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大広間を追い出されるように出ると、扉の近くで執事が待っていた。
「お話がお済みになったようですね?ユリアナ様」
「はい。あの、待っていて下さったのですか?」
力なく執事に尋ねた。
「はい。貴女様はクラウス様の婚約者でいらっしゃいますから」
「婚約者……?」
うつむいて両手を握りしめた。クラウスと婚約して5年、彼に私は一度だって尊重されたことがあっただろうか?
「帰ります……」
「では出口まで御案内致します」
男性執事は会釈すると私の前に立って歩き始めた。そして彼の後をついて歩く私。
長く続く廊下を歩きながら窓を見上げれば、いつの間にか雨が降っていた。
「雨だわ……」
「はい、ユリアナ様が中に入られてからすぐに振り始めました」
「そうですか……」
御者のサムはどうしているだろうか?御者台にも屋根があるので、雨にあたることはないかもしれないが、彼のことが気がかりだった。
**
エントランスを出て扉を開けてもらうと、外は本降りになっていた。
「まぁ、サム」
すでに城門前には馬車が止められており、御者台に座るサムが上から降りてきた。
「雨が降ってまいりましたので、城の前で待たせて貰っておりました。どうぞお乗り下さい」
「ありがとう」
サムが馬車の扉を開けてくれたので、そのまま私は乗り込むとすぐに扉は閉じられた。
「ユリアナ様。どうぞ……周囲にご注意してお気をつけてお帰り下さい」
執事が心配そうな表情で私に声を掛けてきた。
「え?ええ。お気遣いありがとうございます」
一体どうしたのだろう?今までそのような言い方をされたことは無かったのに。
私が返事をすると同時に、馬車はガラガラと音を立てて走り出した――。
「ふぅ……それにしても驚いたわ……」
背もたれにより掛かりながら、思わずため息が漏れてしまった。いきなりひと目をしのぶかのような場所と時間を指定され、挙げ句に婚約破棄を突きつけてくるなんて。
「一体クラウスは何を考えているのかしら……私との婚約破棄なんて、どんなにあがいても出来るはずないのに……」
そんなことが出来るものなら、とっくに婚約破棄してもらいたかった。
幾ら剣を握って、騎士団を率いて戦おうとも私も女。私を大切にしてくれる男性と恋愛だってしてみたかった。
何処までも冷たく、私を蔑むクラウス。だけど、結婚し……一緒に暮らすようになれば恋愛感情は持てなくても、それなりの家族としての愛情を育めるだろうと思っていたのに……。
「とにかく、帰宅したらお父様に報告しなくては。でも恐らく婚約破棄と言われても陛下がお許しになるとは到底思えないけど……ましてや冷戦状態の『タリス』王国の姫なんて……」
雨が降りしきる中、馬車の窓から見える暗闇の森を見つめている時……私は異変を感じた。
森の木々の合間からオレンジ色の明かりがチラホラと遠くに見えたからだ。しかも明かりは徐々にこちらに近づいてきているように感じる。
私は無言で傍らに置いた剣を握りしめると、窓の外を注視した。
その時――。
「ウワアアアアアアッ!!」
突然御者台に座るサムが悲鳴を上げた。
「サムッ?!どうしたのっ?!」
馬車の窓から顔を出した時、私の顔すれすれを弓矢が通り過ぎていった。
「!」
慌てて頭を引っ込めると、苦しげなサムの声が聞こえてきた。
「ユリアナ様っ!!絶対に……窓から顔を出さないで下さい!!」
「えっ?!サムッ?!」
すると、馬車は突如狂ったように速度を上げて森の中を走り始めた。
「キャアッ!!」
はずみで椅子の上に倒れ込む。
「サ、サム……!な、なんてことなの……!」
この馬車は……狙われているっ!!
そう思ったときには……全てが手遅れだった――。
「お話がお済みになったようですね?ユリアナ様」
「はい。あの、待っていて下さったのですか?」
力なく執事に尋ねた。
「はい。貴女様はクラウス様の婚約者でいらっしゃいますから」
「婚約者……?」
うつむいて両手を握りしめた。クラウスと婚約して5年、彼に私は一度だって尊重されたことがあっただろうか?
「帰ります……」
「では出口まで御案内致します」
男性執事は会釈すると私の前に立って歩き始めた。そして彼の後をついて歩く私。
長く続く廊下を歩きながら窓を見上げれば、いつの間にか雨が降っていた。
「雨だわ……」
「はい、ユリアナ様が中に入られてからすぐに振り始めました」
「そうですか……」
御者のサムはどうしているだろうか?御者台にも屋根があるので、雨にあたることはないかもしれないが、彼のことが気がかりだった。
**
エントランスを出て扉を開けてもらうと、外は本降りになっていた。
「まぁ、サム」
すでに城門前には馬車が止められており、御者台に座るサムが上から降りてきた。
「雨が降ってまいりましたので、城の前で待たせて貰っておりました。どうぞお乗り下さい」
「ありがとう」
サムが馬車の扉を開けてくれたので、そのまま私は乗り込むとすぐに扉は閉じられた。
「ユリアナ様。どうぞ……周囲にご注意してお気をつけてお帰り下さい」
執事が心配そうな表情で私に声を掛けてきた。
「え?ええ。お気遣いありがとうございます」
一体どうしたのだろう?今までそのような言い方をされたことは無かったのに。
私が返事をすると同時に、馬車はガラガラと音を立てて走り出した――。
「ふぅ……それにしても驚いたわ……」
背もたれにより掛かりながら、思わずため息が漏れてしまった。いきなりひと目をしのぶかのような場所と時間を指定され、挙げ句に婚約破棄を突きつけてくるなんて。
「一体クラウスは何を考えているのかしら……私との婚約破棄なんて、どんなにあがいても出来るはずないのに……」
そんなことが出来るものなら、とっくに婚約破棄してもらいたかった。
幾ら剣を握って、騎士団を率いて戦おうとも私も女。私を大切にしてくれる男性と恋愛だってしてみたかった。
何処までも冷たく、私を蔑むクラウス。だけど、結婚し……一緒に暮らすようになれば恋愛感情は持てなくても、それなりの家族としての愛情を育めるだろうと思っていたのに……。
「とにかく、帰宅したらお父様に報告しなくては。でも恐らく婚約破棄と言われても陛下がお許しになるとは到底思えないけど……ましてや冷戦状態の『タリス』王国の姫なんて……」
雨が降りしきる中、馬車の窓から見える暗闇の森を見つめている時……私は異変を感じた。
森の木々の合間からオレンジ色の明かりがチラホラと遠くに見えたからだ。しかも明かりは徐々にこちらに近づいてきているように感じる。
私は無言で傍らに置いた剣を握りしめると、窓の外を注視した。
その時――。
「ウワアアアアアアッ!!」
突然御者台に座るサムが悲鳴を上げた。
「サムッ?!どうしたのっ?!」
馬車の窓から顔を出した時、私の顔すれすれを弓矢が通り過ぎていった。
「!」
慌てて頭を引っ込めると、苦しげなサムの声が聞こえてきた。
「ユリアナ様っ!!絶対に……窓から顔を出さないで下さい!!」
「えっ?!サムッ?!」
すると、馬車は突如狂ったように速度を上げて森の中を走り始めた。
「キャアッ!!」
はずみで椅子の上に倒れ込む。
「サ、サム……!な、なんてことなの……!」
この馬車は……狙われているっ!!
そう思ったときには……全てが手遅れだった――。
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