罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

文字の大きさ
上 下
36 / 98

14 悪夢

しおりを挟む
 私は夢を見ていた――


『ハアッ! ハァッ!』

荒い息を吐きながら、必死で真っ暗な森の中を走っている。苦しい……もう走れない……

足の痛みも胸の苦しさも限界に達していた。

『探せ! まだ遠くへは行っていないはずだ!』

『必ず見つけ出せ!』

背後では私を追う男たちの声が聞こえてくる。巨木の陰に身を潜めて、そっと声の方を伺うとオレンジ色の松明が幾つも揺らめいてこちらへ近づいて来る様子が分かる。

『……』

私は恐怖で叫び出しそうになるのを抑える為に口を両手で押さえて、地面に座り込んだ。

駄目……! 声を出したり、動いたら見つかってしまう……!

やがて、こちらへ向かって駆けて行く無数の足音と苛立ち紛れの男たちの怒声がどんどん近付いてきた。

お願い……どうか見つかりませんように……!

出来るだけ身体を縮こませ、茂みの中で震えながら隠れていると次第に人々の気配は遠くなっていき……やがて真っ暗な森は静まり返った。それでも私は暫くの間、じっと動かずに堪えていた。

やがて……

ゆっくりと茂みの中から立ち上がり、警戒しながら辺りを見渡してみる。
もう人の気配はすっかり消え、時折遠くの方からフクロウの不気味な声が聞こえるだけだった。

『ここまでくれば……大丈夫よね……?』

だけど、いつまでもこんな真夜中に中にいれば色々な意味で危険だ。何とか森を抜けないと……

私は真っ暗な森の中を、恐怖で震えながら進み始めた。



『ハァ……ハァ……』

どのくらい歩き続けただろうか? で歩き続けたせいか、靴擦れができてしまった。歩くたびに痛みが走る。
粗末な服は、森の木々であちこち引っかけて破けて酷い有様だ。

ただやみくもに歩いては森を抜けられないのではないだろうか?

その時、遠くの方で水が流れるような音が聞こえた。

『水の流れる音……まさか、川でもあるのかしら?』

私は痛む足を必死で堪えながら水音の聞こえる方角へ向かって進んだ。


『あ! 川だわ!』

突然目の前の木々が開け、に照らし出された河原に出た。ずっと森の中を彷徨い歩き続けていたせいで、喉はカラカラだった。

『み、水……』

水が飲みたい――

ふらつく身体を奮い立たせるように、川に近付き……覗き込んだ。川の流れは中々早かったが、水を飲む位は出来そうだ。

川の水を手ですくって飲もうとした時……

『ヒッ‼』

悲鳴が口から洩れる。今まで真っ暗な中を彷徨っていたので気付かなかったが、自分の両手が血で染まっている。
それどころか、着ている服にもあちこちに血が飛び散っている。

『そ、そうだわ……わ、私……』

自分の声が震える。
あまりのショックに気が遠くなっていき……

ドボーンッ‼

川に転落してしまった。川は思っていた以上に深く、足が届かない。流れも速く、冷たい水の中は体力が奪われる。そして私はどんどん流されていく。

『だ、誰か……!』

叫ぶと、水が大量に口の中に流れ込んでくる。苦しい、息が出来ない。

も、もう……駄目……


意識が遠のいていき……私は――
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。 ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。 ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。 嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。  そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!? 小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。 いつも第一王女の姉が優先される日々。 そして、待ち受ける死。 ――この運命、私は変えられるの? ※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

愛されない王妃は、お飾りでいたい

夕立悠理
恋愛
──私が君を愛することは、ない。  クロアには前世の記憶がある。前世の記憶によると、ここはロマンス小説の世界でクロアは悪役令嬢だった。けれど、クロアが敗戦国の王に嫁がされたことにより、物語は終わった。  そして迎えた初夜。夫はクロアを愛せず、抱くつもりもないといった。 「イエーイ、これで自由の身だわ!!!」  クロアが喜びながらスローライフを送っていると、なんだか、夫の態度が急変し──!? 「初夜にいった言葉を忘れたんですか!?」

【完結】不協和音を奏で続ける二人の関係

つくも茄子
ファンタジー
留学から戻られた王太子からの突然の婚約破棄宣言をされた公爵令嬢。王太子は婚約者の悪事を告発する始末。賄賂?不正?一体何のことなのか周囲も理解できずに途方にくれる。冤罪だと静かに諭す公爵令嬢と激昂する王太子。相反する二人の仲は実は出会った当初からのものだった。王弟を父に帝国皇女を母に持つ血統書付きの公爵令嬢と成り上がりの側妃を母に持つ王太子。貴族然とした計算高く浪費家の婚約者と嫌悪する王太子は公爵令嬢の価値を理解できなかった。それは八年前も今も同じ。二人は互いに理解できない。何故そうなってしまったのか。婚約が白紙となった時、どのような結末がまっているのかは誰にも分からない。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

婚約破棄は誰が為の

瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。 宣言した王太子は気付いていなかった。 この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを…… 10話程度の予定。1話約千文字です 10/9日HOTランキング5位 10/10HOTランキング1位になりました! ありがとうございます!!

婚約破棄された悪役令嬢ですが、闇魔法を手に聖女に復讐します

ごぶーまる
ファンタジー
突然身に覚えのない罪で、皇太子との婚約を破棄されてしまったアリシア。皇太子は、アリシアに嫌がらせをされたという、聖女マリアとの婚約を代わりに発表。 マリアが裏で手を引いたに違いないと判断したアリシアは、持ち前の闇魔法を使い、マリアへの報復を決意するが……? 読み切り短編です

悪役令嬢は始祖竜の母となる

葉柚
ファンタジー
にゃんこ大好きな私はいつの間にか乙女ゲームの世界に転生していたようです。 しかも、なんと悪役令嬢として転生してしまったようです。 どうせ転生するのであればモブがよかったです。 この乙女ゲームでは精霊の卵を育てる必要があるんですが・・・。 精霊の卵が孵ったら悪役令嬢役の私は死んでしまうではないですか。 だって、悪役令嬢が育てた卵からは邪竜が孵るんですよ・・・? あれ? そう言えば邪竜が孵ったら、世界の人口が1/3まで減るんでした。 邪竜が生まれてこないようにするにはどうしたらいいんでしょう!?

処理中です...