余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

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第107話 どうか最期まで

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 馬車に揺られて30分程が経過した。辺りの景色は緑豊かな閑静な住宅街になっている。綺麗に舗装された石畳の路面の周囲は綺麗な芝生に覆われ、大きな家々が建ち並んでいる。

「ここは自然もあって、綺麗な家並みね」

窓の外を眺めながらカイに話しかけた。

「気に入ってくれたかい?もうすぐ僕達が一緒に暮らす家に到着するよ」

カイは優しい笑みを浮かべて私を見る。

「本当?楽しみだわ」

「僕達とアゼリアの両親が一緒に暮らす家には10人の使用人たちが一緒に暮らす事になっているんだ。アゼリアにもアゼリアの御両親にも1人ずつ、お世話してくれる使用人が付いているよ。2人は料理担当で、残りの使用人たちが家事全般を担ってくれることになっているんだ。全員優秀だから何不自由なく快適に暮らせるはずだよ」

カイが説明してくれた。

「ありがとう。私だけでなく、両親の事まで気遣ってくれて…」

「僕にとってはアゼリアの御両親も、アゼリアと同じ位大切な方だからね。何しろ僕の義理の御両親になる方なのだから」

 義理の御両親…。
カイの言葉に自然と顔が赤くなる。白血病と診断され、余命半年と宣告を受けたあの頃は世の中全てに絶望し、生きていたいと思える気力すらなかったのに…それが今はこんなにも幸せなんてまるで夢の様だった。残り僅かな命でも私は一生分の幸せを手にする事が出来るとは…あの頃の私には想像もつかなった。

 今までの事を振り返り、感傷に浸っていると、不意に馬車が止ってカイが声を掛けて来た。

「アゼリア、家に着いたよ。降りよう」

「ええ」

私はカイにエスコートされて馬車を降りると、目の前には煉瓦造りの大きな2階建ての家が建っていた。家の周囲の庭は綺麗な芝生に、門から玄関まで石畳のアプローチが続いている。

「屋敷と呼ぶには…小さな家で少し恥ずかしいけど…実はこの家は王家で管理しているゲストハウスなんだよ。今回、アゼリアの為にこの家を借りる許可を父から得たんだよ。」

「カイ、そんな事無いわ。私、この家が好きになったわ。温かみもあるし…それにあまり大きなお屋敷だと…フレーベル家を思い出してしまうから…」

「アゼリア…大丈夫、もう二度と君を脅かす人間は誰もいない。だから安心して暮らせるよ」

カイが私の肩を抱き寄せ、髪に優しくキスしてくれた。そして私に言った。

「アゼリア、実はある国ではね…花嫁を抱きかかえて家に入ると、その花嫁は一生幸せに暮らせるって言われているんだよ」

「まぁ…そうだったの?」

「だから…僕もそれにならおうかと思うんだ」

すると、カイが突然私を抱きかかえた。

「キャアッ」

驚いてカイの首に腕を回すとカイは笑いながら言った。

「ごめん、驚かせてしまったね。だけどアゼリアをこの家に招き入れる時は抱きかかえて家の中に入りたかったんだ」

「カイ…あ、ありがとう…」

思わず赤面する私にカイは言った。

「愛してるよ、アゼリア」

「私も…貴方を愛しているわ」

するとカイは私にそっとキスすると言った。

「それじゃ…行こう。僕達の新居へ」

「ええ」

そして私はカイに抱きかかえられながら新居の門を潜り抜けていく。

私は…今日から、人生最期の時を迎えるまで…この家でカイとお父様、お母様と一緒に暮らす事になるのだ。


限られた時間の中…私の新しい人生の第一歩がここから始まる。

優しい笑顔を向けるカイに抱きかかえられながら、そっと心の中で語り掛ける。

カイ…私が逝くときも…どうか最後まで笑顔で見守っていて下さい―と。

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