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第4章 4 デヴィットVSマリウス (イラスト有り)

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「ジェシカ、役所に用事があるって言ってたけど・・どんな用事なんだ?」

デヴィットと並びながらセント・レイズシティの役所に向かっている途中、彼が質問をしてきた。

「はい。お話したと思いますけど、冬期休暇で実家に帰った時に・・・リッジウェイ家の庭師の男性に自分で書いた戸籍の除籍届を書いた書類を提出して貰うようにお願いしておいたんです。ちゃんと受理されていて、戸籍が抜けているか書類を取り寄せて確認しておきたかったので・・・。」

「そうか・・・。ジェシカ。一応念の為に周囲に注意を払っておくんだぞ?今となってはいつどこでソフィーの刺客が狙って来るか分からないからな?」

デヴィットがおっかない事を言って来るが・・・でも実際彼の言ってる事は正しいのだと思う。アラン王子が私につけたマーキングが消え去った今、私の行方を追えなくなっているはずなので、ソフィー達は私の事を必死で探し回っている可能性がある。

「はい・・・分かりました。」
改めてコートのフードを目深にかぶりなおすと、俯き加減になりながら私はデヴィットと役所へ向かった―。



「ええ?!そ、そんな・・・何かの間違いではないでしょうか?!」

役所の窓口で書類を受け取った私はその内容に衝撃を受け、対応した女性に詰め寄っていた。

「いいえ。間違いではございません。確かに一度除籍届は受理しましたが・・つい最近取り消されおりますね。ああ・・そう言えばその受付にいらした男性が別に婚姻届けを用意されておりましたが、御本人様のサインしか記入されておりませんでしたので、受理は致しませんでしたが。それで・・・結局のところ、戸籍は元に戻されておりますね。」

「そ・・・そんな・・・。え・・?い・今・・・何と言いましたか・・・?聞き間違いでなければ・・・『婚姻届け』と言う単語を耳にした気がするのですが・・・。」

「ええ、婚姻届けが一度提出されておりますね。お相手の方は・・・マリウス・グラントと・・なっておりますが?」

グラリ。
その言葉を聞き、私は危うく気が遠くなりかけた。

「おい!しっかりしろ!ジェシカッ!」

付き添っていたデヴィットが素早く後ろから支えてくれて、私の代わりに窓口の女性に言った。

「おい、どういう事だ・・・。婚姻届けだと・・・・?そんなものは偽造書類に決まっている!」

語気を強めて言うデヴィットに女性は少したじろいだが、言った。

「え、ええ。もちろんそうです。なので私達の方でもこの書類は怪しいと思いましたので受理はしませんでした。ですが・・戸籍の方は・・・不備はありませんでしたので再度戻させて頂きました。」


数分後―。

がっくりと項垂れて私はデヴィットと共に役所を後にした。

「全く・・・!あいつは・・・お前の従者・・・確かマリウスと言ったか・・・?頭がおかしいんじゃないのか?!」

人通りの少ない路地裏を、デヴィットは私の肩を抱いてカンカンになって怒りながら歩いている。一方の私の方は最早怒る気力すら無く、意気消沈していた。折角リッジウェイ家を守るために必死になって考えて、書類を添えてピーターさんにお願いしていたのに・・・。それをあの狂犬マリウスによって、あっという間に台無しにされてしまった・・・。

「ジェシカ、元気を出せ。お前の事は俺が命を懸けても守り抜く。絶対にソフィーの手には渡さないから安心しろ。」

そんな彼を見ていると不安な気持ちが押し寄せて来る。もしも・・・デヴィット迄がマシューと同じような目に遭ってしまったら・・・?
「デヴィットさん・・・。お願いですから・・・命を懸けてもなんて不吉な言葉・・使わないで下さい・・私・・もう嫌なんです。デヴィットさんまで・・マシューのようになってしまったとら思うと・・・。」
そこまで言いかけた時、いきなりデヴィットが町中だというのに強く抱きしめて来た。

「ちょ、ちょっと!デヴィットさん!いきなりこんな場所で何をするんですかっ?!」

慌てて言うも、デヴィットは腕の力を弱めるどころか、ますます強く抱きしめて来る。

「ジェシカ・・・お前・・・俺の事・・心配してくれてるんだな?!」

「あ・・当たり前じゃないですか。私達は一連託送なんですから・・・。わ、分かったらは・離してください・・・。」


 その時・・・デヴィットの背後であの声が聞こえて来た。

「何をしていらっしゃるのですか?デヴィット様。」

その声は・・・マリウスだった。

「ふーん・・・俺の事・・・調べたのか?」

デヴィットは私をマリウスの視界から隠す様に対峙した。

「ええ、当然でしょう。貴方は・・・恐らく私の事をご存知でしょうからね・・・。敵を知る事は重要ですから・・・。」

マリウスは怒りを抑えた声で話しているが、身体からは殺気を放っているのがこの私にも良く分かった。

「ジェシカお嬢様ですよね・・・。後ろにいらっしゃる方は・・・。」

マリウスの名前を呼ぶ声に恐怖で私の肩が跳ね上がってしまった。

「だったら・・・どうすると言うんだ?」

デヴィットは私を安心させようと思ったのか・・左手を後ろに回すと私の手を繋いできた。
デヴィット・・・!私は思わず彼の背中にしがみ付くと、それを見たマリウスが嫉妬でもしたのか怒気を含んだ声で言った。

「ジェシカお嬢様!私は貴方の忠実な下僕です。そのような出会って間もない男性と
一緒に行動されるのは公爵令嬢として如何なものかと思われますが?!」



出会って間もない・・・そんなことまで調べていたなんて・・・!

「な・・・何言ってるの?!せ、折角・・・苦労して戸籍を抜く書類の手続きをしたのに・・それを元に戻すなんて・・。おまけに・・役所の人に教えて貰ったけど・・か・勝手に婚姻届けを提出したそうじゃないの!酷すぎるわっ!」
デヴィットが側にいてくれる安心感から・・・私は必死でマリウスに訴えた。

「酷い?酷いのはどちらでしょうか?お嬢様。私はお嬢様が居なくなる数日前にお手紙を書いて渡しましたよね?貴女への愛を綴った手紙に・・・将来設計の為の書類・・そして婚姻届けに婚約指輪まで送らせて頂いたと言うのに・・。貴女は返事処か、そのまま行方をくらましてしまい・・挙句の果てに私以外の人達の記憶からも消え失せて・・・・。」

「婚姻届けに婚約指輪だと・・・?」

デヴィットが呟く。

そして・・・徐々にマリウスの目に狂気の色が浮かんでくる。

「お嬢様・・・私はジェシカお嬢様が何を考えているのかさっぱり分かりません。何故突然戸籍を抜かれたのですか?しかも日付を見ると・・その後すぐに他の皆様方からジェシカお嬢様の記憶が消えてしまったのですよ?お嬢様を慕っていた、あのグレイ様やルーク様ですら・・・お嬢様の記憶が消えてしまっていたのですから。お嬢様は最初からこうなる事を分かった上で・・・おかしな行動を取っておられた訳ですよね?」

「グレイに・・ルークだと・・・?」

その2人の名前にピクリと反応するデヴィット。うう・・・やはりマリウスは頭が切れる。ここでわざとあの2人の名前を出してデヴィットの心を揺さぶろうとするなんて・・・!

「ですが、私は一度たりともジェシカお嬢様の事を忘れた日はありませんでした。この事に気が付いた時は・・・私は心が震える程喜びました。どれ程深くジェシカお嬢様を愛していたのか証明できたわけですから。愛が強すぎて・・・いかなる障害も私の記憶からジェシカお嬢様を奪う事が出来なかったという訳ですからね。
お嬢様・・・一体何を企んでおられたのですか?『魔界の門』を開けた犯人はジェシカお嬢様だと、あの頭のイカレた偽物聖女は言っておりましたが、私はそんな事は全く信じておりません。美しく聡明なジェシカお嬢様がその様な愚かな行為に出るはずは無いと信じておりましたから・・・。ですが、戸籍を抜くと言う、この愚かな行動だけは・・理解出来ず、許しがたい行動です。」

マリウスの冷淡な声に思わず背筋が寒くなり、デヴィットにしがみ付く手がますます強まる。そんな私をデヴィットは自分の胸に押し付けるように抱きしめて頭を撫でながら言った。

「大丈夫だ、ジェシカ・・・。俺が側についてるから・・・。」

「デヴィットさん・・。」

その時—いきなりマリウスがデヴィットに向けて無言で魔法弾を投げつけて来た。

「!」

それにいち早く気が付いたデヴィットは素早くシールドを張る。魔法弾は弾き飛ばされ、空に向かって飛んで行き、空中で爆発した。

ドオオオーンッ!!
町中に響き渡る爆発音。大通りからは悲鳴が上がっている。

「チッ!」

忌々し気にマリウスが舌打ちをした。な、何て恐ろしい男なのだろう。マリウスは・・・よりにもよって、町中でいきなり魔法攻撃をしかけてくるなんて・・!

 私は心底、このマリウスという男に恐怖を感じた―。



2

「おい、お前・・・確かマリウスと言ったか・・・。正気なのか?こんな町中でいきなり魔法弾を放つなんて・・・町の人々に危険が及ぶかもしれないのが分かった上での行動か?」

デヴィットは冷静にマリウスに言った。

「ええ。確かに危険かもしれないでしょうね・・・。ですが、そんな事は私にとってはどうでも良い・・・関係の無い事ですよ。私にはジェシカお嬢様が全てです。お嬢様以外の人間などどうなろうと知った事ではありません。」

ゾクリ—。
マリウスのその言葉を聞き、今まで以上に私はマリウスに対して恐怖を感じた。今となってはマリウスの声を聞くだけで恐怖で足が震えそうになってくる。まさか・・・ソフィー以外で、こんな所でもう一人の敵?が現れるとは思いもしなかった・・・。

「ねえ・・・・マリウス。一体貴方はどうしてしまったの?貴方は最初はそんな人では無かったでしょう?なのに・・・何故、そんな風になってしまったのよ・・・!」
涙混じりにマリウスに私は訴えた。ほんの少しでも・・マリウスの心から狂気を取り払いたかったから・・・。なのにマリウスの返って来た返事は・・・。

「何故・・・私がこうなってしまったか?そんな事は簡単です・・・。ジェシカお嬢様・・。それは全て貴女が原因ですよ・・・。貴女があまりにも愛らしいから・・そして・・貴女の周りには・・いつもいつも・・・そうやって私から愛しいジェシカお嬢様を遠ざけようとする邪魔な男共が常に群がっているから・・・今この瞬間だって・・・!!」

私は初めてマリウスが声を荒げるのを耳にし・・ますます怖くなってきた。

「貴女がいけないんですよ?ジェシカお嬢様・・・。だから・・・私をこんな風にした・・責任を取って下さいよ・・・。どうか私の側にいて下さい・・・。永遠に・・。」

まるで熱に浮かされたかのように訴えて来るマリウス。
怖い、今となってはマリウスはまるで狂気の固まりだ。
マリウスは私を見つめているのに、何処か遠くを見るような眼つきでこちらをじっと凝視している。私の全身は鳥肌が立ち、恐怖で震えが止まらず、必死でデビットにしがみ付くのがやっとだった。

「ジェシカ・・・。」

デヴィットは震える私の頭を撫でるとマリウスに言った。

「やめろ、マリウス。ジェシカの事を思うなら・・・これ以上彼女を怖がらせるな。本当に・・・愛しい女性だと思っているなら・・彼女の為に身を引け。」

「身を引け・・・?何をおっしゃっているのでしょう?貴方は・・・。私とジェシカお嬢様の仲を引き裂くのは例え、ジェシカお嬢様の両親でも、私の親でも・・何人たりとも許せません。ジェシカお嬢様は・・永遠に私だけの物です・・・!」

言いながら再び今度はマリウスは炎の弾を投げて来た。

「チッ!」

デヴィットはその炎の弾を空中から大きな水しぶきを出現させ、マリウスに向かって投げつける。

「クッ!」

いきなりの反撃でマリウスが一瞬油断した。するとその瞬間デヴィットは私を抱き寄せると転移魔法で一瞬で町はずれの人通りの少ない広場に飛んだ―。


「ジェシカ・・・大丈夫だったか?怪我はしなかったか?」

デヴィットは俯いている私の顔を覗き込むように尋ねて来た。

「こ・・・怖かっ・・・・た・・っ!」
怖くて涙が止まらない。私はデヴィットの首に腕を回して情けないけれども子供のように泣きじゃくってしまった。

「ジェシカ・・・。」

そんな私をデヴィットはいつまでも優しく抱きしめてくれた―。


「うわっ!どうしたの?ジェシカッ!目が真っ赤だよ!」

デヴィットと2人でホテルに戻ると、頭痛が治まったのか、ダニエル先輩が出迎えてくれて・・・私が泣きはらした顔をしているのを見てデヴィットを睨み付けた。

「まさか・・・君がジェシカを泣かしたんじゃないだろうね・・・?!」

怒りを含んだ声でデヴィットに詰めよる。

「違う、俺じゃない。ジェシカをこんな風に苦しめ、怖がらせて泣かせたのは・・・全てはあのマリウスのせいだ。」

「え・・?な、何だって・・・?マリウスが・・ジェシカをこんな風にしたの・・?ゆ、許せない・・っ!」

「あの男は本当に得たいがしれない・・・恐ろしい男だ。ある意味・・ソフィーと似ているかもしれない。」

ドサリとソファーに座り込むとデヴィットは言った。

「全く・・・あの男があんな性格でなければ・・・こっちの味方に引き込む事も出来たのに・・あれでは無理だ。もう1人新たな敵が現れてしまったようなものだ・・。」

ため息交じりに言うデヴィットの言葉を私は黙って聞いていた。新たな敵・・・言われてみれば確かにそうだ。最早マリウスは私にとっては敵でしかない・・・。

「きっと・・・数日前から・・マリウスはあの場で私が現れるのを待っていたのかも・・しれません。戸籍の件を確認する為に・・・。以前も・・・どんな手を使ってか分かりませんが・・・私の居場所を探し出して現れた事があるんです・・。」

私はスカートの裾をギュッと握りしめながら言った。
どうしよう・・・。これじゃ・・・ますますアラン王子に近付く事が出来ない・・っ!

「あれ?そう言えば・・・マイケルは何処へ行ったんだ?」

デビットがマイケルさんの姿が見えない事に気が付き、ダニエル先輩に尋ねた。

「ああ、彼はね。もう二日酔いが治ったから夜から屋台の営業を始めると言って、その準備の為に家に行ったんだよ。」

「ふ~ん・・・そうか。でもあいつは魔法も剣も使えないから・・ある意味俺達といる方が危険かもしれないから・・・な・・・。」

ダニエル先輩の言葉にデヴィットも言うが・・・。
「あ、あの・・マイケルさんだって危ないんじゃいないですかっ?!」

「何故そう思うのジェシカ?」

ダニエル先輩が不思議そうに尋ねて来る。

「だ、だって・・・神殿に昨夜行った時・・・マイケルさん・ソフィーの兵士達に顔を見られたりはしていませんか・・・?」

「「あ・・・。」」

するとデヴィットとダニエル先輩が同時に顔を合わせる。ま、まさか・・・私がこの3人から離れた時に何かあったのでは・・・?!
「あの・・・もしかすると・・・昨夜神殿で私が皆さんから離れていた時・・・何かありませんでしたか・・・?」
恐る恐る尋ねてみると、デヴィットが重い口を開いた。

「じ、実は・・・思い当たる事がある・・。マイケルの奴が・・・神殿の見張りの連中に見つかって・・それで騒ぎが起こったんだ。」

「うん・・・・。それでその時になってジェシカが側にいない事に気が付いて、僕は咄嗟に転移魔法を使って彼をこのホテルまで連れて来たんだ・・・。最もここへ移動した直後に彼は床の上に伸びてしまって・・・。30分気絶していたよ。分かった・・・。後で僕が彼の所へ行って事情を説明して連れて帰って来るよ。」

「お願いしますね・・。ダニエル先輩。」

「そして俺が・・・ジェシカを探しにあの場所へ行ったんだ。すまなかったな。助けに行くのが遅れて・・・邪魔な兵士共を片付けていたから・・。かなりの人数がいたんで・・少しだけ手間取ってしまったんだ。」

「え・・・?そ、そうだったんですか・・?ち、ちなみに・・兵士の数は・・どれくらいいたのでしょうか・・?」

「う~ん・・・。数えていなかったから正確な数は分からないが・・・30人前後はいたんじゃないかな?」

デヴィットはしれっと簡単に言ってのけたので、驚いてしまった。

「え・・?そ、そんな大人数を・・たった1人で片付けたのですか?デヴィットさんがたった1人で・・・?」

「何だ。そんなに驚く程の事か?言ったじゃ無いか・・・。所詮あそこにいた兵士たちはソフィーが急遽集めた単なる寄せ集めの集団でしかないって・・・。俺は何と言っても聖女付きの聖剣士なんだ。あいつ等が俺にかなう訳が無いだろう?」

デヴィットは笑顔で言った。
おお~・・・な、何と頼もしい・・。良かった・・・デヴィットが側にいてくれれば・・きっとマリウスからも守って貰えるだろう。
ようやく私は肩の力が抜け・・・
そのまま意識を失ってしまった—。

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