ。……それで、そちらのお方は……」
イゴールと呼ばれた男性はチラリと私を見る。もしかすると、この人はミレーユのことを知らないのかもしれない。
「この女性はミレーユ。俺の婚約者だ」
「な、何ですと!? あの『モリス』国の…‥姫君ですか? この方が!?」
イゴール卿は余程驚いたのか、目を見開いて私を見る。けれど、その視線は好意的でないのは明らかだった。
その証拠に彼はジェイクに尋ねた。
「何故、この方をこちらに連れて来たのですか‥…?」
「それは決まっているだろう? ミレーユは婚約者なのだから。それより父に会わせてはくれないのか?」
「い、いえ。そのようなことはありません。では、こちらへどうぞ」
「ああ」
ジェイクは頷くと、次に私に声をかけてきた。
「行こうか? ミレーユ」
「はい」
頷く私をイゴール卿は鋭い視線で見つめていた――
でも驚くのは無理もない。私達の乗る荷馬車だが幌は汚れ、ところどころ破れかかっている。
粗末の木の造りの荷馬車は、この公国の時期跡取りとなる人物が乗るような代物ではない。
それに何よりジェイクの姿も人々の驚きを誘った。ほころびが目立つ、イラクサで織ったマントを羽織った彼は貧しい暮らしを強いられている平民のような姿に見える。
「ハハハ……みんな随分驚いた様子で俺を見ているな」
御者台のジェイクが苦笑している。
「それは当然ですよ……仮にもジェイクさんは、いずれこの公国を治める方ですよね? そんな身なりでは驚かれるのも当然です」
私の言葉にジェイクは振り返った。
「けれど、ユリアナ。君の姿も僕とさほど変わりないように見えるよ。……王女には見えない」
王女……でもその言葉は間違いだ。確かにミレーユは王女であるだろうけれども、私は彼女ではない。
生きる場所を失った……元・公爵令嬢なのだから。
黙っていると、ジェイクが声を掛けてきた。
「そろそろ城に到着する。ユリアナは荷馬車の中に隠れていてくれ。城の中に入ったら声をかけるから、それまで奥にいてくれ」
「はい」
返事をすると私は荷馬車の奥に移動した。薄暗い荷馬車の中で、膝を抱えるように座っていると、やがてジェイクが誰かと会話する声が聞こえてきた。
「ただいま帰還した。城の扉を開けてくれ!」
「これは驚きました。先程伝令で知ったのですが、ジェイク様だったのですね。お帰りなさいませ」
「ああ。早速父に伝えてきてくれ」
「はい、承知いたしました!」
やがて何者かの走り去る音が聞こえ……ジェイクが幌を上げて、顔を覗かせた。
「ユリアナ、城の前に到着した。出ておいで」
「はい」
馬車を降りると眼前は大きな城がそびえ立ち、扉が開け放たれている。
「行こうか?」
私を安心させる為だろうか? ジェイクが笑みを浮かべた。
「はい」
返事をすると、私たちは並んで城の中へと足を踏み入れた。
城内に入ると、既に知らせは聞いていたのか多くの使用人達が頭を下げて整列してい
た。中には騎士の姿もいる。
『お帰りなさいませ、ジェイク様』
全員が声を揃えて出迎える。そこへ白髪交じりの年配の男性が現れた。軍服のような姿にマントを羽織った姿は騎士のようにも見える。
そして一番特徴的なのは……その男性には顔に鋭い傷跡があることだった。
「お帰りをお待ちいたしておりました、ジェイク様」
「……遅くなってすまない。イゴール」
「いいえ。……それで、そちらのお方は……」
イゴールと呼ばれた男性はチラリと私を見る。もしかすると、この人はミレーユのことを知らないのかもしれない。
「この女性はミレーユ。俺の婚約者だ」
「な、何ですと!? あの『モリス』国の…‥姫君ですか? この方が!?」
イゴール卿は余程驚いたのか、目を見開いて私を見る。けれど、その視線は好意的でないのは明らかだった。
その証拠に彼はジェイクに尋ねた。
「何故、この方をこちらに連れて来たのですか‥…?」
「それは決まっているだろう? ミレーユは婚約者なのだから。それより父に会わせてはくれないのか?」
「い、いえ。そのようなことはありません。では、こちらへどうぞ」
「ああ」
ジェイクは頷くと、次に私に声をかけてきた。
「行こうか? ミレーユ」
「はい」
頷く私をイゴール卿は鋭い視線で見つめていた――
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