余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

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第106話 診療所との別れ

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「アゼリア様、カイザード王太子様がいらっしゃいました」

支度が終わり、リビングの椅子に座っているとケリーとヨハン先生が現れた。その背後にはカイが立っている。

「おはよう、アゼリア。迎えに来たよ」

「カイ、その…ま、待っていたわ」

思わず頬が赤らむ。私のそんな様子を見ると、カイは優しげに言った。

「診療所の外に迎えの馬車が待っているんだ。早速行こうか?」

カイが私に手を伸ばしてきた。

「はい」

差し出された手にそっと触れると力強く握りしめられる。そして私はカイに連れられて診療所の外へと出た―。



「それではカイザード王太子様。アゼリアの事…どうぞよろしくお願い致します」

馬車の前でヨハン先生がカイに挨拶をした。

「ええ、勿論です。アゼリアは僕にとって大切な女性ですから」

大切…カイの言葉に再び顔が赤くなってしまう。

「アゼリア様、また会いに行きますからね?お身体労って下さい」

ケリーが涙ぐみながら私の手を握りしめてくる。

「心配しなくても大丈夫だよ。ケリー。屋敷にはアゼリアの面倒を見てくれる人達がすでにいるからね」

カイの言葉にケリーが頭を下げた。

「はい、カイザード王太子様。アゼリア様を…どうぞよろしくお願い致します」

ケリー…。
ケリーとお別れするのは寂しいけれども、今やケリーはこの診療所にいなくてはならない重要な存在となっていた。だからケリーは自ら望んでここに残ることを決めたのだった。

「それじゃ、そろそろ行こうか?アゼリア」

「はい」

カイにエスコートされて馬車に乗り込むと、カイもすぐに馬車の乗り込んだ。御者が扉を閉めると、カイは窓を開けてくれた。

「アゼリア、またすぐに往診に行くからね。毎日薬は欠かさず飲むんだよ?」

ヨハン先生の言葉に頷いた。

「はい、毎日欠かさずお薬を飲みます」

「アゼリア様、必ず会いに行きますからね」

「ええ、待っているわ」

そして一通り挨拶が済むと、馬車はガラガラと音を立てて走り出した―。



****


 私が今乗っている馬車は今迄ずっと乗ってきた辻馬車とは比べ物にならない位に立派なものだった。フカフカの椅子に振動が殆ど無い馬車はとても快適だった。そして…私の向かい側の席には…愛する男性が座っている。

「…何だか夢みたいだわ…」

思わずポツリと呟くと、カイが笑みを浮かべながら言った。

「これは夢じゃないよ。現実の世界だからね」

「ええ…だけど、まさか私のような者との結婚を…国王陛下がお許しになるなんて…」

するとカイが言った。

「アゼリア…アークライト家はね、男女問わず全員が王位継承者の資格を持つんだよ。皆がある一定の年齢に達したら家を出て…身分を隠して、外国の学校に通い…18歳までに大学を卒業出来なければ脱落者として王族の身分を剥奪されてしまうんだ。その代わりに…全ての条件を達成することが出来れば、大抵の希望は通るんだよ。僕の望みは君と結婚することだったから、父にすぐ申し出たけど…当然反対はされなかったよ。お前の好きにするといいって。それどころか…アゼリアを幸せにするようにと言われたんだ」

「カイ…」

するとカイは私の手をそっと取り、手の甲に口づけすると言った。

「君を愛している。例え、それが2人にとって限られた時間だとしても…後悔なんかしたくないんだ」

「あ、ありがとう…カイ…」

思わず涙ぐむと、向かい側に座っていたカイが隣に座ってきた。そして私を抱きしめると言った。

「最期まで…どうかアゼリアの側にいさせてくれないか?」

「はい…側にいて下さい…」

すると、カイの身体が少しだけ離れると顔を近付けてきた。

瞳を閉じた私に…カイはそっとキスをしてきた。

カイ…愛しています。

…私が逝く最期の時まで…どうか少しでも長く、カイの側にいられますように…。

私は心の中で祈りを捧げた―。
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