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第105話 準備期間
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翌日からウォルター様による私の貧血の治療が開始された。血液検査の結果、私は血液型がA型であることが判明したそうだ。そしてウォルター様はA型の輸血用の血液を診療所まで運び、自室で貧血を改善させるための輸血が始まった。
輸血の治療と同時に、止血効果のある漢方薬も併用し…徐々に私の体調は良くなっていった。
そして治療を初めて5日目の木曜日の朝8時―。
「アゼリア、カイザード王太子様がそろそろ迎えに来る頃だよ?用意は出来ているかい?」
ヨハン先生の声で扉をノックする音が聞こえてきた。
「はい、大丈夫です。どうぞお入り下さい」
ドレッサーの前に座っていた私は返事をした。
「入るよ」
カチャリと扉が開かれ、ヨハン先生は部屋の中に入って来た。
「アゼリア…すっかり顔色も良くなったし、以前に比べると元気になったね。そうしていると病人には見えないくらいだよ」
ヨハン先生が私を見ると笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。自分でも以前と比べて身体が嘘のように軽くなったのが分かります。体力も戻ってきました」
「うん、輸血の治療がこんなに効果があるとはすごいよね」
感心した様子のヨハン先生に私は言った。
「輸血の治療もそうですが、ヨハン先生が処方して下さった漢方薬も効果があったと思います。本当にありがとうございます」
頭を下げると、ケリーが声を掛けてきた。
「本当にアゼリア様はお元気になられましたよね?髪の艶も良くなった気がします。益々お綺麗にもなられましたよ?」
「そ、そうかしら…」
ケリーの言葉に思わず赤くなりながら、鏡に映る自分を見る。…確かに以前に比べれば、顔色も格段に良くなり、食欲も少しずつ出てきたので頬が少しふっくらしてきた。ほんの5日でここまで改善されるとは思わなかった。
「アゼリア、今日からカイザード王太子様と…ご両親と一緒に暮らす事になるけれども…毎日必ず点滴と輸血の治療は受けて貰うからね?僕とウォルター先生と交代で屋敷に往診に行くからね?」
「はい、分かりました。それで…あの、お願いの方ですが…」
遠慮がちに言うと、ヨハン先生が頷いた。
「うん、大丈夫。分かっているよ。教会に行きたいんだろう?いいよ、許可するよ。大分体力もついてきたしね。それで…教会へは誰と行くのかな?」
「はい。カイとお父様と…それにお母様です。私はお母様には無理をしてもらいたくはないので一応やめたほうがいいのではないかと声を掛けたのですが、どうしても私を拾ってくれた教会にお礼が言いたいと言っております。なので、4人で行こうと思っています」
するとヨハン先生が少し考えてから言った。
「実は…これは僕からの提案なんだけどね…どうせなら皆で行かないか?僕だってあの教会で育ったんだ。それにオリバーや…ベンジャミンもね。尤もベンジャミンは…僕達と一緒に教会に行ってみたいと思うかどうかは不明だけど、少なくともオリバーは声を掛ければ、一緒に行くと言い出すと思うんだ…どうかな?」
「皆で一緒に教会に…」
それはとても素晴らしい話に思えた。
「いいですね…。皆で教会へ遊びに行って…シスターや子どもたちとおしゃべりしたいです」
「そうだね。それじゃ…皆で行こう。アゼリアが元気な間がいいからね…どうだろう?これは僕からの提案なんだけど…今度の日曜日に皆で教会に行ってみないかい?」
「今度の日曜日…」
随分急な話かもしれないが…私は今は元気だけど、それは表面上に過ぎない。貧血を抑える治療で気力が湧いてきているだけで、根本的な病の治療法ではない。
「どうしたんだい?」
ヨハン先生が尋ねてきた。
「いいえ、何でもありません。日曜日ですよね?是非行きたいと思います。善は急げ…ですよね?」
笑みを浮かべてヨハン先生を見た。
私にはもうあまり時間が残されていない。なるべく…私の大切な人達と少しでも長く一緒に同じ時を過ごしたい―。
そう、これは…穏やかな死を迎える為の…準備なのだ。
私は心の中で、自分にそう言い聞かせた―。
輸血の治療と同時に、止血効果のある漢方薬も併用し…徐々に私の体調は良くなっていった。
そして治療を初めて5日目の木曜日の朝8時―。
「アゼリア、カイザード王太子様がそろそろ迎えに来る頃だよ?用意は出来ているかい?」
ヨハン先生の声で扉をノックする音が聞こえてきた。
「はい、大丈夫です。どうぞお入り下さい」
ドレッサーの前に座っていた私は返事をした。
「入るよ」
カチャリと扉が開かれ、ヨハン先生は部屋の中に入って来た。
「アゼリア…すっかり顔色も良くなったし、以前に比べると元気になったね。そうしていると病人には見えないくらいだよ」
ヨハン先生が私を見ると笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。自分でも以前と比べて身体が嘘のように軽くなったのが分かります。体力も戻ってきました」
「うん、輸血の治療がこんなに効果があるとはすごいよね」
感心した様子のヨハン先生に私は言った。
「輸血の治療もそうですが、ヨハン先生が処方して下さった漢方薬も効果があったと思います。本当にありがとうございます」
頭を下げると、ケリーが声を掛けてきた。
「本当にアゼリア様はお元気になられましたよね?髪の艶も良くなった気がします。益々お綺麗にもなられましたよ?」
「そ、そうかしら…」
ケリーの言葉に思わず赤くなりながら、鏡に映る自分を見る。…確かに以前に比べれば、顔色も格段に良くなり、食欲も少しずつ出てきたので頬が少しふっくらしてきた。ほんの5日でここまで改善されるとは思わなかった。
「アゼリア、今日からカイザード王太子様と…ご両親と一緒に暮らす事になるけれども…毎日必ず点滴と輸血の治療は受けて貰うからね?僕とウォルター先生と交代で屋敷に往診に行くからね?」
「はい、分かりました。それで…あの、お願いの方ですが…」
遠慮がちに言うと、ヨハン先生が頷いた。
「うん、大丈夫。分かっているよ。教会に行きたいんだろう?いいよ、許可するよ。大分体力もついてきたしね。それで…教会へは誰と行くのかな?」
「はい。カイとお父様と…それにお母様です。私はお母様には無理をしてもらいたくはないので一応やめたほうがいいのではないかと声を掛けたのですが、どうしても私を拾ってくれた教会にお礼が言いたいと言っております。なので、4人で行こうと思っています」
するとヨハン先生が少し考えてから言った。
「実は…これは僕からの提案なんだけどね…どうせなら皆で行かないか?僕だってあの教会で育ったんだ。それにオリバーや…ベンジャミンもね。尤もベンジャミンは…僕達と一緒に教会に行ってみたいと思うかどうかは不明だけど、少なくともオリバーは声を掛ければ、一緒に行くと言い出すと思うんだ…どうかな?」
「皆で一緒に教会に…」
それはとても素晴らしい話に思えた。
「いいですね…。皆で教会へ遊びに行って…シスターや子どもたちとおしゃべりしたいです」
「そうだね。それじゃ…皆で行こう。アゼリアが元気な間がいいからね…どうだろう?これは僕からの提案なんだけど…今度の日曜日に皆で教会に行ってみないかい?」
「今度の日曜日…」
随分急な話かもしれないが…私は今は元気だけど、それは表面上に過ぎない。貧血を抑える治療で気力が湧いてきているだけで、根本的な病の治療法ではない。
「どうしたんだい?」
ヨハン先生が尋ねてきた。
「いいえ、何でもありません。日曜日ですよね?是非行きたいと思います。善は急げ…ですよね?」
笑みを浮かべてヨハン先生を見た。
私にはもうあまり時間が残されていない。なるべく…私の大切な人達と少しでも長く一緒に同じ時を過ごしたい―。
そう、これは…穏やかな死を迎える為の…準備なのだ。
私は心の中で、自分にそう言い聞かせた―。
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