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第100話 生まれてはじめての…
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「アゼリア…ごめん。また…来てしまったよ」
カイは申し訳無さそうな顔で私に言った。
「カ、カイ…」
まさか、今の話…聞かれていた…?
「俺は…席を外すから、後は2人で話すといい」
マルセル様は立ち上がり、小声で私にそっと言った。
「アゼリア、自分の気持ちに素直になったほうがいい」
「!」
驚いてマルセル様を見上げると、優しげな笑みを浮かべて私に背を向けるとカイの元へ近づいていく。そして言った。
「アゼリアの事…宜しくお願いします」
「…ああ」
その言葉に小さく頷くカイ。マルセル様は一度だけ私の方を振り返るとそのまま部屋を出ていってしまった。
パタン…
扉が静かに閉じ、部屋には私とカイの2人きりとなった。
「アゼリア…近くに行ってもいいかな?」
扉の近くに立っていたカイが遠慮がちに尋ねてきた。
「え、ええ…」
かろうじて返事をするものの、それ以上の言葉が口から出てこない。カイは無言で私の近くに来ると、先程までマルセル様が座っていた椅子に座った。
…どうしょう。
私がカイのことを好きだという気持ちが…カイに知られてしまった。恥ずしくてどんな顔をすれば良いか分からず、俯いていると不意に名前を呼ばれた。
「アゼリア…顔を見せてくれないか?」
「!」
その言葉に一瞬、肩がピクリと動いたが…ソロソロと顔を上げると、そこには満面の笑みを称えたカイがじっと私を見つめていた。
「アゼリア…さっきの言葉だけど…あれは本心なんだよね?」
「そ、それは…」
思わず言い淀むものの、もうごまかすことは出来なかった。何故ならカイを見ているだけで胸がドキドキして、とても幸せな気持ちがこみ上げてくるからだ。
だから私は正直に答えた。
「ええ…本当です。私は…カイが好きです」
答えると、右手をそっと握りしめられた。
「嬉しいよ、アゼリア…本当にありがとう。僕の気持ちを受け入れてくれて」
「カイ…」
思わず顔に笑みが浮かびかけるものの、首を振ると言った。
「でも…駄目なの。カイ」
「駄目…?何が駄目なんだい?」
カイの右手を握りしめる手に力がこもる。
「私の余命は…もう半年を切ってしまったの。他の人にも…ヨハン先生にもまだ話してはいないけれども…確実に病気が進行していると思うの。私、貴方には迷惑をかけたくは無いから…側には…」
すると、カイが私の右手を引き寄せ、気づけば私はカイに抱きしめられていた。
「!」
生まれて初めてお父様以外の男の人に抱きしめられ、思わず顔が赤くなる。
「だから?迷惑をかけられないから側にはいられない…そう言うつもりかい?」
「だ、だって…」
カイの規則正しく脈打つ心臓の音が耳元で聞こえ、私の鼓膜を震わす。自分の心臓の鼓動がドキドキと高まり、カイにバレてしまうのではないかと思うと、ますます顔が赤くなる。
「アゼリア…君が不治の病と言われる白血病にかかっていても…それでも僕は構わない。今、アゼリアの側にいられることが…僕の幸せなんだ。」
「で、でも…貴方はこの国の王太子で…もっと別に相応しい女性がいるはず…」
するとカイは私の髪に顔をうずめると言った。
「王太子という身分が…アゼリアの重荷に感じるなら、王位なんかいらない。僕には他に弟が3人いるんだ。全員が王太子候補なんだよ。アゼリアを諦めるくらいなら、王位を手放したって構わない」
「カイ…」
本当に?カイはそこまで私の事を…?その時、カイが言った。
「愛してる」
「え…?」
今、何て…?
「時間が限られている?それが何だって言うんだい?明日の事は誰も皆分からない。大事なのは今なんだよ。もう一度言うよ。アゼリア。僕は君を愛している。どうか側にいさせてくれないか…?」
『愛してる』
この言葉を私が誰かに言ってもらえる日が来るとは思ってもいなかった。フレーベル家にいた頃は家族にも、使用人たちにも辛い目に遭わされていた。私はあの屋敷で完全に嫌われ者だった。
だから私は一生誰かに愛して貰える事は無いだろうと思っていたのに…。
「わ、私も…カイを愛しています」
気づけば口から言葉が出ていた。
「アゼリア…」
カイの身体が私から離れ、そっと顎に手を添えられた。そしてカイの顔が近づいて来る。
カイ…。
目を閉じた私にカイがキスをしてきた。
それは…私の生まれて初めてのキスだった―。
カイは申し訳無さそうな顔で私に言った。
「カ、カイ…」
まさか、今の話…聞かれていた…?
「俺は…席を外すから、後は2人で話すといい」
マルセル様は立ち上がり、小声で私にそっと言った。
「アゼリア、自分の気持ちに素直になったほうがいい」
「!」
驚いてマルセル様を見上げると、優しげな笑みを浮かべて私に背を向けるとカイの元へ近づいていく。そして言った。
「アゼリアの事…宜しくお願いします」
「…ああ」
その言葉に小さく頷くカイ。マルセル様は一度だけ私の方を振り返るとそのまま部屋を出ていってしまった。
パタン…
扉が静かに閉じ、部屋には私とカイの2人きりとなった。
「アゼリア…近くに行ってもいいかな?」
扉の近くに立っていたカイが遠慮がちに尋ねてきた。
「え、ええ…」
かろうじて返事をするものの、それ以上の言葉が口から出てこない。カイは無言で私の近くに来ると、先程までマルセル様が座っていた椅子に座った。
…どうしょう。
私がカイのことを好きだという気持ちが…カイに知られてしまった。恥ずしくてどんな顔をすれば良いか分からず、俯いていると不意に名前を呼ばれた。
「アゼリア…顔を見せてくれないか?」
「!」
その言葉に一瞬、肩がピクリと動いたが…ソロソロと顔を上げると、そこには満面の笑みを称えたカイがじっと私を見つめていた。
「アゼリア…さっきの言葉だけど…あれは本心なんだよね?」
「そ、それは…」
思わず言い淀むものの、もうごまかすことは出来なかった。何故ならカイを見ているだけで胸がドキドキして、とても幸せな気持ちがこみ上げてくるからだ。
だから私は正直に答えた。
「ええ…本当です。私は…カイが好きです」
答えると、右手をそっと握りしめられた。
「嬉しいよ、アゼリア…本当にありがとう。僕の気持ちを受け入れてくれて」
「カイ…」
思わず顔に笑みが浮かびかけるものの、首を振ると言った。
「でも…駄目なの。カイ」
「駄目…?何が駄目なんだい?」
カイの右手を握りしめる手に力がこもる。
「私の余命は…もう半年を切ってしまったの。他の人にも…ヨハン先生にもまだ話してはいないけれども…確実に病気が進行していると思うの。私、貴方には迷惑をかけたくは無いから…側には…」
すると、カイが私の右手を引き寄せ、気づけば私はカイに抱きしめられていた。
「!」
生まれて初めてお父様以外の男の人に抱きしめられ、思わず顔が赤くなる。
「だから?迷惑をかけられないから側にはいられない…そう言うつもりかい?」
「だ、だって…」
カイの規則正しく脈打つ心臓の音が耳元で聞こえ、私の鼓膜を震わす。自分の心臓の鼓動がドキドキと高まり、カイにバレてしまうのではないかと思うと、ますます顔が赤くなる。
「アゼリア…君が不治の病と言われる白血病にかかっていても…それでも僕は構わない。今、アゼリアの側にいられることが…僕の幸せなんだ。」
「で、でも…貴方はこの国の王太子で…もっと別に相応しい女性がいるはず…」
するとカイは私の髪に顔をうずめると言った。
「王太子という身分が…アゼリアの重荷に感じるなら、王位なんかいらない。僕には他に弟が3人いるんだ。全員が王太子候補なんだよ。アゼリアを諦めるくらいなら、王位を手放したって構わない」
「カイ…」
本当に?カイはそこまで私の事を…?その時、カイが言った。
「愛してる」
「え…?」
今、何て…?
「時間が限られている?それが何だって言うんだい?明日の事は誰も皆分からない。大事なのは今なんだよ。もう一度言うよ。アゼリア。僕は君を愛している。どうか側にいさせてくれないか…?」
『愛してる』
この言葉を私が誰かに言ってもらえる日が来るとは思ってもいなかった。フレーベル家にいた頃は家族にも、使用人たちにも辛い目に遭わされていた。私はあの屋敷で完全に嫌われ者だった。
だから私は一生誰かに愛して貰える事は無いだろうと思っていたのに…。
「わ、私も…カイを愛しています」
気づけば口から言葉が出ていた。
「アゼリア…」
カイの身体が私から離れ、そっと顎に手を添えられた。そしてカイの顔が近づいて来る。
カイ…。
目を閉じた私にカイがキスをしてきた。
それは…私の生まれて初めてのキスだった―。
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