上 下
75 / 98

第4章 1 『ランカスター』公国

しおりを挟む
  『ランカスター公国』は小国ではあったが、裕福な国だと言われていた。

国全体が森と豊富な水路で囲まれ、戦争が起こっても国全体がその独特な地形のお陰で防御壁のように覆われている。
その為、過去の歴史においても一度も戦火に見舞われたことが無い国として有名だった。

「今回の戦争でも、やはりこの国は巻き込まれずに済んでいるのですね」

町中を走る荷馬車の上から私は周囲を見渡しながらジェイクに尋ねた。

「そうだな。確かに国内は一見平和に見えるが……それでも他国からの侵略に常に備えてはいる状況だ。何しろ、今隣国では三つの国が戦っているからな。この国が巻き込まれないでいるのはどの国ともまだ同盟を結んでいないからだ。もっとも……俺がミレーユと婚姻してしまえば、そうも言っていられないだろうけど」

チラリとジェイクは私を見た。

「……そうですね」

ミレーユの身体に乗り移ってしまった私は複雑な気持ちで返事をする。

「これから城に向かうことになるが……ユリアナ。君は記憶喪失と言うことにしておくよ。逃げる途中、川に落ちたショックで記憶が無くなってしまった。いいか?」

「はい、分かりました」

実際、私がこの身体に何らかの形で憑依してしまったのは川に落ちたことが原因のはず。間違えたことは言っていない。

「城に公国の王である父、母。それに弟がいる。戦争が始まってからはミレーユとの結婚を取りやめにするべきだと家族だけではなく、家臣からも言われてきた。……だからユリアナを連れてくれば、いい目で見られないだろう。色々言われてしまうかもしれないが……」

「それなら大丈夫です。人々の批判にさらされるのは慣れていますから」

「え……?」

ジェイクが私を見る。

「元々、私は公爵令嬢でありながら騎士として戦場で戦ってきました。その為、敵からも味方からも……良い目では見られてこなかったのです。女のくせに剣など振るって生意気だと。勿論、私を裏切ったクラウス王子も同様です」

「ユリアナ……」

彼の目に同情が宿る。

「だから、どうか気にしないで下さい。この国に来たのは、自分の目的を達成することでなのですから。ベルンハルト家を陥れ……私たちを滅ぼした者達に報復する為なら何を言われても構いません。それに戦争を終わらせることも出来るかもしれないのなら尚更です」

「そうか? 君は強い人だな。俺もユリアナに出来るだけ協力するよ。一刻も早く戦争を終わらせて、また平和な世の中にしなければならないからな」

ジェイクは笑みを浮かべて私を見た。

「ええ、そうですね」

そんな彼に私は返事をする。

そう、ジェイクの為にも私は一刻も早く自分の目的を達成させなければ。

多分、私の目的が達成されれば……私の魂は天に召され、この身体をミレーユに返すことが出来る……

そんな気がしてならないからだ――
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【完結】追い詰められた悪役令嬢、崖の上からフライング・ハイ!

采火
ファンタジー
私、アニエス・ミュレーズは冤罪をかけられ、元婚約者である皇太子、義弟、騎士を連れた騎士団長、それから実の妹に追い詰められて、同じ日、同じ時間、同じ崖から転落死するという人生を繰り返している。 けれどそんな死に戻り人生も、今日でおしまい。 前世にはいなかった毒舌従者を連れ、アニエスの脱・死に戻り人生計画が始まる。 ※別サイトでも掲載中

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。 【あらすじ】 イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。 しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。 ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。 そんな一家はむしろ互いに愛情過多。 あてられた周りだけ食傷気味。 「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」 なんて養女は言う。 今の所、魔法を使った事ないんですけどね。 ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。 僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。 一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。 生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。 でもスローなライフは無理っぽい。 __そんなお話。 ※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。 ※他サイトでも掲載中。 ※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。 ※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。 ※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...