期間限定の悪役令嬢

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
38 / 45

エピソード36 記憶にありません

しおりを挟む
「こ、こ、これは・・・?」

分からない、何も覚えていないけれども・・身体中に付けられたキスマークにズキズキ痛む下半身。そして汚れたシーツ・・・。

「ま・・間違いないわ・・わ、私・・・アレクに抱かれた・・?」

思わずコックを捻り、熱いシャワーを出すと私は頭から熱いシャワーを被った。髪も身体もくまなく荒い、バスタブにお湯を張って身体を沈めて・・・ようやく少しだけ冷静になれた。
お湯の中で膝を抱えて必死で昨夜の出来事を思い出そうとしたのに・・・アレクにおんぶされたところから先の記憶がプツリと切れている。

「そんな・・・一体アレクはどういうつもりで意識の無い私を抱いたのよ・・・。」

本来なら怒って然りなのかもしれない。これは犯罪だと訴えてもいい程のレベルだと思う。だけど私は・・・不思議とそんな気持ちにはなれなかった。いや、むしろこんな形で自分の初めてを失いたくは無かった。

「アレクのバカ・・・どうせなら私の意識のある時に・・捧げたかったのに・・。」

思わず口に出して、顔が真っ赤になってしまう。

「いやだいやだいやだ!こ、これじゃ・・・アレクに抱いてもらいたいと前から願っていたみたいじゃないのっ!」

頭をブンブン振ると溜息をついて天井を見上げた。だけどどうして・・・。

「目が覚めるまで・・傍にいてくれなかったのよ・・酷いよ、アレク・・・。」

そして私は浴槽に頭を沈めた―。



****

 「う~ん・・・・。」

 バスルームから出てきた私は着る服に苦慮していた。だって身体のあちこちにキスマークがついているから、うかつに着る事が出来ないのだから。

「もう・・首元が隠せないじゃない・・・。」

どうしてよりにもよって首筋に何か所もキスマークを付けてくれるのだろう?

「こうなったら・・・最後の手段!」

私はチェストの引き出しを開けた―。



水上コテージのレストランのビュッフェで私はフォスティーヌに声を掛けられた。

「おはよう、リアンナ。」

「あ、おはよう、フォスティーヌ。あれ・・・?今朝は王子様は一緒じゃないの?」

トングでお皿にクリームパスタを取りながらフォスティーヌに尋ねた。

「ええ・・それがね何だか急用ができたからと言って、今朝早くに自家用ジェットで一度国に帰ってしまったんですって。勿論アレクも一緒にね。」

「え?アレクも?」

思いがけずアレクの名前が出てきて、私は耳まで真っ赤になってしまった。

「ん?どうしたの?リアンナ?」

フォスティーヌはシリアルに牛乳を掛けながら尋ねてきた。

「う、ううん。何でもないよ。」

フイとフォスティーヌから視線を反らすも、フォスティーヌはそれを許さない。

「嘘っ!絶対何かあったに決まってるっ!」

私はフォスティーヌの追求から免れる為、朝食の乗ったトレーを持って席に移動すると、当然の如くフォスティーヌもついてきて、同じ席に座ってしまった。

「フォスティーヌ・・・。」

私は溜息をつくと、突然フォスティーヌが私のスカーフに手を掛け、グイとスカーフをずらし・・・言った。

「キスマーク・・・。」

「!」

私はその言葉に耳まで真っ赤になってしまった。

「え・・?う、嘘でしょう・・・?リアンナ・・・ひょとして・・ついに・・?」

奥手な私と違って16歳の時に初体験を済ませているフォスティーヌは目を見開いた。

「お・・・おめでとう!それで、相手は誰なの?やっぱり・・アレクなんでしょう?」

「う、うん・・・多分・・・。」

「多分?何それ・・・。」

フォスティーヌは首を傾げる。

「だ、だって・・・・私・・私、何も覚えていないんだものっ!」

「え・・ええ~っ?!」

・・今度はフォスティーヌが驚く番だった―。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

《メインストーリー》掃除屋ダストンと騎士団長《完結》

おもちのかたまり
恋愛
王都には腕利きの掃除屋がいる。 掃除屋ダストン。彼女の手にかかれば、ごみ屋敷も新築のように輝きを取り戻す。 そんな掃除屋と、縁ができた騎士団長の話。 ※ヒロインは30代、パートナーは40代です。 ♥ありがとうございます!感想や応援いただけると、おまけのイチャイチャ小話が増えますので、よろしくお願いします!メインストーリー完結しました!今後おまけが増えますので、連載中になってます。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

ある日、悪役令嬢の私の前にヒロインが落ちてきました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【どうやら私はこの世界では悪役令嬢と呼ばれる存在だったらしい】 以前から自分を取り巻く環境に違和感を覚えていた私はどうしても馴染めることが出来ずにいた。周囲とのぎこちない生活、婚約者として紹介された相手からは逃げ回り、友達もいない学園生活を送っていた私の前に、ある日自称ヒロインを名乗る人物が上から落ちてきて、私のことを悪役令嬢呼ばわりしてきた――。 ※短めで終わる予定です ※他サイトでも投稿中

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...