16 / 98
10 体力の無い身体
しおりを挟む
翌朝――
夜明けと共に目が覚めた。窓から外を眺めれば山間から太陽が眩しい光を放ちながらその姿をのぞかせている。
そっとジェイクの様子を伺えば、彼はまだ眠っているのか寝息が聞こえている。
ジェイクを起こさないようにベッドから抜け出ると、小屋の扉を開けて外に出た。
「清々しい天気だわ……」
そしてこの身体で目覚めて初めて見る外の景色を眺めた。荒れ果てた大地に点々と立ち並ぶ、バラックのような家屋。まるで急ごしらえで用意したかのような家屋は造りがとてももろく見えた。
「そう言えば、昨年この集落が襲われたと言っていたわね」
ジェイクは集落の半分以上が焼き尽くされてしまったと話していた。それに今は戦争中で何もかもが不足している。その上、いつどこでまた戦火に巻き込まれるか分からない。
「だからこんな小屋のような場所に住んでいるのね……」
もう一度改めて周囲を見渡すと、少し先に川が流れている様子が見えた。
「川……私はあの川の上流から流されてきたのかもしれないわ……」
けれど、近場に川が流れているのは有り難い。何かジェイクの役に立てることをしなければ。
集落の家々を見る限り、井戸は無い。川が近いので恐らく大きな水瓶か何かに川から汲んできた水をためているのだろう。
「そうね、川の水でも汲んでこようかしら」
私は早速、小屋の中に戻ると水桶と天秤棒を見つけた。
「これで汲んでくればいいわね」
こう見えても体力には自身がある。女だてらに剣を握って戦場で戦ってきたのだから。
音を立てないように水桶と天秤棒を手に取ると、私は川へ向かった――
ザァザァと流れる川に水桶を沈めて水を満たして川から引き上げようとしたものの重くて汲み上げることが出来ない。
「お、重いわ……」
何とか水桶を引き上げたものの、桶の中には半分の水しか満たされていない。
「そ、そんな……」
これではもう一方の桶にも水を入れて運ぶことなんて出来そうにない。
「どうしてなの?以前の私ならこれくらいなんてことは無かったのに……」
そのときになって、肝心なことを思い出した。そうだった、この身体は自分の身体では無かったのだ。
改めて自分の腕を見ると、白く……か細い。以前の私の手は剣を奮っていたが故に分厚く、硬い手の平で健康的だった。けれど今は似ても似つかない。指は細くカサついている。
「そう言えば……私がジェイクに助けられていたときに着ていた服はまるで囚人服か、奴隷が着る服のようだったわね……」
この身体の持ち主は自分の置かれた環境下から逃げ出した末、川に落ちてしまったのだろうか?
「それにしても何て体力の無い身体なのかしら。これでは水を運ぶことができないわ……」
川辺に座り込み、肩で息をしていると背後から突然名前を呼ばれた。
「ユリアナ!」
驚いて振り向くと、息を切らせて私を見下ろしているジェイクの姿があった――
夜明けと共に目が覚めた。窓から外を眺めれば山間から太陽が眩しい光を放ちながらその姿をのぞかせている。
そっとジェイクの様子を伺えば、彼はまだ眠っているのか寝息が聞こえている。
ジェイクを起こさないようにベッドから抜け出ると、小屋の扉を開けて外に出た。
「清々しい天気だわ……」
そしてこの身体で目覚めて初めて見る外の景色を眺めた。荒れ果てた大地に点々と立ち並ぶ、バラックのような家屋。まるで急ごしらえで用意したかのような家屋は造りがとてももろく見えた。
「そう言えば、昨年この集落が襲われたと言っていたわね」
ジェイクは集落の半分以上が焼き尽くされてしまったと話していた。それに今は戦争中で何もかもが不足している。その上、いつどこでまた戦火に巻き込まれるか分からない。
「だからこんな小屋のような場所に住んでいるのね……」
もう一度改めて周囲を見渡すと、少し先に川が流れている様子が見えた。
「川……私はあの川の上流から流されてきたのかもしれないわ……」
けれど、近場に川が流れているのは有り難い。何かジェイクの役に立てることをしなければ。
集落の家々を見る限り、井戸は無い。川が近いので恐らく大きな水瓶か何かに川から汲んできた水をためているのだろう。
「そうね、川の水でも汲んでこようかしら」
私は早速、小屋の中に戻ると水桶と天秤棒を見つけた。
「これで汲んでくればいいわね」
こう見えても体力には自身がある。女だてらに剣を握って戦場で戦ってきたのだから。
音を立てないように水桶と天秤棒を手に取ると、私は川へ向かった――
ザァザァと流れる川に水桶を沈めて水を満たして川から引き上げようとしたものの重くて汲み上げることが出来ない。
「お、重いわ……」
何とか水桶を引き上げたものの、桶の中には半分の水しか満たされていない。
「そ、そんな……」
これではもう一方の桶にも水を入れて運ぶことなんて出来そうにない。
「どうしてなの?以前の私ならこれくらいなんてことは無かったのに……」
そのときになって、肝心なことを思い出した。そうだった、この身体は自分の身体では無かったのだ。
改めて自分の腕を見ると、白く……か細い。以前の私の手は剣を奮っていたが故に分厚く、硬い手の平で健康的だった。けれど今は似ても似つかない。指は細くカサついている。
「そう言えば……私がジェイクに助けられていたときに着ていた服はまるで囚人服か、奴隷が着る服のようだったわね……」
この身体の持ち主は自分の置かれた環境下から逃げ出した末、川に落ちてしまったのだろうか?
「それにしても何て体力の無い身体なのかしら。これでは水を運ぶことができないわ……」
川辺に座り込み、肩で息をしていると背後から突然名前を呼ばれた。
「ユリアナ!」
驚いて振り向くと、息を切らせて私を見下ろしているジェイクの姿があった――
16
お気に入りに追加
466
あなたにおすすめの小説
だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)
みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。
ヒロインの意地悪な姉役だったわ。
でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。
ヒロインの邪魔をせず、
とっとと舞台から退場……の筈だったのに……
なかなか家から離れられないし、
せっかくのチートを使いたいのに、
使う暇も無い。
これどうしたらいいのかしら?
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
Sランク冒険者の受付嬢
おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。
だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。
そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。
「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」
その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。
これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。
※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。
※前のやつの改訂版です
※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)
浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。
運命のまま彼女は命を落とす。
だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
華都のローズマリー
みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。
新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!
悪役令嬢の矜持〜世界が望む悪役令嬢を演じればよろしいのですわね〜
白雲八鈴
ファンタジー
「貴様との婚約は破棄だ!」
はい、なんだか予想通りの婚約破棄をいただきました。ありきたりですわ。もう少し頭を使えばよろしいのに。
ですが、なんと世界の強制力とは恐ろしいものなのでしょう。
いいでしょう!世界が望むならば、悪役令嬢という者を演じて見せましょう。
さて、悪役令嬢とはどういう者なのでしょうか?
*作者の目が節穴のため誤字脱字は存在します。
*n番煎じの悪役令嬢物です。軽い感じで読んでいただければと思います。
*小説家になろう様でも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる