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第9話 二人の過去
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――22時半
ベッドに入るとジェレミーのことを思い出し、つい笑みが浮かんでしまった。
「フフフ……それにしても、今夜は10年ぶりにジェレミーの無様な失態を見ることが出来たわ」
私は10年前のことを思い返した――
****
少年時代のジェレミーは、代々騎士の家系であるクラウン家の中で剣術が落ちこぼれていた。日頃から父親や年の離れた兄たちから、厳しい訓練を受けていたものの一向に芽が出ないでいたのだ。
そのことを嘆いたジェレミーの父親は、とうとう恐ろしい試練を与えることにした。
当時、まだ12歳だった彼を長剣1本だけ持たせて狼やクマが出没する森の中に置き去りにしたのだ。生きて森の中を自力で帰ってこいという、何とも厳しい訓練を12歳の少年に突きつけたのだった。
今にして思えば、恐らく父親はジェレミーが森の中で死んでも構わないと考えていたのだろう。既に剣術の腕が立つ3人の息子がいたのだから、弱い息子は必要としていなかったのかもしれない。
けれど、ジェレミーは生き残った。
森に1人放り出されて、3日後。ボロボロになりながらも無事に帰ってきたのだ。
この事実に父親も兄たちも驚愕し、「将来大物になるかもしれない」とジェレミーを認めたのだった。
生還を果たしたジェレミーは相当恐ろしい目に遭ったのだろう。彼は森の中で何があったか決して口を割ることは無かったが、剣を片時も離さなくなっていたのだ。
彼の家族は「剣を片時も離さないとは、騎士として素晴らしい姿だ」と感心していたが、私はそうは思えなかった。
もしかして剣を離さなくなったのではなく、手放せなくなってしまったのではないだろうか?
たった12歳の子供が、3日間も血に飢えた野生の獣たちが生息する森の中を彷徨ったのだ。恐らく彼は何度も何度も死の恐怖を味わったに違いない。
私は将来はジェレミーの妻になる。夫婦として一生を共に歩んでいくのだから、彼が悩みを抱えているのなら支えてあげたい。
そこで私はジェレミーの心の内を知るために、クラウン家を訪ねることにした。
屋敷を訪ねると、ジェレミーは中庭で剣術の訓練をしていると使用人に教えてもらった。
そこで言われた通り中庭に行くとジェレミーが剣を抱えてベンチの上でうたた寝している姿を発見した。
寝るのに剣は邪魔になるだろう……そこで私は彼からそっと剣を引き抜くとベンチの下に置いた。
その時、パチリと目を開けたジェレミーは剣が無いことに気付いてパニックを起こしたのだ。
恐怖で泣き叫んでガタガタ震える姿に驚いた私は急いで彼に剣を返した。
すると途端にジェレミーの発作が治まり……彼は俯きながら私に語った。
『あの時以来、剣を持っていないと怖くて怖くてたまらないんだ。勿論家族だって知らない。こんな姿を知られたら、家を追い出されてしまうに決まっている』
その姿があまりにも気の毒で、このことは二人だけの秘密にすると約束したのだ。
『大丈夫。あなたが裏切らない限り、私は誰にもこの秘密をバラさないから』
と――
****
恐らく、ジェレミーは私と交わした約束など覚えていないだろう。だから色々な女性たちと平気で浮気していたのだ。
私はそれでも我慢していた。結局彼女たちはみんな、王室の後ろ盾があるハニー家を恐れて離れていったからだ。
だが、今回ばかりはさすがの私も我慢出来なかった。
よりにもよって、宰相の娘と結婚するなんて許せるはずがない。
「この私を裏切るなんて本当に馬鹿な男ね。フフ……明日の号外が待ち遠しいわ」
この夜、久々に楽しい気持ちで私は眠りに就いた――
ベッドに入るとジェレミーのことを思い出し、つい笑みが浮かんでしまった。
「フフフ……それにしても、今夜は10年ぶりにジェレミーの無様な失態を見ることが出来たわ」
私は10年前のことを思い返した――
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少年時代のジェレミーは、代々騎士の家系であるクラウン家の中で剣術が落ちこぼれていた。日頃から父親や年の離れた兄たちから、厳しい訓練を受けていたものの一向に芽が出ないでいたのだ。
そのことを嘆いたジェレミーの父親は、とうとう恐ろしい試練を与えることにした。
当時、まだ12歳だった彼を長剣1本だけ持たせて狼やクマが出没する森の中に置き去りにしたのだ。生きて森の中を自力で帰ってこいという、何とも厳しい訓練を12歳の少年に突きつけたのだった。
今にして思えば、恐らく父親はジェレミーが森の中で死んでも構わないと考えていたのだろう。既に剣術の腕が立つ3人の息子がいたのだから、弱い息子は必要としていなかったのかもしれない。
けれど、ジェレミーは生き残った。
森に1人放り出されて、3日後。ボロボロになりながらも無事に帰ってきたのだ。
この事実に父親も兄たちも驚愕し、「将来大物になるかもしれない」とジェレミーを認めたのだった。
生還を果たしたジェレミーは相当恐ろしい目に遭ったのだろう。彼は森の中で何があったか決して口を割ることは無かったが、剣を片時も離さなくなっていたのだ。
彼の家族は「剣を片時も離さないとは、騎士として素晴らしい姿だ」と感心していたが、私はそうは思えなかった。
もしかして剣を離さなくなったのではなく、手放せなくなってしまったのではないだろうか?
たった12歳の子供が、3日間も血に飢えた野生の獣たちが生息する森の中を彷徨ったのだ。恐らく彼は何度も何度も死の恐怖を味わったに違いない。
私は将来はジェレミーの妻になる。夫婦として一生を共に歩んでいくのだから、彼が悩みを抱えているのなら支えてあげたい。
そこで私はジェレミーの心の内を知るために、クラウン家を訪ねることにした。
屋敷を訪ねると、ジェレミーは中庭で剣術の訓練をしていると使用人に教えてもらった。
そこで言われた通り中庭に行くとジェレミーが剣を抱えてベンチの上でうたた寝している姿を発見した。
寝るのに剣は邪魔になるだろう……そこで私は彼からそっと剣を引き抜くとベンチの下に置いた。
その時、パチリと目を開けたジェレミーは剣が無いことに気付いてパニックを起こしたのだ。
恐怖で泣き叫んでガタガタ震える姿に驚いた私は急いで彼に剣を返した。
すると途端にジェレミーの発作が治まり……彼は俯きながら私に語った。
『あの時以来、剣を持っていないと怖くて怖くてたまらないんだ。勿論家族だって知らない。こんな姿を知られたら、家を追い出されてしまうに決まっている』
その姿があまりにも気の毒で、このことは二人だけの秘密にすると約束したのだ。
『大丈夫。あなたが裏切らない限り、私は誰にもこの秘密をバラさないから』
と――
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恐らく、ジェレミーは私と交わした約束など覚えていないだろう。だから色々な女性たちと平気で浮気していたのだ。
私はそれでも我慢していた。結局彼女たちはみんな、王室の後ろ盾があるハニー家を恐れて離れていったからだ。
だが、今回ばかりはさすがの私も我慢出来なかった。
よりにもよって、宰相の娘と結婚するなんて許せるはずがない。
「この私を裏切るなんて本当に馬鹿な男ね。フフ……明日の号外が待ち遠しいわ」
この夜、久々に楽しい気持ちで私は眠りに就いた――
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