罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

文字の大きさ
上 下
2 / 98

2  森の中の第二離宮

しおりを挟む
 森を抜けると、目の前に無数の松明に照らされた石造りの城が浮かび上がっていた。
 あの城が今回クラウスが私を呼び出した第二離宮だ。城門は閉ざされ、門番の兵士が2名で扉を守っている。

「着いたようね……」

 私の呟きと同時に、馬車は止り御者のサムが扉を開けてくれた。

「ユリアナ様。第二離宮に到着致しました」

 今にも雨が降り出しそうな夜空の下、馬車から降りると御者のサムに声を掛けた。

「ありがとう、サム。悪いけどここで待っていてくれるかしら。きっと今回もすぐに話は終わると思うから。1時間以内には戻るわ」

「分かりました。しかし相変わらず身勝手な王子ですね。勝手に呼びつけて30分も経たないうちに追い返すのですから」

 サムが眉をしかめて私を見る。彼は18歳の若者だ。だからなのか、相手が王族であろうと私の前で平気で不平不満を言う。

「気にしても仕方ないわ。いつものことだから。それでは行ってくるわね」

 サムに背を向けると、私は門番のいる城門へと向かった。



「お待ちしておりました。ユリアナ様」
「クラウス殿下がお待ちです」

 2人の門番は私を見ると敬礼し、鉄製の城門を開けてくれた。

「ありがとう」

 門をくぐり抜けようとした時、1人の門番が声を掛けてきた。

「ところでユリアナ様、剣は今お持ちなのでしょうか?」

「え?剣?」

 妙なことを尋ねてくる門番だ。今迄城に入るときに剣を持っているかなど聞かれたことが無いのに」

「いいえ。持ってないわ。そもそも剣を持っているように見える?」

 今の私はつま先まで隠れているドレス姿である。
 普段の私はあまりロングドレスを着用することは無い。けれど王族であるクラウスと会うときだけは、礼儀を尽くす為にロングドレスを着用することにしていた。

「そうですね。剣は所持されていないようですね。妙なことを尋ねてしまい、申し訳ございませんでした」

「いえ……?別に構わないけど……?」

 訝しげに思いながら、私は城門をくぐり抜け、目の前にそびえ立つ城を目指した。



「このような夜分にようこそ、おいで下さいました」

 城の大扉の前で私を待っていたのは、この第二離宮で執事を務める顔なじみの初老の男性だった。

「クラウス殿下はもういらしているのかしら?」

「はい。すでに大広間にてユリアナ様をお待ちになっております。御案内致しますので、こちらへどうぞ」

 恭しく頭を下げる執事。

「ありがとう」

 そして私は執事に連れられて、大広間へと向かった。



 松明で照らされた長い廊下を歩いていると、突然雷のゴロゴロと鳴り響く音が城内に響き渡ってきた。

「どうやら雨になりそうですね」

 前を歩く執事が私に声を掛けてきた。

「ええ、そうですね……」

 サムは大丈夫だろうか……。私は彼の心配をしながら、これから対面するべきクラウスのことを思い、再び憂鬱な気分がこみ上げてくるのだった。



「こちらの大広間にてクラウス様がお待ちしております」

 白い大きな扉の前に立つと執事は扉を開けた。

 ギィィ~……

 重い扉の開く音と同時に目の前に大広間が現れ、私は中へと足を踏み入れた。


 そして私は見た。

 大広間の中心に、クラウスと……今迄見たことのない女性が彼の側に寄り添うように立っている姿を――。


 



しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)

浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。 運命のまま彼女は命を落とす。 だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

【完結】不協和音を奏で続ける二人の関係

つくも茄子
ファンタジー
留学から戻られた王太子からの突然の婚約破棄宣言をされた公爵令嬢。王太子は婚約者の悪事を告発する始末。賄賂?不正?一体何のことなのか周囲も理解できずに途方にくれる。冤罪だと静かに諭す公爵令嬢と激昂する王太子。相反する二人の仲は実は出会った当初からのものだった。王弟を父に帝国皇女を母に持つ血統書付きの公爵令嬢と成り上がりの側妃を母に持つ王太子。貴族然とした計算高く浪費家の婚約者と嫌悪する王太子は公爵令嬢の価値を理解できなかった。それは八年前も今も同じ。二人は互いに理解できない。何故そうなってしまったのか。婚約が白紙となった時、どのような結末がまっているのかは誰にも分からない。

婚約破棄された悪役令嬢ですが、闇魔法を手に聖女に復讐します

ごぶーまる
ファンタジー
突然身に覚えのない罪で、皇太子との婚約を破棄されてしまったアリシア。皇太子は、アリシアに嫌がらせをされたという、聖女マリアとの婚約を代わりに発表。 マリアが裏で手を引いたに違いないと判断したアリシアは、持ち前の闇魔法を使い、マリアへの報復を決意するが……? 読み切り短編です

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。 ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。 ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。 嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。  そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!? 小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。 いつも第一王女の姉が優先される日々。 そして、待ち受ける死。 ――この運命、私は変えられるの? ※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

【完結】ゲーム開始は自由の時! 乙女ゲーム? いいえ。ここは農業系ゲームの世界ですよ?

キーノ
ファンタジー
 私はゲームの世界に転生したようです。主人公なのですが、前世の記憶が戻ったら、なんという不遇な状況。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか。  ある日、我が家に勝手に住み着いた平民の少女が私に罵声を浴びせて来ました。乙女ゲーム? ヒロイン? 訳が解りません。ここはファーミングゲームの世界ですよ?  自称妹の事は無視していたら、今度は食事に毒を盛られる始末。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか?  私はどんな辛いことも頑張って乗り越えて、ゲーム開始を楽しみにいたしますわ! ※紹介文と本編は微妙に違います。 完結いたしました。 感想うけつけています。 4月4日、誤字修正しました。

愛されない王妃は、お飾りでいたい

夕立悠理
恋愛
──私が君を愛することは、ない。  クロアには前世の記憶がある。前世の記憶によると、ここはロマンス小説の世界でクロアは悪役令嬢だった。けれど、クロアが敗戦国の王に嫁がされたことにより、物語は終わった。  そして迎えた初夜。夫はクロアを愛せず、抱くつもりもないといった。 「イエーイ、これで自由の身だわ!!!」  クロアが喜びながらスローライフを送っていると、なんだか、夫の態度が急変し──!? 「初夜にいった言葉を忘れたんですか!?」

処理中です...