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マルセル・ハイム 22
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アゼリアとカイを残し、俺は部屋を後にした。階段の下には心配そうな表情をしたケリーが立っていた。
「ケリー。そこにいたのか?」
階段を降りながら声を掛けた。
「はい。皆様の事が心配で…それでどうなったのでしょうか?」
「ああ、計画通りに事が運んだよ。俺とアゼリアの会話をカイが部屋の外で聞いていた。アゼリアの気持ちはカイに伝わったよ。後は…これからどうするかは2人が決めることだろう?それじゃ、俺はもう帰るよ」
「え?もう帰ってしまうのですか?アゼリア様とカイザード王太子様とお話はされていかないのですか?」
ケリーが目を見開いて尋ねてきた。
「ああ、いいんだ。どう考えても…俺は2人の邪魔者だ。そうは思わないか?」
自分で言って置きながら、何故か酷く胸が痛む。
「マルセル様は…それで宜しいのですか?その…本当はマルセル様はアゼリア様の事を…」
ケリーが涙目になって俺を見つめている。
「何故そんな顔をする?ケリーが気に病むことは何も無いだろう?」
「で、ですが…」
俯いて肩を震わせているケリーを1人残して自宅に帰ることが何故かためらわれてしまった。
「そうだな…。ケリーの淹れてくれたお茶を飲んでから帰るのも悪くないかもな」
「はい!心を込めてお茶をお淹れしますっ!」
ケリーは笑顔で答えた―。
****
「どうぞ、マルセル様」
ケリーが応接室の椅子に座った俺のテーブルの前に紅茶を注いだティーカップを置いてくてれた。カップからは湯気と共にオレンジの香りがする。
「これは…オレンジティーかい?」
「はい、市場で買ってきたオレンジを絞っています」
「ありがとう、頂くよ。ヨハン先生は仕事かい?」
「はい、今は患者様の診察をしています。今日はそれほど混んではいないのでお手伝いはしなくて良いと言われています」
「そうか…。ケリーに時間があるならお茶の話し相手になって貰えると嬉しいかな」
するとケリーが笑みを浮かべて答えた。
「はい!喜んで!」
ケリーは早速自分の分の紅茶を淹れてくると部屋に戻ってきた。
「失礼致します」
俺の向かい側にケリーが座った。
「それじゃ、いただこうかな」
「え?まだ飲まれていなかったのですか?」
「ああ、ケリーを待っていたからね」
「そうでしたか…ありがとうございます」
早速カップを手に取り、一口飲んで見る。オレンジの甘酸っぱい酸味が紅茶によく合っていた。
「うん、美味しいよ」
「そうでしたか。良かったです」
ケリーも紅茶を飲むと俺に話しかけてきた。
「マルセル様は…アゼリア様に気持ちを伝えた事があるのですか?」
「いや…無いよ」
本当はアゼリアに自分の本心を告げたかった。初めて会った時から恋に落ちていたと…。しかし、言う前にアゼリアから婚約破棄してもらいたいと告げられてしまった。その話を聞いた途端、俺がここで告白しても彼女の重みになってしまうのは分かりきっていた。不治の病に侵されたアゼリアに心の負担を掛けさせたくは無かった。
「俺が仮に告白してもアゼリアを困らせるだけだろう?何しろ俺は最低な婚約者だったのだから。もっとアゼリアを気にかけていれば…フレーベル家の人間たちの言葉を鵜呑みにしていなければこんな事にはならなかったのに…」
「ですが…アゼリア様が病気になったのはマルセル様のせいではありませんよ?それを言うなら私だって…誰よりも側で…アゼリア様のお世話をしていたのに…何も出来ませんでした」
再び涙ぐみケリーに俺は言った。
「ケリーには本当に感謝しているよ。アゼリアを世話してくれていたから…まだ彼女はこの世に生きていられているんだ。俺は…そう思うよ」
「マルセル様…」
「アゼリアの為にも…何か画期的な治療法があればいいのに…」
「そうですね…」
部屋の中は…重苦しい空気が流れていた―。
****
その日の夜のこと―
自室で明日の仕事の準備をしていると、扉がノックされた。
「マルセル、いるか?」
父の声だった。
「はい、おります」
するとすぐに扉が開かれ、スーツ姿の父が部屋に入ってきた。気のせいか…いつもより父が高揚している気がする。父はソファに座ると言った。
「お前に話がある。座ってくれ」
「はい」
向かい側のソファに座ると父が口を開いた。
「マルセル、白血病による貧血に良い治療法が見つかった。アゼリアは今かなり貧血が進んでいるらしいが…この治療法で改善することが出来そうなんだ。これで少しはアゼリアの身体が楽になるはずだよ」
父の顔には笑みが浮かんでいた―。
「ケリー。そこにいたのか?」
階段を降りながら声を掛けた。
「はい。皆様の事が心配で…それでどうなったのでしょうか?」
「ああ、計画通りに事が運んだよ。俺とアゼリアの会話をカイが部屋の外で聞いていた。アゼリアの気持ちはカイに伝わったよ。後は…これからどうするかは2人が決めることだろう?それじゃ、俺はもう帰るよ」
「え?もう帰ってしまうのですか?アゼリア様とカイザード王太子様とお話はされていかないのですか?」
ケリーが目を見開いて尋ねてきた。
「ああ、いいんだ。どう考えても…俺は2人の邪魔者だ。そうは思わないか?」
自分で言って置きながら、何故か酷く胸が痛む。
「マルセル様は…それで宜しいのですか?その…本当はマルセル様はアゼリア様の事を…」
ケリーが涙目になって俺を見つめている。
「何故そんな顔をする?ケリーが気に病むことは何も無いだろう?」
「で、ですが…」
俯いて肩を震わせているケリーを1人残して自宅に帰ることが何故かためらわれてしまった。
「そうだな…。ケリーの淹れてくれたお茶を飲んでから帰るのも悪くないかもな」
「はい!心を込めてお茶をお淹れしますっ!」
ケリーは笑顔で答えた―。
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「どうぞ、マルセル様」
ケリーが応接室の椅子に座った俺のテーブルの前に紅茶を注いだティーカップを置いてくてれた。カップからは湯気と共にオレンジの香りがする。
「これは…オレンジティーかい?」
「はい、市場で買ってきたオレンジを絞っています」
「ありがとう、頂くよ。ヨハン先生は仕事かい?」
「はい、今は患者様の診察をしています。今日はそれほど混んではいないのでお手伝いはしなくて良いと言われています」
「そうか…。ケリーに時間があるならお茶の話し相手になって貰えると嬉しいかな」
するとケリーが笑みを浮かべて答えた。
「はい!喜んで!」
ケリーは早速自分の分の紅茶を淹れてくると部屋に戻ってきた。
「失礼致します」
俺の向かい側にケリーが座った。
「それじゃ、いただこうかな」
「え?まだ飲まれていなかったのですか?」
「ああ、ケリーを待っていたからね」
「そうでしたか…ありがとうございます」
早速カップを手に取り、一口飲んで見る。オレンジの甘酸っぱい酸味が紅茶によく合っていた。
「うん、美味しいよ」
「そうでしたか。良かったです」
ケリーも紅茶を飲むと俺に話しかけてきた。
「マルセル様は…アゼリア様に気持ちを伝えた事があるのですか?」
「いや…無いよ」
本当はアゼリアに自分の本心を告げたかった。初めて会った時から恋に落ちていたと…。しかし、言う前にアゼリアから婚約破棄してもらいたいと告げられてしまった。その話を聞いた途端、俺がここで告白しても彼女の重みになってしまうのは分かりきっていた。不治の病に侵されたアゼリアに心の負担を掛けさせたくは無かった。
「俺が仮に告白してもアゼリアを困らせるだけだろう?何しろ俺は最低な婚約者だったのだから。もっとアゼリアを気にかけていれば…フレーベル家の人間たちの言葉を鵜呑みにしていなければこんな事にはならなかったのに…」
「ですが…アゼリア様が病気になったのはマルセル様のせいではありませんよ?それを言うなら私だって…誰よりも側で…アゼリア様のお世話をしていたのに…何も出来ませんでした」
再び涙ぐみケリーに俺は言った。
「ケリーには本当に感謝しているよ。アゼリアを世話してくれていたから…まだ彼女はこの世に生きていられているんだ。俺は…そう思うよ」
「マルセル様…」
「アゼリアの為にも…何か画期的な治療法があればいいのに…」
「そうですね…」
部屋の中は…重苦しい空気が流れていた―。
****
その日の夜のこと―
自室で明日の仕事の準備をしていると、扉がノックされた。
「マルセル、いるか?」
父の声だった。
「はい、おります」
するとすぐに扉が開かれ、スーツ姿の父が部屋に入ってきた。気のせいか…いつもより父が高揚している気がする。父はソファに座ると言った。
「お前に話がある。座ってくれ」
「はい」
向かい側のソファに座ると父が口を開いた。
「マルセル、白血病による貧血に良い治療法が見つかった。アゼリアは今かなり貧血が進んでいるらしいが…この治療法で改善することが出来そうなんだ。これで少しはアゼリアの身体が楽になるはずだよ」
父の顔には笑みが浮かんでいた―。
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