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序章1 婚約者からの呼び出し
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ガラガラガラガラ……
鬱蒼とした森の中を私を乗せた馬車が走っていた。
「全く……こんな夜に私を呼び出すなんて、本当に酷い婚約者ね……」
森の中を走る馬車の中で思わず私はため息をつき……手に握りしめていた手紙を再度読み直した。
我が婚約者 ユリアナ・ベルンハルトへ
本日21時に第2離宮の大広間にて、そなたを待つ。
内密な話がある故、必ず1人で来ること。
これは命令だと思え。
第二王子 クラウス・フォン・シュタイナーより
「こんな簡単な、まるでメモ書きのような手紙で私を呼びつけるなんて私をバカにしているとしか思えないわ……」
そして私は馬車の外に視線を移した――。
**
私の名前はユリアナ・ベルンハルト。年齢は19歳でベルンハルト公爵家の長女である。
5年前からここ『アレス王国』の王位継承権第二位であり、2歳年上のクラウス・フォン・シュタイナー王子と婚約している最中だった。
代々、『アレス王国』の剣として仕えていたベルンハルト家は女と言えど、全員が剣術を嗜むことを義務とされていた。
幼少期から他の見習い騎士たちと同樣の訓練を受けてきたこの私も当然剣術が得意であり、女の身で騎士団の団長を務めていた。
しかしその一方、王族でありながらクラウス王子は剣術が不得手だった。
故に騎士団を率いる私に激しく嫉妬し、それがいつしか嫌悪の対象へと変わっていったのである。
彼が私を見る目はいつも冷たく冷え切っており、普段は殆ど顔を合わせることも無かった。
時折社交界の場に顔を出さなければならないときでさえ、彼は私をパートナーにすることは無かった。
いつも違う女性を連れて会場に姿を現し、1人でパーティーに参加している私に視線すら合わせることは無かった。
冷え切った関係の私達を……いや。正確にはこの私を周辺諸国の王侯貴族達は白い目で見ながら、こう囁いた。
『ユリアナ公女は女だてらに剣術など嗜んでいるので、今にクラウス王子に捨てられるに違いない』
と――。
そんな我儘王子に国王陛下は諭すこともせず、公爵である父も兄や弟たちも何一つ言うことが出来ずに常々悔しい思いをさせられていた。
けれど、これはベルンハルト家とシュタイナー王家の結びつきを強める為の政略結婚であり、いくら婚約者の私が気に入らなくても覆せないものであった。
私の方こそ、クラウス王子には愛情の一欠片すら持ってはいない。
それでも結婚すれば何とかなるだろうと考えていた。これは単なる政略結婚。
公爵令嬢として生まれてきた自分の義務だと思っていた。
**
「今回もまた、何か私に文句を言う為に呼び出したのでしょうね」
手にしていた手紙を椅子の上に置くと、何度目かのため息をついた。
普段顔合わせをすることは殆ど無かったが、私が騎士としての手柄を立てる度に彼は私を呼び出して「女のくせに生意気だ」と説教をしてきた。
どうせいつものくだらない呼び出しだと高を括っていた私だったが、今回ばかりは違っていた。
何故なら大広間で待ち受けていたのは私に婚約破棄を告げるクラウス王子と、彼に寄り添う見知らぬ女性だったのだから――。
鬱蒼とした森の中を私を乗せた馬車が走っていた。
「全く……こんな夜に私を呼び出すなんて、本当に酷い婚約者ね……」
森の中を走る馬車の中で思わず私はため息をつき……手に握りしめていた手紙を再度読み直した。
我が婚約者 ユリアナ・ベルンハルトへ
本日21時に第2離宮の大広間にて、そなたを待つ。
内密な話がある故、必ず1人で来ること。
これは命令だと思え。
第二王子 クラウス・フォン・シュタイナーより
「こんな簡単な、まるでメモ書きのような手紙で私を呼びつけるなんて私をバカにしているとしか思えないわ……」
そして私は馬車の外に視線を移した――。
**
私の名前はユリアナ・ベルンハルト。年齢は19歳でベルンハルト公爵家の長女である。
5年前からここ『アレス王国』の王位継承権第二位であり、2歳年上のクラウス・フォン・シュタイナー王子と婚約している最中だった。
代々、『アレス王国』の剣として仕えていたベルンハルト家は女と言えど、全員が剣術を嗜むことを義務とされていた。
幼少期から他の見習い騎士たちと同樣の訓練を受けてきたこの私も当然剣術が得意であり、女の身で騎士団の団長を務めていた。
しかしその一方、王族でありながらクラウス王子は剣術が不得手だった。
故に騎士団を率いる私に激しく嫉妬し、それがいつしか嫌悪の対象へと変わっていったのである。
彼が私を見る目はいつも冷たく冷え切っており、普段は殆ど顔を合わせることも無かった。
時折社交界の場に顔を出さなければならないときでさえ、彼は私をパートナーにすることは無かった。
いつも違う女性を連れて会場に姿を現し、1人でパーティーに参加している私に視線すら合わせることは無かった。
冷え切った関係の私達を……いや。正確にはこの私を周辺諸国の王侯貴族達は白い目で見ながら、こう囁いた。
『ユリアナ公女は女だてらに剣術など嗜んでいるので、今にクラウス王子に捨てられるに違いない』
と――。
そんな我儘王子に国王陛下は諭すこともせず、公爵である父も兄や弟たちも何一つ言うことが出来ずに常々悔しい思いをさせられていた。
けれど、これはベルンハルト家とシュタイナー王家の結びつきを強める為の政略結婚であり、いくら婚約者の私が気に入らなくても覆せないものであった。
私の方こそ、クラウス王子には愛情の一欠片すら持ってはいない。
それでも結婚すれば何とかなるだろうと考えていた。これは単なる政略結婚。
公爵令嬢として生まれてきた自分の義務だと思っていた。
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「今回もまた、何か私に文句を言う為に呼び出したのでしょうね」
手にしていた手紙を椅子の上に置くと、何度目かのため息をついた。
普段顔合わせをすることは殆ど無かったが、私が騎士としての手柄を立てる度に彼は私を呼び出して「女のくせに生意気だ」と説教をしてきた。
どうせいつものくだらない呼び出しだと高を括っていた私だったが、今回ばかりは違っていた。
何故なら大広間で待ち受けていたのは私に婚約破棄を告げるクラウス王子と、彼に寄り添う見知らぬ女性だったのだから――。
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