余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

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第109話 教会で待っていたもの

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 2人で向かい合って座る馬車の中、カイが言った。

「アゼリア、今日は晴れて良かったね」

「ええ、本当に。雲ひとつ無い青空だし、風は心地よいし…外出にピッタリの日和だわ」

「うん。本当に僕もそう思うよ」

カイは笑みを浮かべると、私の右手を握りしめてきた。

「アゼリア、きっと今日は…忘れられない特別な1日になると思うよ?」

「カイ…」

何故、カイはそんな大げさな言い方をするのだろう?でも…考えて見れば私の身体は病に蝕まれて余命半年を切っている。あまり時間が残されていない私は、毎日を大切に慈しみながら生きていこうと心に決めていた。だからカイもそのような言い方をしたのかもしれない。

「ええ、そうね。今日という日は…きっと今を生きる私にとって忘れられない1日になるはずよね?」

そして私はカイを見て微笑んだ―。



****


 馬車が教会に近づいてくるにつれて、私は異変を感じた。教会付近には何台もの馬車が止まっていたからである。

「カイ…何か変だわ。教会の周囲に沢山馬車が止まっているの。いままではそんな事一度も無かったのに…何かイベントでもあるのかしら?」

振り向いてカイを見ると、カイは笑みを浮かべて言った。

「まだまだ驚くのはこれからだよ?」

「え…?それは一体どういう意味なの…?」

そして再び窓の外に目を移し、私は驚いてしまった。何とそこには今迄見た事も無いほど立派な馬車が教会の側に止められていたからだ。黒塗りの車体には金の縁飾り、車輪も黄金色で馬車を引く2頭の馬は美しい白馬だった。

「カ、カイ…あの馬車は一体…?」

あまりにも豪華な馬車に思わず目を丸くする私にカイはクスクスと笑いながら言った。

「あの馬車はね、王家の馬車だよ」

「え?王家の…?」

戸惑っていると馬車が停車した。

「着いたよ、降りよう。アゼリア」

「え、ええ…」

カイは私を抱きかかえると、馬車から降りた。すると教会の入り口には私の知っている人達が勢ぞろいしていた。教会の子どもたちと2人のシスター。お父様、お母様…それにハイム家の人達にヨハン先生やケリー。オリバーさんにベンジャミンさん、さらにはイングリット様やスターリング侯爵夫人…そして…。

「カイ、アゼリア。待っていたぞ。今日は2人を祝福しにやってきたよ」

私達の前に進み出てきた方は…一度だけ王宮にご挨拶の時にお会いした事のある国王陛下だった。まさか、国王陛下がこんな小さな教会にいらしていたなんて…。それに集まった人々…これは一体…?けれどもまずは陛下にご挨拶をしなければ…。

「国王陛下…。ご、ご機嫌麗しく…」

慌てて頭を下げると、国王陛下は優しく微笑み、私を見つめて頷いた。

戸惑う私を抱きかかえたままのカイが口を開いた

「父上、本日は僕とアゼリアの為に足を運んで頂き、誠にありがとうございます」

「当然のことだろう?こんなおめでたい日なのだから」

「え…?おめでたい…?」

一体どういうことなのだろう…?首を傾げていると国王陛下がカイに言った。

「おいおい…カイ。まさかまだアゼリアに何も伝えていなかったのか?」

「ええ。教会に着いてから…アゼリアに伝えようと思っていたのです」

「?」

首を傾げる私にカイは言った。

「アゼリア、今日はね…僕とアゼリアの結婚式をこの教会で執り行うんだよ」

「え…?け、結婚式…?!」

私はその言葉に耳を疑った。

「そうだよ。その為に…以前から皆に協力してもらっていたんだ」

カイが皆の方を振り返ると、そこにいる全員がが笑みを浮かべて手を振ってくれている。

「あ…」

私の目に思わず涙が浮かぶ。まさか皆がそんな事をしてくれていたなんて…。するとカイが言った。

「アゼリア、僕達も…準備をしよう?」

「ええ…!」

私はカイの腕の中で涙を拭うと笑みを浮かべた―。



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