余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

文字の大きさ
上 下
62 / 73
連載

第102話 私の新たな望み

しおりを挟む
 午前9時―

 今日はウォーター様が11時に往診に来てくれる日だった。ヨハン先生は診察の合間に様子を診に来てくれる事になっている。ここ数日で貧血が進み、身体を起こしているのもつらい状況の私をケリーは甲斐甲斐しく世話を焼いてくれている。

「アゼリア様、お身体の具合はいかがですか?」

朝食を運んできてくれたケリーが尋ねてきた。

「そうね…大丈夫…。と言いたいところだけど…正直あまり良くはないわ」

あまり食欲がない私の為に作ってくれた甘みのあるミルク粥を口に運びながら返事をする。ヨハン先生の最初の診察では私の余命は後5ヶ月…。だけどそれまでこの弱った身体が持つだろうか…?

「アゼリア様、どうされましたか?」

ケリーが尋ねてくる。

「いいえ、何でも無いわ。あのね、食べるのに時間が掛かりそうだから…私に構わず仕事しに行っていいわよ?色々と忙しいでしょうから」

「ですが…」

「私なら大丈夫だから。ね?行って頂戴」

「はい…すみません」

ケリーは頭を下げると部屋から出て行った。パタンと扉が閉じられると私はため息をついた。

「ふぅ…最近、いくらベッドで休んでも…身体がだるいわ…」

その時―。

「!」

鼻の奥から鉄のような匂いを感じた。慌ててベッドサイドから鼻血を抑えるための布を鼻に当てた瞬間、ジワリと赤い血が布に吸い込まれていく。
…また鼻血が出てしまった。最近、鼻血の量が増えてしまった。その為、貧血が悪化し、何かにつかまらなければ、1人で歩くこともままならない状況になっていた。

「私は…後、どれくらい生きられるのかしら…」

私は思った。人と言うものは何て欲が深いのだろうと。病気を宣告された当時は死ぬのが怖くて誰にも知られないところで1人で涙にくれていた。そして自分には生きる希望も何も無いのだということを悟った時…どうせ私が死んでも悲しむ人は誰もいないだろうから、いつ死んでしまっても構わないと思っていた。
けれどもマルセル様に助け出されて、ようやく安住できる場所が見つかった後から…少しずつ欲が出てしまったのだ。本当のお父様とお母様に会いたい…。私に優しくしてくれたカイにも会ってお礼を伝えたいと思うようになっていた。その願いも叶ったというのに…。
私にはまた一つ、叶えたい願いが出来ていた。

「鼻血…止まったみたいね」

押さえていたガーゼを外すと、出血は止まっていた。そこで私は血で染まった布を誰にも見られないように古新聞紙でくるんでゴミ箱に捨てると、ミルク粥を再び食べ始めた。


「…ごちそうさま」

何とか完食し、ベッドサイドのテーブルにお皿を乗せると、再びベッドに横たわった。

「シスターエレナ…私の事心配しているかしら」

思わずポツリと呟いた。教会の子どもたちにはまた遊びに来ると約束したのに、まだ一度もその約束を果たしていない。シスターアンジュは子どもたちに私の事を尋ねられて困っているかも知れない…。

「こんなに身体が弱っていなければ…教会にだって行けたかも知れないのに…」

私は…子どもたちとの約束を果たすことも出来ず、死んでしまうのだろうか…。
そして、そっと目を閉じた―。


****

「…アゼリア様、アゼリア様」

すぐ近くでケリーの声が聞こえる。ゆっくり目を開けると、心配そうに私を見つめるケリーの姿があった。

「ああ…ケリー…。ごめんなさい…私、いつの間にか眠っていたみたいね…」

「お休みの所、起こしてしまい申し訳ございません。マルセル様のお父様がいらしています」

「まぁ、もうそんな時間だったのね…。すぐに起きるわ」

すると扉の奥で声が聞こえてきた。

「いいよ。わざわざ起き上がらなくても」

そして大きなバッグを持ったウォルター様が現れた。

「こんにちは、アゼリア。あまり具合がよく無さそうだね。診察に来たよ」

「こんにちは、ウォルター様。横になったままで申し訳ございません」

「いや、いいんだよ。そのままで」

ウォルター様は傍らの椅子に座った。

「それでは私は失礼致しますね」

ケリーが部屋から去ると、ウォルター様が言った。

「さて、アゼリア。いきなりだが…貧血の治療を受けてみる気は無いかい?」

貧血の治療…それは私にとって、嬉しい朗報だった―。
しおりを挟む
感想 1,474

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。