余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

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第104話 私の願い

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 ウォルター様が帰った後、また1人になった私はベッドの中で目を閉じて外の音に集中した。時折聞こえてくる馬車の走る音…小鳥のさえずり…残り僅かな命の私にとって、それら全てが愛おしく感じる。

「こうして静かな部屋で外の音を聞いていると…生きているという事を実感するわ…」



「アゼリア…入っていいかい」

突如、ノックの音とヨハン先生の声が聞こえた。

「あ、どうぞ」

また私は眠っていたようだ。

扉が開かれると白衣姿のヨハン先生が現れた。

「アゼリア、点滴が終わった頃だと思って様子を見に来たよ」

ヨハン先生に言われて、点滴の容器を見ると確かに空になっていた。

「終わっているね。よし、それじゃ針を抜くとしよう」

「はい、お願いします」

傍らの椅子に座ったヨハン先生に私は腕を差し出した―。



「アゼリア、ウォルター先生から貧血の治療の話は聞いているかい?」

点滴を外し終えるとヨハン先生が尋ねてきた。

「はい、聞いています」

「そうか。明日には輸血の治療を受けることがで出来るそうだよ。本当に良かったね。以前までは輸血なんて治療は夢のまた夢だったからね」

「そうなのですか?」

「ああ、でも安全に輸血出来る方法を発見したらしいんだよ、本当に医療の進歩というのは早いね」

「私達患者にとっては嬉しいことですね」

「そうだね。…ところでアゼリア、点滴のお陰かな?顔色が良くなっているよ?」

「本当ですか?でも…言われてみると確かに点滴を入れる前と後では体調に変化が出たように感じます。少し元気が出たみたいです」

「そうかい、それは良かった。そう言えばケリーがあまり食欲のないアゼリアの為に大好きなアップルパイを焼いてくれたよ。食べるかい?」

「まぁ、アップルパイですか?嬉しいです。食べます」

「そうか、なら丁度お昼の時間だし…部屋に持ってきてもらおうか?」

ヨハン先生の言葉に首を振った。

「いいえ、厨房で食べます。…もうあまりヨハン先生やケリーと一緒にいられる時間も残されていないので…」

「アゼリア…」

ヨハン先生の顔が曇った。あ…まさか勘違いさせてしまったかもしれない。

「あ、違います。そうではありません。もうすぐ診療所を出て、アークライト家の別宅で暮らすことになるので…つまり、そういう意味で言っただけですから」

「そうか…なら良かった。僕はてっきり…」

そこまで言うとヨハン先生は言葉を切った。

「それじゃ、僕は先に厨房へ行っているよ。ケリーにアゼリアは今日は下で食事をすると伝えておくから」

「はい、宜しくお願いします」

ヨハン先生は笑みを浮かべると、立ち上がって部屋を出て行った。

パタンと扉が閉じ、また私は1人部屋に残された。

「さて…起きてみましょう」

いきなり起き上がって、貧血を起こさないように私はゆっくり起き上がった―。




****

トン…トン…トン…

手すりにつかまりながら慎重に階段を降りていると足音を聞きつけたのか、ケリーが姿を見せた。

「ヨハン先生から今日は下でお昼を召し上がると聞いて迎えに行こうと思っていたのですが…まさかお一人でいらっしゃるとは…」

「フフフ…驚いた?私1人で歩けたわ」

私は何とも無いように笑みを浮かべた。本当は降りてくる間に軽い貧血を起こしたけれども、余計な心配を掛けさせたくは無かった。

「アゼリア様。あまり無理はなさらないで下さいね。私にお掴まり下さい」

「ありがとう」

ケリーに支えながら、2人で厨房へ行くとヨハン先生が既に椅子に座って待っていた。

「アゼリア、まさか本当に1人で降りてきたのかい?」

「はい、私少し元気になりましたから」

椅子に座りながら笑顔で答える。

「そうか…それは良かった。でもあまり無理はしないようにするんだよ。貧血の治療はまだ始まっていないのだから」

「はい、分かっています。それで…ヨハン先生にお願いしたいことがあるのですが…」

「お願い…?」

「はい」

私は最後の望みをヨハン先生に伝えることにした―。

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