魔女の弾く鎮魂曲

結城芙由奈 

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悲劇の魔女、フィーネ 4

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 11時―

電話で予約を入れておいたレンタカー会社に来ていた。

「ではリチャードソン様、こちらが車のキーでございます。恐れ入りますが返却の際はガソリンを満タンにしてお返し頂きますよう、お願い申し上げます」

「ええ、分っています」

カウンターで車のキーを男性店員から預かり、店の外に出ると既に車は目の前に停車してあった。

「4輪駆動のワゴンタイプ車か。中々良い車だな」

さっそく車に乗り込み、シートベルトを装着するとまずは家電量販店へと向かった。


****

「よし、機材はこんなものか…」

買い物を済ませた俺は紙の手提げバッグを両手にぶら下げて、家電量販店から出て来た。この中には4台の定点観測用カメラが入っている。駐車場に向かって歩きながら今後の予定をぶつぶつ呟きながら考えていた。

「まずは何処かで食料と飲み物を買って…あ、一応簡易テントも買っておくか。明るいうちに現地に行って…確か近隣に集落があったよな。まずはそこで取材を試みてみるか…」

やがて借りているレンタカーが見えて来た。

「よし、行くか」

そして車のドアを開け、機材を入れると自分の昼食用の食料を買いにマーケットへ向かった―。



****

 アドラー城へ行く前に、倉庫型スーパーに立ち寄って簡易テントで食料と飲み物を購入すると、再びアドラー城へ向けて車を走らせた。

「ガイドやフロントマンの話を信じる訳じゃないけど、夕方にはアドラー城跡地を出た方が良さそうだな。その為にも日が落ちる前に定点観測用カメラを仕掛けておかなければならないか…」

 俺はミステリースポットを題材にした記事を書くフリーランスのルポライターだが、実は至って現実的な人間だった。オカルト話は全て作り話で、そこには何らかの科学的根拠があると常日頃から思っていた。だからこそ、本物の…科学では証明できない不可思議かつ、神秘的なものに強く焦がれていた。
そこで俺はルポライターと言う職業に就いたのだ。


****

 アドラー城へ向けてクルマを走らせている内に景色はどんどん変わっていった。賑わっていた町の風景はやがて住宅街に変わり、そしていつしか田園風景…そしてついには木立の中を車は走り抜けている。
カーナビには後5分程で目的地到着と記されている。

「この分だと…午後1時には到着するかな…」

ハンドルを握りしめながら呟いた時―。


トゥルルルル…

不意にスマホが着信を知らせた。

「うん…?誰からだ?」

バックミラーで後方確認しても長い1本には車どころか人影も無い。

「車を停めて電話に出るか…?」

道幅は広いのだから仮に車が後方から来た場合でもここなら邪魔にはならないだろう。
そこですぐに車を停車させると、着信相手を見た。

「何だ…デイブか…」

デイブは俺にアドラー城の情報を売って来た男だ。

ピッ

「もしもし…」

『あ。ユリウス、良かった…電話に出たか』

「何が良かっただ?俺に急用か?」

『急用ね…言われてみれば急用になるかも知れないが…お前、今何所にいるんだよ?デニスか?』

『デニス』とはこの間まで人魚伝説を追っていた南の国だ。

「何言ってるんだ?もう俺は『リヴァージュ』にいるぞ?」

『何だって?『リヴァージュ』…?、もしかしてアドラー城へ行くつもりなのか?!』

電話口では妙に焦り声のデイブの声が聞こえて来る。

「ああ、そうだ。お前が教えてくれたんだろう?アドラー城の話を」

『お、おい。今…お前、どこにいるんだよ。ホテルか?それとも…』

「今、アドラー城に向かっている。後5分もあれば跡地に辿り着く頃だ」

すると電話口でデイブの「ヒッ」と言う軽い叫び声が聞こえた。

「何だ?どうしたんだよ?」

『お、おいっ!駄目だっ!引き返せっ!今ならまだ間に合うかもしれないっ!あの場所には近付くなっ!』

「何だよ、それ…大体、既にもう昨日も行ってるぞ?アドラー城跡地に」

『な、何だって…?お、おい…本当の話なのか…?』

「ああ、そうだ。なんならビデオ通話に切り替えてやろうか?」

『ば、馬鹿っ!やめろっ!兎に角今すぐ引き返せっ!命が惜しければな…いいか?お、俺は…忠告したからなっ!!』

プツッ

そしていきなり、通話が切れてしまった。

「何なんだ…?あいつ…。自分からアドラー城の話を持ちかけて来たくせに…今度は引き返せだなんて…」

けれど、俺は引き返す気は毛頭無かった。何しろ4台もの定点観測用カメラを購入したのだ。このまま引下がれるものか。

「カメラだけ設置したらすぐに町に戻るか…」

そして俺は再びアクセルを踏んだ。

この後に何が待ち受けているのか知る由も無く―。


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