上 下
73 / 98

27 昔話

しおりを挟む
 ジェイクの話では私を『モルス』国へ連れて行くには、それなりの準備が必要だということで取り敢えずは彼の故郷『ランカスター』公国へ行くことが決定した。

『ランカスター』公国は『モルス』国に隣接しており、どのみち通り抜けるのだから、そこで念入りに準備をしようとのことだった。


 馬車を手に入れるのは意外と容易だった。ここ『ウィスタリア』地区では戦争下にありながら、宝石が高値で取引されていた。
そこで手持ちのダガーに取り付けてあった宝飾を馬車屋に見せると、店主は目の色を変えた。そして二つ返事で、幌付きに馬一頭をつけた荷馬車とダガーを交換してくれたのだった。

そして水や保存食を買い集め、私達は翌日に『ウィスタリア』地区を旅立った――



****

ガラガラと音を立てて、私達を乗せた荷馬車が荒野を進む。

「……本当に……どこもかしこも戦争のせいで土地が荒れ果てていますね」

何もない、荒涼とした大地を見つめながら私はポツリと呟いた。ジェイクの話によると、ここは五年ほど前に酷い戦争が起こった場所であり……町が一つ、滅んでしまったらしい。

「そうだな。俺が子供の頃は、こんな酷い世界じゃなかったのに……こうなったのも全ての元凶は十年前のあの事件が……あ、ごめん……別にユリアナを責めているわけじゃないんだ。何しろ、君たちが一番の被害者だったのだから」

ジェイクが私に気を使う。

「いえ、大丈夫です。何とも思っていませんから。やはり、一番の元凶は……」

「ああ、『タリス』王国が仕組んだことだろう。国王は第四王女を利用して、君の婚約者であるクラウス王子に近づき、『アレス』王国を支配下に置いたんだ。そして戦争を起こした」

ジェイクの話は続く。

「今まで、ユリアナには言わないでいたが……クラウス王子とオフィーリア王女の仲はうまくいっていないらしい。二人の間には子供もいないそうだ」

「あの、クラウス王子は……まだ王子のままということはまだ国王は現役ということですか? それとも第一王子が存命で、彼が王位を継いだとか……?」

「国王はまだ健在だ。それに……どうやらクラウス王子は王位継承権を剥奪されたとも言われている」

「え!? 本当ですか!」

「そうだ。今は離宮に押し込められているらしい。だが、当然だろう。クラウス王子のせいで、『タリス』王国の属国のような扱いになってしまったのだから。本当なら処刑されてもおかしくない罪だと俺は思っている。クラウス王子はどんな人物だった?」

不意にジェイクが尋ねてきた。

「クラウス王子ですか……?」

私は彼のことを思い出した。いつも何かにつけ、彼は私に文句ばかり言ってきた。女のくせに剣を握るなとか、自分よりも強くなるな……等々。

「あの方は……私の能力が自分より劣っていなければ何もかも認めない方でした……とても、器の小さい男の人でした」

「なるほど。だからこそ、騙されたのかもしれないな。……それは自業自得かもしれないが……君と、そして君の一族を犠牲にしたのは許せない。何より、その愚かな男の行動でこの戦争が始まったのだから……」

ジェイクは悔しそうに歯を食いしばリ、次に私を見た。

「俺たちもユリアナ同様被害者だ。必ず奴らに報復しよう、どんなことでも協力するからな」

そしてジェイクは笑顔を見せた――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】本当の悪役令嬢とは

仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。 甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。 『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も 公爵家の本気というものを。 ※HOT最高1位!ありがとうございます!

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...