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第5章 4 それぞれのお見舞い ①

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「でも、お嬢様。何故別の世界の<日本>と呼ばれる世界から突然ジェシカお嬢様の姿になって貴女はこの世界に現れたのでしょうね?」

 マリウスは不思議そうに首を傾げている。それは私が一番知りたい事だ。一体何故?どうやらマリウスの話ではジェシカは既に死んでいると思われる。その身代わりとして私が何らかの力でこの世界に引き寄せられたのだろうか?でも何のために?そもそも誰かが絡んでいるのかすら分からない。分からないけれど・・・はっきりしている事は、私が以前見た夢が正夢ならばジェシカは遅かれ早かれ悪女として裁かれる・・と言う事だけ。
 そう考えると、私にとってこの世界に戻って来てしまったのは不幸な出来事だ。
またいつの日か日本に帰れる日が来るのだろうか・・帰れる・・・?
私は元の世界に帰りたいと思っているのだろうか?あの時・・雑居ビルで激しい頭痛が起きた時、何故かこの世界に帰らなくてはと強く思った。でも何故私はあの場所に行ったのだろう?
赤城さんと待ち合わせしたのは駅前の花屋さんだったはず・・・?
そこでまた私は妙な違和感を抱いた。・・何かがおかしい。私は大切な事を忘れてる気がしてならなかった。

「お嬢様、大丈夫でしょうか?先程から様子がおかしいように見受けられます。やはり怪我のせいで体調がまだよろしくないのですね?今日はもう他の方々の面会は無しに・・・。」
 
マリウスがそこまで言いかけた時に、病室のドアがノックされた。

「おい、マリウス。ジェシカは起きてるか?今度は俺がジェシカに面会する番だぞ?」

あ・・・あの声はウィルだ。

「やれやれ・・・。全く図々しい少年ですね。お嬢様を拉致した挙句、危険な目に遭わせた張本人なのに。でもお嬢様を救うために魔界まで行って花を摘んできてくれたのですから、拒否する訳にも行きませんし・・。ですがお嬢様の体調を考えて面会はお断りさせて頂きましょう。」

マリウスが私にそう言ってドアを開けようと席を立ったのを私は引き留めた。
「待って、マリウス。折角お見舞いに来てくれたのに追い返すなんてウィルが可哀そうだよ。私は大丈夫だからウィルを呼んでくれる?」

「お嬢様・・・。」

するとまた何故かマリウスが私の顔をじっと見つめて頬を染めている。
え・・・?い、一体何よ・・・?

「ああ・・・やはり今のお嬢様が最高です・・・っ!こ、これほど誰かを愛しいと感じる事は私の人生の中で今迄一度もありませんでした。どうか一生お嬢様についていかせて下さいねっ?!」

そう言いながら両手を広げ、にじり寄って来るマリウス。
ヒイッ!な、何か怖いんですけど・・・!

「おいっ!いつまで人を待たせるんだよっ!開けるぞっ!」

 その時乱暴にドアが開かれ、ウィルが部屋の中へ入って来た。そして私がベッドの上でマリウスに追い詰められている姿を見て顔色を変えた。

「ウ、ウィルッ!」
何て良いタイミング!

「お、おいっ!お前、俺のジェシカに何やってるんだよっ!あいつが怖がってるじゃ無いかっ!」

ウィルが大声で抗議すると、マリウスがジロリと恐ろしい形相でウィルを睨み付けた。

「俺のジェシカ・・・?ウィル様。今・・・貴方は何と仰られたのでしょうか?私の耳にはお嬢様がまるで貴方の所有物のような言い方に聞こえましたが・・・?」

「ああ、そうかい?いいだろう。良く聞こえなかったようだからもう一度言ってやる。ジェシカは俺の女だ。勝手に手出しするんじゃねえ。」

「「は?」」

私とマリウスが同時にはもった。
え?ちょっと待って。ウィルは今何と言ったのだろう。俺のジェシカ?はて・・・いつからそのような事になったのだろうか・・?

「お嬢様・・・今の話は本当でしょうか・・?」

マリウスが恨めしそうな目つきで私を見る。

「し、知らないってばっ!そんな話。ねえ、ウィル。マリウスの前で誤解を招くような言い方はやめない?」

私は笑みを浮かべてウィルに話しかけた。するとウィルは私を見て顔を真っ赤に染めると言った。

「誤解を招くような事なんか言ってないぞ?お、俺はジェシカを将来俺のよ、嫁にしようと思ってるんだからっ・・!俺のせいでジェシカの身体を傷つけてしまった。せ、責任を取るのがお、男ってもんだ!」

「ああ・・・そういう意味ですか・・・。」

マリウスは腕組みをすると言った。

「それならご安心下さい。私が一生お嬢様の御側にいて面倒を観させていただきますので、ウィル様の出番はありません。この先もずっと。」

「な・・・何だとっ?!お前には関係無い話だっ!早く出て行けよっ!今は俺の番なんだからなっ!」

「しかし・・・今のお話を伺って、貴方をお嬢様と2人きりにするわけにはまいりませんねえ。」

何だか私をそっちのけで2人で口論を始めている。それにしても意外だ。まさかマリウスがこんな少年相手にむきになっているなんて・・・。でも、いい加減この辺で止めないと。

「ねえ、待ってよ。マリウス、今は確かにウィルとの面会時間なんでしょう?だったら、私とウィルの2人にさせてよ。」
私が言うと、ウィルは大喜びで私の傍へとやってきた。

「ほら、ジェシカも言ってるんだから、お前は早く部屋から出てけよ。」

ウィルはマリウスに出て行くように言った。

「仕方ありませんね・・・約束は約束ですから・・。では私は行きますが・・。」

マリウスは病室を出る直前に言った。

「私の大切なお嬢様に手出しでもしようものなら、只ではすみませんからね?」

怖ろしい声で言うと部屋から出て行った。


「こ・怖え~っ。な・何だよ、あいつ・・・。あれがジェシカが前に言ってたマリウスって男か?」

ああ、そう言えば以前一度だけ私はウィルにマリウスの事を話したことがある。
私の下僕はイケメンで優秀だけど、色々な意味で怖い人間だと。

「うん。そう、彼がマリウス。」

「くそっ・・・・確かに顔は・・・悔しいがいいと認める。それに身長も・・・俺はチビだけどあいつは・・。」

悔しそうにウィルが呟いている。

「ねえ?ウィルはまだ子供なんだから、身長なんてすぐに伸びるってば。あんまり気にする必要は無いんじゃないの?」

「お、俺を子供扱いするなよっ!」

何故か怒ったように言うウィル。あ・まずい事言っちゃったかな。
「ご、ごめんなさい。ただ私はウィルはこれからまだまだ伸び盛りだよって言うつもりで・・・。」
しかし、私の台詞を制止するようにウィルが言った。

「なあ、ジェシカッ!お前・・年下の男は・・・嫌か?」

「はい?」

「だ・だから、年下の男には興味持てないのかって聞いてるんだよ。」

「う~ん・・・。そんな事今迄考えた事無かったなあ・・・。でも相手の事好きになれば年上も年下も関係無いんじゃないかなあ?」
私は深く考えずについ、恋愛一般論を語った。

「ほ・・・本当か?それじゃ、相手が俺でもいいんだなっ?!」

「ええ?!」
ウィルは突拍子も無い事を言って来た。ま・まさかさっきの話は冗談だったのではなかったのだろうか?
私はウィルを見ると、彼は真剣な目で私を見つめている。

「あ・・・あのね、ウィル。さっき私を自分のせいで傷つけたって言ってたけど、そんな事気にしなくていいんだよ?だって私を矢で撃ったのはウィルじゃない。傷つけたのはジェイソンなんだから。」

「え?ジェシカ・・・誰がジェシカを撃ったのか知ってたのか?」

ウィルが意外そうな顔で言った。
しまった!この話は私が元の世界でノートパソコンに残されていたメモの内容を読んで知った話だった・・・。

「う、うん。か・顔がチラリと見えたから・・。」

「り・理由はそれだけじゃないぞ?俺は・・・俺はジェシカが大好きだっ!俺と将来結婚してくれっ!」

そして言うなり、私をギュッと抱きしめて来た。
な・・・何とあまりにもストレートな告白、そしてプロポーズ!まさかウィルが私をそんな目で見ていたとは・・。私はウィルを可愛い弟のようにしか見ていなかったのに、余りの突然の出来事で私は固まってしまった。

 するとそこへ・・・・。

「ゴホンッ!」

咳払いが聞こえた。
え?私はウィルに抱きしめられたまま部屋の出入り口を見ると、そこには私達を
意味深な目でじ~っと見つめているレオの姿だった・・・。


「ボス・・・。一体何をしているんですか?」

相変わらずウィルは私を抱きしめたまま言った。

「見て分からないか?今ジェシカに結婚を申し込んでいる所だ。」

「はいはい、分かりましたよ。でもボス、ボスの面会時間はもう終わりですぜ?次は俺の番ですから、どうぞ部屋から出て行って下さい。」

レオは呆れたように言うと、ウィルは渋々私の身体を放すと言った。

「ジェシカ・・・俺本気だからな?」

そう言うと、ウィルは私の額にキスをした。

「なっ?!」

突然の出来事に驚くレオ。そんなレオをしたり顔でウィルは見ると言った。

「じゃあな、ジェシカ。またな。」

「うん、またね。」
私はウィルに手を振ると、彼は病室から出て行った。

そして私は不機嫌そうに立っているレオを見つめた—。



2


「・・・。」

レオは何故か部屋の入り口付近に立ったまま私を見つめている。

「座らないの?」
見かねた私が声をかけると、ようやくレオは我に返ったように私を見た。

「あ、ああ。それじゃ・・・。」

レオは先程ウィルが座っていた椅子に座ると言った。

「本当に・・・悪かったな。ジェシカ。俺をかばって矢に撃たれて・・・。俺はお前を疑っていたのに。」

レオの表情は暗い。
「もしかしたらずっとその事を気にしていたの?」

「あ、当たり前だろう?そのせいでお前は一度死んだんだぞ?お前が俺の目の前で矢に撃たれて・・・大量に、吐血した時は・・・もう・・・だ、駄目かと・・。」

レオは俯くと続けた。

「俺たちが魔界から解毒薬の花を手に入れ、魔法薬に詳しい薬師に解毒薬を調合して貰ってこの病院に戻ってきた時には、お前の心臓が既に止まっていて・・・!」

その時の事を思い出したのか、レオの身体が震えている。
私が元の世界に戻っていた時にそんな事が合ったとは・・・。

「もう、あの時は駄目かと思った・・・。」
 
レオは鼻声で言う。ひょっとして泣いているのだろうか・・・?

「レオ?」
名前を呼ぶとレオは顔を上げた。レオの顔は涙で濡れていた。
レオはそっと私の右手を両手で包むと言った。

「ジェシカ、俺は約束する。この先、お前に危機が迫った時には俺の命を懸けてお前を守る。お前の盾になる事を誓う。」

私はクスリと笑うと言った。
「まるで騎士の誓いみたいだね?」

「ああ、偽物の騎士かもしれないけどな?」

ようやくレオは笑った。
「だったら・・・もしも、いつか私が何処かに囚われた時は・・・その時は助けに来てくれる?」
そう・・・夢の中のあの時のように実際に牢獄に囚われてしまった時は・・・。

「ジェシカ?」

私の真剣な様子にレオは首を傾げたが、言った。

「ああ、俺はたとえお前がどんなに高い塔に囚われようが、強固な見張りがいる場所だろうが、必ず自分の命に代えてもお前を助けに行くと誓う。」

レオがそう言ってくれれば、本当に約束を守ってくれそうな気がする。
「ありがとう、レオ・・・。」

「だから、そんな不安そうな顔はするな?俺も、ボスも、仲間も皆ジェシカの味方だから。」

レオの話を聞いて私はジェイソンを思いだした。
「ところでジェイソンはどうしたの?」

レオを狙ったとは言え、最終的にマリウス達の目の前で矢は私を撃たれたのだ。
相当酷い目に遭ったに違いない。

「ああ、あいつはお前の仲間達が縛りあげて、今はこの町の牢獄に入れられているよ。え~と・・・アラン王子だっけ?が物凄く激怒していたから、あいつ・・・ひょっとして極刑になるかもな。」

レオは恐ろしい事を言った。
「き、極刑って・・・ま、まさか死刑になるって事?」

「ああ、そうだ。当然だろう?あいつはお前を一度殺した。死刑になって当然だろう?」

「な、何でそんな事平気で言えるの?仲間でしょう?!」
私が必死になって言うと、レオは不思議そうな顔をした。

「仲間?冗談じゃない。俺はあいつを仲間と思った事は今迄一度も無いぞ。まして・・・ジェシカを傷つけたような奴は・・・。」

「そ、そんな・・・。」
淡々と語るレオに私は信じられない気持で聞いていた。
「で、でも駄目だよっ!私はこの通り無事だったんだから。どうか酷い刑だけは与えないように言ってっ!」

「ジェシカ?何であんな奴の為に必死になるんだよ?」

「だ、だって・・い、嫌なのよ。私のせいで誰かが死ぬなんて事は・・・。」
私は下を向いた。仮に毒矢に刺さったのがレオだったら?きっとジェイソンは死刑に等ならないだろう。元々ジェイソンは私を狙った訳では無い。レオを狙ったのだ。
けれど私がレオを庇った為に、矢に撃たれ・・・そのせいで死刑になってしまうのだとしたら、ジェイソンは最後まで貴族を嫌って、恨んだまま死ぬことになってしまう。

「だけどな・・・俺がアラン王子に話したところで、ジェイソンの死刑が免れるはずが無い。むしろ、ジェシカの口から頼んだ方が効果があると思うけどな?」

「レオ・・・・。」
言われてみれば、それが一番なのかもしれない。撃たれた本人がジェイソンを極刑にだけはしないで欲しいと頼むのが一番効果があるはずだ。

「分かった・・。私からアラン王子に直接頼む事にするわ。」

そこまで話した時だ。

コンコン。

ドアをノックする音が聞こえた。

「はい?」
私が返事をすると、遠慮がちに外から声がかけられた。

「ジェシカ、次の面会は俺の番なんだが・・・。大丈夫か?」

それはルークの声だった。一体今日は何人面会があるのだろう?

「次の面会の男が来たようだな・・・。それじゃ、ジェシカ。早く傷を治してくれよ。お前が里帰りする時は見送りさせてくれよな。」

そうか・・・里帰りの事・・・忘れていた・・・。
「うん。その時は連絡するね。」

「ああ、それじゃあまたな。」

レオは笑顔で部屋を出て行き・・・それと入れ替わるようにルークが顔を覗かせた。

「ジェシカ・・・本当に具合は平気か?もし辛いなら言ってくれ。そしたら俺は今すぐ帰るから。元々ジェシカの顔だけ見たら、帰ろうかと思っていたんだ。」

部屋に入るや否やルークが言った。本当に相変わらず生真面目だなあ・・・。
そこで私は言った。
「大丈夫だよ、身体が辛くなったらその時は言うから。今のところ、具合はそれ程悪くないから平気。」

「そうか・・・なら、いいけど・・・。」

あ、ひょっとしたらルークならジェイソンの事、何か分かるかもしれない。
「ねえ、ルーク。ジェイソンはどうしているの?」

「ジェイソン・・・?」
ルークは眉を潜める。あ、もしかして私を弓矢で撃った相手の名前知らないのかな?

「ジェイソンって言うのは私を弓矢で撃った・・・。」

そこまで言うと、途端にルークの顔が憎悪で歪む。

「ああ、あの男か?あいつならこの町の地下牢に入れられている。まあ、ジェシカを一度は殺したんだ。おまけに反省の色がちっとも見られなかった。地下牢に入れられながらも、貴族など全て滅んでしまえばいい等と物騒な事を言って騒いでいるし・・
恐らくは極刑になるんじゃないか?それよりも俺はジェシカに聞きたい事が・・?」

「駄目・・・・だよ。」
私は小刻みに震えながら言った。

「駄目って何がだ?」

ルークが私を覗き込んでくる。私は顔を上げると、驚くほどルークは至近距離にいた。そして私の顔を不思議そうに見つめている。

「お願い、ルーク。ジェイソンを極刑にするのだけはやめて。ひょっとして極刑にする理由は私を撃ったからでしょう?でもジェイソンは私を狙った訳じゃないんだから、どうか見逃してあげてよ。」
私は先程レオに言った言葉をそのまま繰り返した。

「何でだよ。ジェシカ。例えあの男が狙った相手はジェシカじゃ無かったとしても、実際弓矢で撃たれたのはジェシカなんだぞ?庶民が貴族を狙ったと言うのがどれほど一大事件なのか分かっているのか?ましてや、お前は公爵家と高位貴族の爵位を持つ人間なのに・・・。」

ルークの言葉に私は驚いた。まさか・・・身分の低い庶民が貴族の命を狙ったというだけで、これ程重い罪に問われてしまう事になるとは・・・。

「どうした、ジェシカ?顔色が悪いぞ?やはりまだ体調が良くないんだろう?俺はこの辺で行くよ・・・。」

立ち上ったルークの袖を私は思わず下を向いて
掴んでいた。

「ジェ、ジェシカ・・・?」

ルークの戸惑った声が聞こえた。

「お願い、ルーク。ルークからもアラン王子に頼んでくれる?どうかジェイソンを極刑にするのはやめて欲しいって。」
私の言葉にルークは目を見開いた。

「お、おい。ジェシカ・・・本気で言ってるのか?大体この世界では庶民は貴族に絶対逆らってはいけない法律があるのをお前は知らないのか?」

え・・・?そんな法律私は知らない。私は小説の中で魔法を扱えるのは貴族だけで、庶民は魔法を使う事が出来ないという設定にはしたが、ここまで酷い身分制度など書いた覚えはない。
 その時、私は一度元の世界へ戻った時に自分のパソコンに残されていた「another」というフォルダの事を思い出した。

やはり・・・私の知らない所で物語の世界が歪められている―?
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