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6 私が死んだ夜
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サムは何とか追手を振り切ろうとしているのか、暗い森の中を無謀とも思える速さで走り抜けていく。
「グアッ!」
「ウグッ!」
時折、聞こえて来るサムの悲鳴が不安で押し潰されそうになる。
「落ち着いて!サムッ!わ、私はこう見えても騎士団長よ!馬車を止めて!私が迎え撃つわ!」
必死になって呼び掛けるもサムは返事をしない。そして馬の速度は増々上がって行くばかりだ。
「だ、ダメよ!やみくもに走っては……木に激突するわ!!」
馬車の手摺に掴まりながら、私は必至に叫んだ。しかし、時すでに遅く……。
ドンッ!!
今までにないくらい、激しい衝撃が馬車にかかった。
「ヒヒーンッ!!」
ひときわ高く、馬が嘶く。
ガシャーンッ!!
「キャアアアアアアッ!!」
馬車は私を乗せたまま横転し、横倒しになった馬車の壁に身体を強く打ち付けてしまった。
「ゴホッ!!」
一瞬衝撃で意識を失いそうになったが、何とか気力で耐えると這いずるように馬車から出て来た。
ザアアアアア……
暗い森の中に冷たい雨が降り注いでいる。
「サムッ!」
サムのことが心配でならなかった。痛む身体に鞭打つように立ち上がると馬車の前方に回り……目を見開いた。
地面に倒れているサムの身体には無数の矢が刺さっており、そのうちの何本かは胸に深々と突き刺さっていたのだ。
「サ、サム……」
彼が死んでいるのは明らかだった。
彼は身体の弱い母と二人暮らしで、生活を支える為に一生懸命真面目に働いてた若者だったのに……巻き込んでしまった……。
「ごめんなさい、サム……」
彼の亡骸に手を合わせた時、遠くの方で馬の嘶きが森の中に響き渡った。
「追手が迫ってきている……このままでは……!」
私は馬車に背を向けると、ドレスをたくし上げ深い森の中を走った。
大丈夫、方向はあっているはず。このまま走れば、いずれは森を抜けられる。
それにしても何故この馬車が狙われたのだろう?この敷地はもうシュタイナー家の私有地。誰もが自由に入ってきて良い土地ではない。盗賊が不法侵入していたのだろうか?
けれど、その時脳裏に執事の声が蘇る。
『ユリアナ様。どうぞ……周囲にご注意してお気をつけてお帰り下さい』
まさか……あの言葉は私に対する忠告だったのだろうか?
「ハァッ!ハァッ!」
雨が降り続く暗闇の森。しかも私は足さばきの悪いロングドレス姿だ。
最悪の状況の中、私は必死で走った。心臓は激しく脈打ち、胸がキリキリと痛むがそれでも私は前へ前へと走る。
やがて、木々の切れ目が見えてきた。
やったわ……!ついに出口に!この森を抜けた先には小さな町があったはず……!
「え……?」
森を走り抜けた私の目の前に現れた光景は町の明かりでは無かった。草が生い茂った平地の先は切り立った崖。そしてその先には、ゴウゴウと激しい水しぶきを上げる滝が見える。
「そ、そんな……道を間違えた……?」
思わずへたり込みそうになった時……。
ヒヒーンッ!
背後で馬のいななきが聞こえた。
思わず剣を構えて振り返ると、そこには馬にまたがった4人の男たちがいた。
彼らは騎士や兵士のような姿をしていない。皮の胸当てに、持っている弓矢や剣も粗末なものだった。まるで傭兵のようにも見える。
「へへへへ……見つけた」
「良くもここまで逃げてこれたな」
「女のくせに剣を持っているぞ?」
「アレはかなりの値打ちものだな」
みすぼらしい身なりの男たちは馬から降りると、徐々にこちらに近づいてくる。
やはり、盗賊なのだろうか?
「斬られたくなければ下がりなさい!」
剣を引き抜くと、刃先を男たちに向けた。
「ヘ~……流石は女剣士だな」
「威勢がいいじゃないか」
「え?」
その言葉に思わず耳を疑う。もしかして彼らは私を知っている……?
「面倒だ。死体は確認しなくてもいいと言われているからさっさと片付けてやるか」
「ああ。すぐに楽にしてやるぜ。その前に……俺たちと遊ぶか?」
その言葉を聞いた他の男たちは下卑た笑みを浮かべる。
冗談じゃない!あんな獣のような男たちに弄ばれてなるものか。
「ふざけないで!絶対にお断りよ!!」
「生意気な女だ……いっそこのまま死んでしまえ!」
突然1人の男が矢を構えると打ってきた。
「!」
とっさに弓矢を避けると、次から次へと矢が飛んでくる。
「くっ!」
歯を食いしばると、身体の痛みに耐えながら走った。
「あ……!」
崖下は目もくらむほどの高さだった。流れる川は遥か下に見える。
「そ、そんな……こんなに高かったなんて……!」
川に飛び込んで逃げようと思っていたのに、これでは高すぎて飛び込めない。
その時――。
「死ねっ!」
背後で男たちの声が聞こえた。思わず振り向いた途端、胸に焼け付くような痛みが走る。
「うっ!!」
一瞬自分の身に何が起こったか理解できなかったが、胸には刺さった弓矢が見える。弓に射られた衝撃で私の身体は宙を飛び、気付けば川に向かって落下している。
ドボーンッ!!
激しい水しぶきを上げながら私は川の中に沈んでしまった。胸の激痛に加え、大量に口の中に水が流れ込んでくる。
く、苦しい……。
あっという間に意識が遠のき、私は自分の死を覚悟した。
一体誰が私をこんな目に……?
もし生き返ることが出来たなら……必ず……犯人を……。
そして私は死んだ――。
「グアッ!」
「ウグッ!」
時折、聞こえて来るサムの悲鳴が不安で押し潰されそうになる。
「落ち着いて!サムッ!わ、私はこう見えても騎士団長よ!馬車を止めて!私が迎え撃つわ!」
必死になって呼び掛けるもサムは返事をしない。そして馬の速度は増々上がって行くばかりだ。
「だ、ダメよ!やみくもに走っては……木に激突するわ!!」
馬車の手摺に掴まりながら、私は必至に叫んだ。しかし、時すでに遅く……。
ドンッ!!
今までにないくらい、激しい衝撃が馬車にかかった。
「ヒヒーンッ!!」
ひときわ高く、馬が嘶く。
ガシャーンッ!!
「キャアアアアアアッ!!」
馬車は私を乗せたまま横転し、横倒しになった馬車の壁に身体を強く打ち付けてしまった。
「ゴホッ!!」
一瞬衝撃で意識を失いそうになったが、何とか気力で耐えると這いずるように馬車から出て来た。
ザアアアアア……
暗い森の中に冷たい雨が降り注いでいる。
「サムッ!」
サムのことが心配でならなかった。痛む身体に鞭打つように立ち上がると馬車の前方に回り……目を見開いた。
地面に倒れているサムの身体には無数の矢が刺さっており、そのうちの何本かは胸に深々と突き刺さっていたのだ。
「サ、サム……」
彼が死んでいるのは明らかだった。
彼は身体の弱い母と二人暮らしで、生活を支える為に一生懸命真面目に働いてた若者だったのに……巻き込んでしまった……。
「ごめんなさい、サム……」
彼の亡骸に手を合わせた時、遠くの方で馬の嘶きが森の中に響き渡った。
「追手が迫ってきている……このままでは……!」
私は馬車に背を向けると、ドレスをたくし上げ深い森の中を走った。
大丈夫、方向はあっているはず。このまま走れば、いずれは森を抜けられる。
それにしても何故この馬車が狙われたのだろう?この敷地はもうシュタイナー家の私有地。誰もが自由に入ってきて良い土地ではない。盗賊が不法侵入していたのだろうか?
けれど、その時脳裏に執事の声が蘇る。
『ユリアナ様。どうぞ……周囲にご注意してお気をつけてお帰り下さい』
まさか……あの言葉は私に対する忠告だったのだろうか?
「ハァッ!ハァッ!」
雨が降り続く暗闇の森。しかも私は足さばきの悪いロングドレス姿だ。
最悪の状況の中、私は必死で走った。心臓は激しく脈打ち、胸がキリキリと痛むがそれでも私は前へ前へと走る。
やがて、木々の切れ目が見えてきた。
やったわ……!ついに出口に!この森を抜けた先には小さな町があったはず……!
「え……?」
森を走り抜けた私の目の前に現れた光景は町の明かりでは無かった。草が生い茂った平地の先は切り立った崖。そしてその先には、ゴウゴウと激しい水しぶきを上げる滝が見える。
「そ、そんな……道を間違えた……?」
思わずへたり込みそうになった時……。
ヒヒーンッ!
背後で馬のいななきが聞こえた。
思わず剣を構えて振り返ると、そこには馬にまたがった4人の男たちがいた。
彼らは騎士や兵士のような姿をしていない。皮の胸当てに、持っている弓矢や剣も粗末なものだった。まるで傭兵のようにも見える。
「へへへへ……見つけた」
「良くもここまで逃げてこれたな」
「女のくせに剣を持っているぞ?」
「アレはかなりの値打ちものだな」
みすぼらしい身なりの男たちは馬から降りると、徐々にこちらに近づいてくる。
やはり、盗賊なのだろうか?
「斬られたくなければ下がりなさい!」
剣を引き抜くと、刃先を男たちに向けた。
「ヘ~……流石は女剣士だな」
「威勢がいいじゃないか」
「え?」
その言葉に思わず耳を疑う。もしかして彼らは私を知っている……?
「面倒だ。死体は確認しなくてもいいと言われているからさっさと片付けてやるか」
「ああ。すぐに楽にしてやるぜ。その前に……俺たちと遊ぶか?」
その言葉を聞いた他の男たちは下卑た笑みを浮かべる。
冗談じゃない!あんな獣のような男たちに弄ばれてなるものか。
「ふざけないで!絶対にお断りよ!!」
「生意気な女だ……いっそこのまま死んでしまえ!」
突然1人の男が矢を構えると打ってきた。
「!」
とっさに弓矢を避けると、次から次へと矢が飛んでくる。
「くっ!」
歯を食いしばると、身体の痛みに耐えながら走った。
「あ……!」
崖下は目もくらむほどの高さだった。流れる川は遥か下に見える。
「そ、そんな……こんなに高かったなんて……!」
川に飛び込んで逃げようと思っていたのに、これでは高すぎて飛び込めない。
その時――。
「死ねっ!」
背後で男たちの声が聞こえた。思わず振り向いた途端、胸に焼け付くような痛みが走る。
「うっ!!」
一瞬自分の身に何が起こったか理解できなかったが、胸には刺さった弓矢が見える。弓に射られた衝撃で私の身体は宙を飛び、気付けば川に向かって落下している。
ドボーンッ!!
激しい水しぶきを上げながら私は川の中に沈んでしまった。胸の激痛に加え、大量に口の中に水が流れ込んでくる。
く、苦しい……。
あっという間に意識が遠のき、私は自分の死を覚悟した。
一体誰が私をこんな目に……?
もし生き返ることが出来たなら……必ず……犯人を……。
そして私は死んだ――。
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